教育の原点は?【伸びる教師 伸びない教師 第37回】

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豊富な経験によって培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載。今回のテーマは、「教育の原点は?」です。初めて勤めた学校である特別支援学校での子供たちとの触れ合いや子供たちの一生懸命さが、教育観の根っこになっているというお話です。

執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)

栃木県公立小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を務める。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。

伸びる教師は自分の教育の原点を振り返り、伸びない教師は自分の教育の原点が漠然としている。

自分の気持ちにうそがない子供たち

私が初めて勤めた学校は特別支援学校(旧養護学校)でした。期限付きの講師として臨時採用されました。

その学校は小学部、中学部、高等部があり、私は小学部の低ブロック(1・2年)の担任をすることになりました。私を入れて4人の教師で12人の子供たちの指導に当たりました。

初めてのことが多く、先輩の先生に教えていただきながら何とか毎日を過ごしていた記憶があります。

子供たちは、みんな明るく素直でしたが、中には自分の感情を言葉でうまく表現できない子供もいました。

うれしいときは手を叩きながらぴょんぴょん跳び跳ね、悲しいときや嫌なときは床に寝転がりながら手足をばたつかせ大泣きします。うれしいときも悲しいときも体全体で自分を表現します。自分の気持ちにうそがありません。

それぞれの子にとって苦手なことはたくさんありましたが、毎日何度も同じことを繰り返していくと、本当に小さなことですが、できることが増えていきました。

ある子は、私が目を見てゆっくり「お着替え」と言うと「お着替え」とおうむ返しすることができるようになりました。また、その子のそばにずっといると、今、何をしたいのか、どうしておこっているのかなど、表情や様子を見て大体分かるようになりました。

ある子は、席に座っていることが苦手でした。そばについて声をかけることで座っていることができる時間が長くなりました。また、自分が興味を示さないことでも声をかけると取り組めるようになりました。

ある子は、給食でスプーンを使うことが苦手でした。いっしょにスプーンを持って食べさせたり、ゆっくり食べるよう声をかけたりすることでこぼす量が少なくなりました。

ある子は、着替えが苦手でした。何度も自分で着替えができるようチャレンジしました。私がズボンを目の前に置くと座ってズボンに足を通したり、上着を着るときに自分からばんざいをしたりすることができるようになりました。

できなくなっても一生懸命の子供たち

しかし、どれもこれもすぐにできるようになったわけではありません。

今日できても次の日にはまたできなくなっている、そんなことの繰り返しです。それでも、子供たちはとにかく一生懸命です。

短く切ったストローに糸を通す指先の訓練で、途中で大泣きし、教室から飛び出していってしまう子がいました。それでも「いっしょにがんばろう」「もうちょっとだよ」など、声をかけながら教室に戻ると、涙を拭いた目でストローをじっと見つめながら糸を通しました。

できたときには手を叩いてふたりで喜び、できなかったときにはまたチャレンジしました。

そんなことを繰り返していくうちに、日に日に糸を通せるストローの数が増えていきました。ひとりですべてのストローに1本の糸を通すことができるようになったのは、半年後のことでした。

そんな子供たちとの日々はあっという間に過ぎ、1年後、別の市の小学校に勤務することになりました。

子供たちとのお別れの日、これまでのことが走馬灯のように浮かんできて涙が溢れました。そんな私を見た子供たちは、「どうしたの? 大丈夫?」と声をかけてくれました。おうむ返しができるようになった子は、心配そうに私の顔をのぞき込んでいました。

そんな子供たちのやさしさが心に沁みて涙が止まらなくなりました。

教育の原点は?

こうした特別支援学校の経験はたった1年間でしたが、私自身の教育観の根っこになっています。

私にとっての「良い子」は、勉強や運動ができる子ではないのです。

できないことをできるようにしようとがんばっている子です。

何度失敗してもあきらめずにがんばっている子です。

みなさんの教育の原点は、何ですか。たまに、自分へ問いかけてみるのもよいものです。

構成/浅原孝子 イラスト/いさやまようこ

※第16回以前は、『教育技術小五小六』に掲載されていました。

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