仕事の領域を明らかにしよう!武器としての教育法規(3)

元北海道公立中学校校長

森万喜子

仕事をしていると、これは誰に言えばよいのだろう? 自分はどこまでやればよいのだろう? と思いながらも力関係に流されてパンクしそうになる……ということもあるのではないでしょうか。法的根拠をもとにまずはそれらを明らかにして、基本的な線引きはしておきましょう。長く教員を続ける上で、自分の心身を守るためにも必要な知識です。

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<プロフィール>
森万喜子(もり・まきこ) 北海道生まれ。北海道教育大学特別教科教員養成課程卒業後、千葉県千葉市、北海道小樽市で美術教員として中学校で勤務。教頭職を7年勤めた後、2校で校長を勤め、2023年3月に定年退職。前例踏襲や同調圧力が大嫌いで、校長時代は「こっちのやり方のほうがいいんじゃない?」と思いついたら、後先かまわず突き進み、学校改革を進めた。「ブルドーザーまきこ」との異名を持つ。校長就任後、兵庫教育大学教職大学院教育政策リーダーコース修了。

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学校の原材料はなんだろう?

みなさんがお菓子を買ったとき、商品をひっくり返して後ろを見ると、原材料名が書いてあると思うのです。小麦粉、バター、砂糖……など、いろいろ書いてあります。もしも学校にそういうパッケージがあったとしたら……、ひっくり返して裏を見たら、原材料の欄に何が書いてあると思いますか?

その答えは法律です。実は学校は様々な教育法規でできています。

今回は、その中から学校とはどんなところなのかがわかるものをご紹介します。

学校教育法

「一条校」という言葉を聞いたことがないでしょうか。この言葉の意味が分かる若い先生はあまりいないと思うのです。学校教育法の第一条に、「学校とは何か」が書いてあります。

●学校教育法第一条
この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。

この1条に載っている学校は、「一条校」と呼ばれます。私が子どものときには、義務教育学校や中等教育学校はありませんでした。特別支援学校という言葉もなくて、養護学校や聾学校などと言われていたのです。

塾や専門学校などは、学ぶ場所ですが、ここに入っていないから「一条校」ではない、ということを知っておきましょう。

続いて、学校を設置するのは誰だと思いますか?

●学校教育法第二条
学校は、国、地方公共団体及び私立学校法第三条に規定する学校法人のみが、これを設置することができる。

先生方はなんでもかんでも不都合があると「文部科学省が悪い」と言いがちですが、それは間違っています。例えば、「うちの学校のトイレがボロい」「産休で休んだ先生の代わりの人が来ない」「図書館司書がいない」のは、文部科学省のせいではありません。市町村立の学校の設置者は、国ではないからです。つまり、これらの問題は、設置者である市町村の教育委員会に言わなければ、改善されないのです。

市町村の教育委員会は、学校に対して指導をするだけの組織だと思っている若い先生は多いかもしれませんが、いろいろな課があります。学校が雨漏りしたら修繕に来るのは教育委員会の施設課の人です。

このように学校教育法は、学校の教師として働く人にとって、非常に重要です。学校とは何か、学校の設置者は誰か、それから、校長の仕事は何か、教員の仕事は何かなどが、書かれています。若い先生は頭から読んでいくといいと思います。

特に、若い先生に知っておいてほしいのは、学校教育法の第二章の義務教育のところです。みんなが大きな勘違いをしているからです。

●学校教育法第十六条
保護者は、次条に定めるところにより、子に九年の普通教育を受けさせる義務を負う。

義務教育という言葉が間違った形で世間に広がっていて、大人は子供に「義務教育なんだからしっかり勉強しろ」、「義務教育の間は学校へ行け」などと言ったりします。しかし、法律を読むとわかるように、子供の義務ではありません。子供に教育を「受けさせる」のは親の義務だ、と書いてあります。ですから、本当は「義務教育」ではなくて、「教育義務」なのです。

教育基本法

教育とは、学校教育だけではありません。あと二つあります。何だと思いますか?

学校教育のほかに、家庭教育と社会教育があります。学校の先生たちが陥りがちなのは、「教育は学校が全部やるものだ」と思い込んでしまうことです。その意識が、「働き方改革」を阻害しています。

●教育基本法 家庭教育
第十条 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるように努めなければならない。

子どもは、学校だけで育てるものではなく、家庭と社会、みんなで協力して育てるものです。そして、子どもの教育の一番の責任者は保護者だと法律に書いてあります。ですから、学校の方針と家庭の方針が対立したときは、家庭の方針を優先していいのです。つまり、「子どもをなんとかしなければ」と学校だけが頑張らなくてもいいということです。

1日24時間ある中で子どもが学校で過ごすのはせいぜい6時間です。残りの18時間は家にいるわけです。土日や、夏休み、冬休み、春休みも入れたらもっと減るので、子どもが1年間に学校で過ごす時間を計算してみると、大体20%か25%程度ではないかと思います。

私は若い先生たちに「家庭教育、社会教育、学校教育ってあるけど、あなたを作ったのは何?」と聞くことにしています。そうすると大抵は、親の教え、家庭の教育方針、おばあちゃんの教えなどを挙げます。「学校が僕を作った」という人はあまりいません。人間の成長に影響を与えるものは、やはり家庭が大きいのです。

だから、どうか気を楽にしてくださいね。「子どもの人生を担っているのだ」などと、気負いすぎないように。そして「やりすぎ教育」で子どもたちの育ちの芽をつみとらないように。

学校図書館法

学校の中には理科室、家庭科室、校長室、職員室……など、いろいろな部屋がありますが、図書室という名称ではありません。学校図書館です。学校図書館法という法律でそう決められています。校長室法も職員室法もありませんが、学校図書館法だけはあります。

●学校図書館法
第一条 この法律は、学校図書館が、学校教育において欠くことのできない基礎的な設備であることにかんがみ、その健全な発達を図り、もつて学校教育を充実することを目的とする。

学校図書館は「欠くことのできない基礎的な設備である」とありますし、第三条には、「学校には、学校図書館を設けなければならない」と書いてあります。ですから、どんなに小規模の学校でも学校図書館は必ずあります。私は司書教諭をしていたので、図書館経営にあまり興味のない校長先生に対して、この法律を突き付けて、「法律で決まっているんですからちゃんと整備しましょうよ」とお願いしたことがあります。

そして、第五条には「学校には、学校図書館の専門職務を掌らせるため、司書教諭を置かなければならない※」とあります。司書教諭と図書館司書は違うことも、学校図書館法に書いてあります。

※注:司書教諭設置の特例があるので、配置されていない学校もあります。

学校管理規則

例えば、みなさんは、始業式の日を誰がどうやって決めているか知っていますか? それについては各自治体の「学校管理規則」に書いてあります。

学校管理規則とは、自治体ごとに教育委員会が決めているものです。夏休みは何日間で、冬休みは何日間で、両方足して何日であるとか、始業式は、何日から何日の間に行わなければならないなどと決まっています。

私が教職大学院で学んでいたとき、いろいろな自治体の学校管理規則を比較するという実習があったのですが、自治体によって内容が全然違うので驚きました。ものすごく詳しく書いてあるところもあれば、あっさりしているところもあります。各自治体のホームページで公開されていますので、比較してみるとおもしろいと思います。

取材・文/林孝美


いかがでしたか? 教員免許の試験以来、教育法規に見向きもしてこなかった! という人は、久しぶりに『教育小六法』を新調して、職員室の机に置いてみるのはどうでしょうか? 新年度、みなさんのますますのご活躍をお祈りしています!

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