知っておきたい「音読カード」2つの問題点【先生のための学校】
「音読カードは百害あって一利なしだ! 教師の仕事を家庭に押しつけ、子供を傷つけるのはやめよう。教師の指導による素晴らしい音読を家庭で聞いてもらうことこそ大切なことだ」……そんなことを講演のたびに訴えてきました。私が「音読カードはよくない」という主張をする2つの理由を解説します。
執筆/「先生のための学校」校長・久保齋
くぼ・いつき●1949年、京都府京都市生まれ。京都教育大学教育学部哲学専攻卒業。教育アドバイザー。40年以上にわたり「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(学力研)」において《読み書き計算》の発達的意義について研究するほか、どの子にも均質で広範な学力をつける一斉授業のあり方を研究・実践し、現在も講演活動を中心に精力的な活動を続けている。
目次
音読カードは教育格差を助長する
私が「音読カードはよくない」という主張をする理由の一つは、音読を指導し、子供たちの力を高めるのは教師の仕事であって家庭の仕事ではないということ。もう一つは、音読カードを活用すると、家庭の教育力の差が如実に表れて、家庭の教育力のない子を傷つけるということです。
この私の主張に対する考え方は、「音読カードは家庭と学校が協力して子供の力をつけるよい方法だ。家庭の教育力を引き出し、発揮させるよい方法だ」というものです。確かに、この考え方にも一理あります。しかし私は「家庭の教育力の格差があまりにも大きい現実の中では、 家庭の教育力に頼る教育は格差を助長し、子供たちを傷つける」と考えているのです。
音読カードは子供にも保護者にも負担になる
次に、この問題を自分のクラスの問題として捉え、追実践をしてくださった先生のお話を紹介します。
その愛知県のベテランの先生は、「音読カードで子供の音読はよくなると思い込んでいました。思い込みって恐ろしいですね」と話していました。教師も、子供も、保護者もそれぞれに一生懸命努力しているのに、実は努力の割に成果がない。子供の音読がうまくならない理由がはっきりわかったそうです。それは「音読カード」の取り組みが保護者にも子供たちにも、教師にも「快適」ではない取り組みだということです。音読カードの問題点は次の点にあるとのことでした。
◎親の立場から
・親は専門的な知識がない。
・評価項目についてよくわからない。
・子供にあまい。
・家の仕事が忙しい。
→親はあまいもの、いい加減なもの、そんなもんです(本来、親の仕事じゃないから)。
◎子供たちの立場から
・家に帰ってからも指導されたくない。
・やらされている感が強く、やる気が出ない。
・音読がきらいになる。
・下手な読み方を注意されたくない。
→家ではリラックスしたいよね。親にはかっこつけたいもの。
◎先生の立場から
・宿題を出した以上、提出させなければならないという気持ちから子供を追い込んでしまう。
・宿題忘れをさせないという気持ちから、放課後居残りでさせてしまう。
→本来の意味を見失ってしまう。カードにとらわれる。
問題点の解決
音読カードをやめることで、以下の問題点が解決したそうです。
・音読の練習は家でやるもの。
・宿題を出せばうまくなると思い込んでいる。
・親の仕事だ。
「何となくの思い込みで随分無駄な時間を過ごしてしまったし、子供たちを傷つけていたことは反省の極み」とのことでした。やめてから先生の気持ちが変わったそうです。
<音読は、根拠のある読み取りにつながる大切なステップ。ないがしろにはできない。学校でプロの教師である私がやるしかないという責任感というか、使命感が生まれた。音読カードの発行はやめたが、宿題には出す。出したからには必ず学校でその成果を確認する。やりっぱなしにしないこと。空き時間を活用して苦手な子の個別指導を行う。>
そのような実践をしたことで、学力の低い子に力が付き、クラス全体のレベルが上がったとのことでした。
久保校長からひと言
この先生も強調されていましたが、素直な気持ちで今の自分を見つめ直すこと、疑ってみること、捨てること……。学校現場には思い込み神話がたくさんあるものです。それを子供たちの現実を直視して、本来の目標に直結した取り組みに改善していかなければなりません。そのときのリトマス紙は、子供たちのキラキラ感です。
その取り組みをしたとき、子供たちが「快適な情動」を感じているかどうかで成果は大きく変わってくるのです。ぜひ日常活動の総点検をされてはいかがでしょう。
「先生のための学校」とは
学力研(学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会)の仲間たちと大阪で10年以上続けてきた活動が、<教師力を磨くために教師が集まって学ぶための学校>です。
どんな初歩的なことでも質問できて、それをなぜそうするのかがしっかり学べて、自分の実践をみんなに聞いてもらえて、みんなでワイワイしゃべれて『教育とは何か』『授業とは何か』という本質的なところまで深められる・・・。
そんな「教師の学ぶ場」をつくろうよ!という呼びかけのもとに始まりました。本記事は、そこで培われた知見を紹介する連載企画です。
『小二教育技術』2018年9月号より