小中連携は、中学校がリーダーシップを ~教育リーダー対談⑤山本成利 【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #31】
教師と子供、子供同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第31回「コミュニケーション科」の授業は、<小中連携は、中学校がリーダーシップを ~教育リーダー対談⑤山本成利>です。
やまもと・なるとし。山梨県甲斐市立敷島中学校校長。1964年甲斐市生まれ。
目次
中学生が小学生に出前授業
菊池 中学生が小学生に「中学校生活」を紹介する出前授業、生徒会役員の3年生が先生役を担い、母校の3つの小学校に出向いて、6年生全員に中学校生活を紹介する取組はすごくいいですね。
(敷島中学校生徒会の出前授業は、「菊池省三の『コミュニケーション力が育つ教室づくり』」 #40 #41 #42 をご参照ください)
山本 授業後、「あんな中学生になりたい」と感想を書いてくれる小学生が多かったです。
自分の考えをしっかり持って、自分の言葉で、しかも優しく語ってくれる先輩の姿を見て、自分もそうなりたいと感じてもらえるのが何より嬉しいですね。
授業を見ていた小学校の先生の中には、発表した中学生の小学校時代を知っている人もいます。「3年間でこんなに大きく成長してすてきになった」とほめ言葉をもらえました。
菊池 中学生たちの成長の “事実” のインパクトは大きいですね。小学生にとっても、小学校の教師にとっても。
山本 生徒会の子供たちは、小学生以上に学んだのではないかと思います。
伝えることの難しさを感じながらも、菊池先生が振ってくれてアドリブで答えられた即興力。子供たちの姿を見て、「ああ、こんなに話せる子たちなんだ」とあらためて思いました。自分たちが学んできた中身があるからこそ、語れるんですね。
菊池 中学生の出前授業は、小中連携の1つの柱になりますね。
山本 はい。小学生が「ああいう中学生になりたい」という憧れを持てれば、小学校と中学校の関係がよくなるだろうと感じました。
小学校で人間関係がうまくいかず、その苦しみを引きずったまま中学校に来る生徒もいます。そういう生徒たちがコミュニケーションの楽しさを実感できるようになるには、中学校の3年間だけでは限界があります。
人間関係を築き、その上に学びを作っていかないと主体的・対話的で深い学びはできないし、子供たちによる自治活動もできません。
人間関係づくりという土台をしっかりするために、小中連携は欠かせないと思っています。
そして、小中連携は、中学校がリーダーシップを取らないと進まないと実感しています。
菊池 小学校では難しいと?
山本 そうです。
小学校の校長だったときに小中連携を試みましたが、遅々として進まなかった苦い経験があります。
小学校の説明をしても、「うちはこうだから」でおしまい。文化も考え方も空気感そのものが全く違いました。小規模校でせっかく小学校と中学校が同じ校舎にいるのに、ただ同じ屋根の下にいるだけでした。
中学校側が変わらないと、小学校は変わりませんし、変われません。子供たちは小学校から中学校に進むわけだから、中学校側がリーダーシップを取って進めていくと、小学校にとっては説得力があるので、小中連携が進めやすいんですね。
菊池 そもそも授業観を変えることは、小学校より中学校の方が実現しやすいのではないでしょうか。
小学校の場合、担任が変わろうとしなければ、その学級は絶対に変えられません。しかし、中学校の場合、教師が変わろうとすれば、担任として、担当する教科として取り組むことができます。様々な角度から従来の授業観にメスを入れることが可能だと思います。
山本 なるほど、確かにそうですね。
学級づくりを研究課題の大きな柱の1つに
菊池 出前授業を、中学生が行う。
普段、中学校では聞き役で教わっていた立場から、教える話す立場になる。
準備したものを出すだけでなく、その場でも考えて言葉で伝える。
自分で考えて発する言葉に、小学生が感銘を受けたのは、中学生自身に “実”(じつ)があったからです。
そのためには、中学生の子供たちにどんな力をつけたいですか?
山本 今の中学生は、同調圧力に押しつぶされそうになっています。
みんなと異なることを言ったり行ったりしていじめの対象になることを極端に恐れ、多数に流されて過ごそうとするため、苦しくなっている生徒が増えているんです。
我が校も例外ではありません。各種調査の結果、どの学年でもどの学級でも対人ストレスが高いことがわかりました。
このような状況を変えなければならないと思い、学級づくりを研究課題の大きな柱の1つにしました。そして取り組んでいるのが「フリートーク」です。
菊池 フリートークはどんな形で行っているのですか?
山本 帰りの会の5分間ほどを使って、「好きなスポーツ」「男子と女子はどっちが得か」など、テーマに沿って生徒たちが自由にトークを行います。 テーマを出すのは教師ですが、生徒たちがリクエストしたり、生徒自身がテーマを考えたりしているクラスもあります。
最初は雑談から始めますが、慣れてくると質問し合ったり、徐々に内容が深まっていくようです。
前任校では、出前授業で中学生が6年生にフリートークを説明したところ、フリートークに取り組み始めてくれた小学校もありました。敷島中は今年度が初めてなので、これを機に取り組んでくれる小学校があればいいなと思っています。小学校と中学校の研究主任や学年主任が手を結んで進めていければ、と考えています。
菊池 コミュニケーションの土台作りとしても、フリートークの成果は大きいと思います。小学校でも中学校でも、是非取り組んでほしいですね。
山本 実際、ペア学習のスピードは増すし、対話的な授業がスムーズにできるようになりました。
学習者主体の授業を支えるインフラ
菊池 「自分の教科があるから」と言い訳し、なかなか協働的な学びに入れない教師がいます。
けれども、協働的な学びに入れない一番の要因は、“教師が子供を信じていない” ことではないでしょうか。子供を信じなければ、子供に任せられませんから。
先生方も自らフリートークをしてみることで、対話的な学びがスムーズにできることや、子供の力を信じることにつながっていくはずです。
上(教師)から下(子供)のベクトルだけでなく、横(子供同士)のベクトルを信じることが大切なのではないでしょうか。
山本 「授業は、教師と子供みんなでつくる」という学習者主体の授業にしていくには、それを支えるベースがなければなりません。
子供たちが教師に相談できない、わからないことを「わからない」と言えない授業は、学習者主体の授業になるはずがありません。そのためには、子供も教師もコミュニケーション力をつけることが必要不可欠だと思います。
菊池 雑談、会話、対話、議論。この4つの話合いの中で、雑談と会話は、テーマ性や問題解決的な学びの要素はありません。そのため、対話や議論と比べて軽視されがちですが、学級づくりの下地となる “インフラ” としては重要な役目を担っているのです。相手を見て聞く、うなずきやあいづちは思いやり、関係性を豊かにする、こうしたコミュニケーションのインフラが詰まっているのです。
このインフラがないまま、教科書に沿っていきなり対話、議論を行ってもできるわけがありません。高すぎるハードルに、子供たちは「わからん」「できない」と拒否反応を示すのです。
山本 そうですね。フリートークを行う際にも、教師がそこを意識しなければ、ただやらせているだけになってしまいます。
菊池 インフラは長い目で見ていかなければできません。1時間の授業で指導することではなく、日常的に取り組んでいかなければ育たないのです。
研究課題としてフリートークに取り組むと、ともすればテーマ決めや時間配分、グループ分けなど個々ばらばらに進めてしまうようになります。個々を点で進めるのではなく、子供の人間関係や教師の考え方なども含めた複合的な視点で進めていくことが大切です。
山本 正解がない中で、みんなで悩んでお互いに情報交換をして取り組んでいく。「子供たちにとって大切だから」という思いを足がかりに進めていきたいと考えています。
構成/関原美和子
菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。