楽しい「動機づけ言葉」で意欲を引き出そう! 子どもたちの明るい大声を響かせる合唱指導のコツ!

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松下隼司の笑って!!エヴリディ
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卒業特集ー6担初心者もこれで安心!ー 
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大阪府公立小学校教諭

松下隼司

学習参観や学習発表会、卒業式に向けて行う合唱指導。子どもたちの意欲がなかったり、声が出ていなかったりして、困ってしまう先生方も多くいるのではないでしょうか。本来音楽とは、「音を楽しむ」ことなのに、「音が苦」になってませんか?
松下先生によると、同じく表現活動であるダンス指導に比べて、合唱指導には工夫が必要なのだそうです。今回も子ども目線から考えた、楽しくて効果抜群な実践をご紹介します!

【連載】松下隼司の笑って!!エヴリディ

1.歌わない子どもへの、教師のイライラ言葉

子どもたちに、次のようなことをイライラして言ったことはありませんか?

「学習発表会まで、あと〇日やで!」
「やる気あるん!?」
「こんな歌声でいいの!?」
「全然、口が開いていない!」
「ボーっと立ってるだけの人がいる!」
「〇年生に負けてるで!」
「上級生が下級生よりも下手でいいの!?」
「自分たちは上級生だろ! 体が大きいだろ!! 声の大きさで負けたらあかん!」

若手の頃、私は上の言葉がけを全てしたことがあります……。

勝ち負けもなく比べる必要もないのに、他の学年に対抗意識を燃やしていました。保護者や同僚、管理職を意識しすぎていました。

そうなのです。
「子どもたちの合唱の出来」=「自分の指導力」「自分の評価」
と思ってしまっていました。

そこには、歌うこと、合唱すること本来の「楽しさ」はありませんでした。「音を楽しむ」はずの音楽が、「音が苦」になってしまっていたと思います。

2.声量が小さくなってしまう理由

合唱指導では、学級経営・学年経営がうまくいっていることが重要です。学級・学年の仲が良く、子ども一人一人が学校で安心して過ごせること、そして、良い意味でまわりに遠慮せずに自分を出せる雰囲気があることが大切なのです。

普段の授業で教科書を小さな声でしか音読できていない学級は、ダンスや合唱の練習でも表現が小さくなります。逆に、子ども一人一人が教室全体に聞こえるような声で意見を発表できる学級・学年は、ダンスや合唱でも大きい表現ができます

声の弱さは、合唱に顕著に表れます。ダンスのほうが、まだましです。なぜならダンスの場合は、「恥ずかしいから」「嫌いだから」「苦手だから」といって小さな動きで踊ると、悪目立ちしてしまうからです。悪目立ちしたくないから、一生懸命に練習することになります。先生にも(保護者にも)見つかりやすく、注意されてしまうので、苦手なりに全力を出さざるをえず、手を抜きにくいのです。

一方、合唱の場合は、自分だけ歌わなくても目立つことはありません。最悪、口パクだけでも遠くから見たら分かりません。「恥ずかしいから歌わない」「苦手だから歌わない」「目立ちたくないから全力を出さない」で済んでしまいます

こういったわけで、「合唱指導はダンス指導よりも工夫が必要」と実感しているのです。

合唱において子どもたちの声量が小さい要因は、他にもあります。次の3つです。

①学級・学年の人数が少ない。
小人数よりも大人数で歌う方が心的負担、プレッシャーが少なくて済みます。特に不安傾向の強い子どもは安心できます。

②深刻ないじめが多発していたり、学級や学年が荒れたりしている。
大きないじめや荒れがあった安心感の欠けた学級・学年では、まわりを信用できず、歌声も小さくなります。

③担任がいつも怒ってばかり、締めつけが厳しすぎる。
いつも怒ってばかりの威圧的な担任の学級だと、子どもたちの声は小さくなってしまいます(若手の頃の私です……)。

3.合唱指導は、楽しさ重視!

「できてない!」
「小さい! もっと大きく!」
「やり直し!」
「手を抜いている人がいる!」

上のような、教師でなくても言えるような言葉がけでも、運動会ダンスの場合は子どもの動きが良くなることがあります。できていない子ども、やっていない子どもがはっきり分かるため、その子たちもきちんとやらざるを得ないからです(ただ、動きは良くなっても、表情はどんどん暗くなります)。

でも合唱指導は、教師がイライラしながら指導すると、余計に表現が小さくなってしまうことが多いのです。叱られて、冷たい雰囲気、ピリピリした緊張感の中でも美しく響く歌声で歌えるのは、プロ(志望)の歌手ぐらいだと思います。

ダンスの練習中には、手を抜いていたり、表現が小さかったりする子どもに教師が近づくと、表現が大きくなることがほとんどです。でも、歌声が小さな子どもの傍に近寄っても、そうなりません。歌声を聞かれたくないので、逆に小さくなってしまうのです。

プロ(志望)の歌手ではない小学生への合唱指導は、とにかく楽しくすることが大切です。

例えば、

もっと、口を開いて歌って!

と言われても、子どもは楽しくありません。

それよりも、

もっと、目を開いて!
もっと、眉を上げて!
もっと、鼻を開いて!

と言われた方が、楽しく感じます。笑顔になります。結果、口を開いて歌うようになります。

あくびして♪

と言うと、子どもは嬉しそうにあくびをします。そして、

その口、あくびの口で歌うよ♪

と言うと、のびのびとした歌声になります。

4.内発的動機づけと外発的動機づけ

歌い方の指導の工夫をするだけでなく、意欲(モチベーション)を高める工夫も大切です。

モチベーションの高め方として、

  • 内発的動機づけ
  • 外発的動機づけ

の2つの動機づけがあります。

内発的動機とは、興味・関心・探求心など、人間の内面的要因によって生まれるものです。「もっと知りたい」「もっと上手くなりたい」「もっと強くなりたい」といった、自分自身の内側から湧き出る気持ちのことです。

外発的動機づけは、ご褒美や評価や罰、叱責など、まわりからの働きかけによって生まれるものです。

「テストで100点をとったら、お家の人からご褒美で100円もらえるから」
「先生に褒められたいから」
「100点じゃなかったら、お家の人に叱られるから」

と思って頑張るのが、外発的動機づけです。

心理学者のエドワード・L・デシが、外的報酬(ご褒美)があることで、内発的動機(やる気)が低下することを、次のような検証実験によって証明しました。

大学生のグループを2つに分け、1つのグループには「時間内にパズルを解けたら1ドル支払う」ことを約束し、もう1つのグループにはそういった約束をせずにパズルを与えました。
すると、時間内にパズルを解けなかったとき、2つのグループではその後の行動が大きく変わることが分かりました。
報酬をもらえる約束をしていたグループは、制限時間を過ぎるとパズルを解くのをやめてしまったけれど、その約束をしなかったグループは、制限時間を過ぎてもパズルを解き続けたのです。
「人を伸ばす力 内発と自律のすすめ」著:エドワード・L・デシ(新曜社)より内容抜粋

この結果から、教育現場でも、内発的動機づけが外発的動機づけよりも重視されるようになりました。

5.合唱指導は、意欲を引き出すことが難しい

学習発表会で合唱をすることになったとします。このとき、教師からの外発的動機づけ(ご褒美や評価、叱責など)がなくても、子どもたちが意欲をもって、合唱の練習に取り組んでくれるのが理想です。

合唱の練習が始まる前には、「どんな合唱にしたいか」「合唱の練習を通して、自分や学級・学年はどんなふうに成長したいか」など、子ども一人一人に目標をもたせるかと思います。少しでも内発的動機につながってほしいからです。

しかし、いざ合唱の練習が始まると、子どもたちの声が出ないという経験をされたことはないですか? 私はあります。

学校での合唱指導は、内発的動機づけをするのがとても難しいのです。そもそも合唱をやりたいと思っておらず、むしろ、「やりたくない!」と強く感じている場合も多い。それが子どもの本心だと、小5の息子と話していて気づきました。

いくら教師が一生懸命に内発的動機づけをしようとしても、合唱は、学校の都合、学校で決められた取組だから、「教師が言うからやっている」のです。

例えばサッカー選手になりたい子どもやサッカーが好きな子どもばかりが集まったサッカークラブだったら、やる気(内発的動機)は十分にあります。

でも、学校は、歌うことが好きな子どもだけが集まった合唱団ではありません。学校には、歌うのが苦手な子ども、嫌いな子どももいるのです。

もし、合唱を内発的動機づけしようとするのであれば、次の手順が必要になります。

  1. 学習発表会で何をするのか、教師だけで決めない
    子どもの意見も十分に聞くことです。合意を得ての合唱だったら、子どもたちもやる気が起きます。
  2. 何の曲を歌うか、教師だけで決めない
    多くの子どもの賛同を得られたうえで合唱と決まったら、何の曲を歌うかも、子どもの願いを聞いて可能な限り取り入れましょう。自分たちで曲を選べば、当然やる気が起きます。

この手順を踏むことが、合唱への内発的動機づけにつながります。

しかし、いまだに多くの学校では、教師主導で行事指導が進められているかと思います。毎年、合唱があるから、これまでの指導を繰り返しているのです(私もそうです)。この従来型の教師主導の行事指導が、一人一人のニーズに柔軟に応えることが重視される社会で生きる「今」の子どもに年々、合わなくなってきているとも感じています。

6.楽しい言葉がけで、みるみる上達!

教育にとっては、内発的動機(やる気)が大事というのは前述の通りなのですが、それぞれ発達段階の異なる、様々な特性をもつ子ども集団における合唱指導では、外発的動機づけはとても効果的であるという実感があります。

特に、重大な課題(いじめ・学級崩壊・担任不信など)のある学年集団においては、顕著な効果を認めています。

6年生を担任したある年、学習発表会で合唱をすることになった際のことです。

私は、子どもたちに内発的動機づけをしようとして、

「6年生として、どんな合唱にしたい?」
「合唱の取組を通して、自分・クラス・学年がどんなふうに成長したい?」
「『歌』の語源は、『訴える』という説があります。聴いている人たちに、合唱で何を伝えたい?」

と問いかけ、目標をもたせようとしました。そして、子どもたち一人一人が目標をもちました。

しかし、歌声はとてもきれいなのですが、大きい声が出ないのです。聴こえないのです。

そこで、楽しい外発的動機づけをしてみることにしました。

外発的動機づけの言葉がけ1

講堂の後ろまでみんなの美しい歌声が聴こえたら、ボールタイム (ドッジボール・バレーボール・バスケットボール)!

下の写真で、ボールかごを持っているのが私です。子どもたちの歌声の響きを聴いています。

ボールかごを持つ私の姿を見ながら、子どもたちの表情も自然と笑顔になりました。子どもたちの集中力が緩んで歌声が悪くなっても、ボールかごをチラチラ見せたら、ものすごく歌声が良くなりました。とても子どもらしい表情をするので可愛く感じたものです。

外発的動機づけの言葉がけ2

講堂の後ろまでみんなの美しい歌声が届いて、先生が後ろのドアから講堂を出たら、宿題なし!

「宿題なし」のために子どもたちは気持ちを1つにして、全集中で合唱に取り組みました。合唱嫌い、合唱が苦手な子どもも「宿題なし」のために、力の限りを尽くしました。(家庭学習は学校の管理下でないので、宿題は本来、出さなくてもいいものです) 

また、毎回、ご褒美や合格の基準に変化をつけることで、子どもも飽きることなく練習に取り組みました。例えば、合格の基準を、「〇点以上」と点数制にしても楽しくなります。合格・不合格を出す教師を変えるのもよいでしょう。

子どもたちは、変化のある外発的動機づけによる練習で、みるみる合唱が上達していきました。そして、いよいよ本番が近くなってきた頃、外発的動機づけ(宿題なしなど)をしないで練習してみました。すると、美しい歌声が講堂に響いていました。

外発的動機づけによって成長した子どもたちの合唱は、外発的動機づけがなくなっても損なわれていませんでした。

楽しい外発的動機づけによる合唱練習は、子どもたちだけでなく、教師である私も気持ちよく活動できました。ぜひ、参考にしてみてくださいね。


松下隼司先生

松下隼司(まつした じゅんじ)
大阪府公立小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門で優秀賞を受賞。さらに、日本最古の神社である大神神社短歌祭で額田王賞、プレゼンアワード2020で優秀賞を受賞するなど、様々なジャンルでの受賞歴がある。小劇場を中心に10年間の演劇活動をしていた経験も。著書に、『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)絵本『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)がある。

イラスト/したらみ

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