「学級じまいに絆づくりの総仕上げ」対話型授業と自治的活動でつなぐ 深い絆の学級づくり #12

連載
対話型授業と自治的活動でつなぐ 深い絆の学級づくり

千葉県公立小学校校長

瀧澤 真
対話型授業と自治的活動でつなぐ 深い絆の学級づくり

コロナ禍以降、コミュニケーションに苦労する子供や人間関係の希薄な学級が増えていると言います。子供たちが深い絆で結ばれた学級をつくるには、子供同士の関わりをふんだんに取り入れた対話型授業と、子供たちが主体的に取り組む自治的な活動が不可欠です。第12回は、学年末に行うべき最後の絆づくりについて解説します。

執筆/千葉県公立小学校校長・瀧澤真

感謝すること、されることを感じられる子供に育てよう

1年間、「深い絆の学級づくり」について連載してきました。今回はいよいよ最終回です。

学年末に今さら学級の絆を深めても……と思うかもしれません。しかし、人との絆を深める経験は、子供たちがこれからの人生を生きていく上での糧になるのではないでしょうか。そして、我々教師の仕事はそうした、種まきをすることなのではないでしょうか。

ですから、最後の1日まで、子供たちが人との絆を深めるような機会を設けていきましょう。

さて、改めて根本的なことを考えてみましょう。人と絆を結ぶために必要なことは何でしょうか。いろいろとあるとは思いますが、その中で特に重要なのは、人への信頼ではないでしょうか。

この仲間は信じられる、この人なら頼ることができる。そういう他者への肯定的な感情をもっている人は、様々な人と絆を深められるでしょう。これは、その逆を考えると、より明らかです。人間不信な人が、他者と絆を深められると思いますか。

他者への肯定的な感情を育むために有効な手立ての1つに、「感謝」があります。

自分は1人で生きているのではない、他者によって支えられているのだと「感謝」の気持ちをもつこと。また、自分が他者の役に立っていると「感謝」されること。この両面の感謝を感じることができれば、相互の信頼感が高まっていくのではと思っています。

そこで、まずは「感謝」の意味について考えます。

まずは「ありがとう」について考えよう

互いに感謝し合う子供

人に感謝するときに使う言葉は何でしょうか?

学級の子供たちに、このように問いかけます。子供たちは、「ありがとう」だとすぐに分かります。

では、「ありがとう」を漢字でどう書くのか聞きましょう。これは難しいので、すぐに答えを教えます。

(板書し)「有り難う」ですね。

担当学年によってはまったく読めない字もあるでしょうが、そのまま示します。

次に、この言葉を解説します。

「有り難う」というのは、「有り難い」という言葉からできた言い方です。有り難いというのは、「有るのが難しい」ということで、その意味は、「それは当たり前ではない、難しいことだよ」ということです。

例えば、友達が君の落としたものを拾ってくれたとします。友達が君の落としたものを拾ってくれるのは当たり前ですか? 違うよね。わざわざ他のことをやめて拾ってくれたんじゃないかな。だからそんなに簡単なことではない、当たり前じゃない、有り難いこと。そこで、君は「ありがとうございます」と感謝を伝えるんだ。

君が当たり前だと思っていることでも、よく考えたら、本当は感謝しなければいけないことがたくさんあるのではないかな。そういうことを探して、たくさん「ありがとう」を言いたいね。

こんな話をしてから、次のことに取り組みます。

「互いに感謝する会」を開こう

2023年の連載「保護者を味方にする学級経営術 #13」で、学級じまいとして、学級解散パーティーを提案しましたが、そのプログラムの1つに、この「互いに感謝する会」を加えてほしいのです。

具体的にはこのように進めます。

【互いに感謝する会】進め方

①1週間前に、「互いに感謝する会」を開くことを伝える。
・感謝したいことをよく探しておくように子供たちに話す。
②全員にクラス名簿を配る。
③数日時間を設け、子供たちは氏名の横に感謝したいことを書く。
・例えば、「いつもクラスを明るくしている」など。
・複数書いてもよい。
・できるだけ多くの人に感謝の言葉を書く。
・教師は、気付いたことをどんどん書き込むように話す。
④教師が集約する。必要に応じ教師が感謝したいことを付け足す。
⑤学級解散パーティーの中で、一人一人に感謝の言葉を伝える(教師が読んで聞かせる)。

子供によって多い少ないが出てしまうので、少ない子については教師がたくさん書き足しましょう。ここでどのくらい書き足すことができるのか。それはあなたがどのくらい子供たちを見ていたのかが試される場でもあります。どうしても言葉が浮かばない場合は、「リフレーミング」で検索すると、ネガティブな言葉をポジティブに言い換える例が見付かりますので、参考にしましょう。 

例えば、「おとなしい」子がいるとします。「おとなしい」というのは、見方を変えると、「冷静、物事をじっくり考える」ということです。そこで、「いつも冷静に、物事をじっくりと考えて過ごしてくれたので、学級が落ち着きました。ありがとう」と伝えるのです。

どの子も輝く! 通知表の書き方&所見文例集』(明治図書出版)に、私が作成した「ネガポジ言い換え一覧」を掲載していますので、そちらも参考になります。

感謝の手紙を書こう

子供たち一人一人に感謝の手紙を書く女性教師

もう1つ取り組みたいのは、教師から子供に感謝の手紙を書くことです。

学級じまいした後に、いつまでも前担任を引きずっているような状態は望ましくありません。しかし、美しく別れることも大切です。先生への信頼が、他者への信頼にもつながるのです。

さほど長い手紙である必要はありません。

まさとさんの優しい笑顔を見ると、先生はいつも幸せな気持ちになりました。本当にありがとう。その笑顔をいつまでも忘れずにいてください。まさとさんが、これからも元気いっぱいに楽しい学校生活を送ることを願っています。さようなら。

この程度でよいでしょう。ここで何を書くか、書くことができるのか、それは自分がどんな学級経営を行ってきたかの振り返りでもあります。ほとんど書くことが浮かばないとしたら、感謝する会の部分でも述べましたが、子供の見取りが足りなかったということになります(反省し、ぜひ来年の学級経営に生かしてください)。

この手紙を最終日に通知表と一緒に一人一人に、「ありがとう」の言葉と共に手渡しましょう。多くの子はこのことをいずれ忘れてしまうでしょう。それはそれでいいのです。でも、かすかにでも先生との絆が残る子がいるかもしれません。その細い絆が、いつか役立つことがあるかもしれません。そんな思いを残しつつ、また、次の子供たちとの絆を結んでいきましょう。

1年間、ありがとうございました。


千葉県公立小学校校長・瀧澤真先生

瀧澤真(たきざわ・まこと)●千葉県公立小学校校長。1967年埼玉県生まれ。千葉県公立小学校教諭、教頭、袖ヶ浦市教育委員会学校教育課長などを経て現職。木更津技法研主宰。著書に『WHYでわかる!HOWでできる!国語の授業Q&A』(明治図書出版)、『道徳読み活用法』(さくら社)、『職員室がつらくなったら読む本。』(学陽書房)など、多数。

イラスト/イラストAC

【瀧澤真先生執筆 連載】
学級担任の時短術(全12回)
保護者を味方にする学級経営術(全13回)

【瀧澤真先生ご著書】
まわりの先生から「むむっ!授業の腕、プロ級になったね」と言われる本。(学陽書房)
まわりの先生から「おっ!クラスまとまったね」と言われる本。(学陽書房)

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