話し合い活動を促進させる端末活用:札幌市立発寒南小学校のICT実践レポート(6年生・理科)

北海道・札幌市内でもとりわけ1人1台端末の活用が進んでいる札幌市立発寒南小学校では、授業でどのように端末を活用しているのでしょうか。6年生の理科の授業を取材するとともに、授業者の先生と、活用推進のリーダー役となっている教頭先生に話を聞きました。(取材・文/村岡明)

授業について

  • 学年・教科・単元名:6年生・理科「てこのはたらき」
  • 本時の位置づけとねらい:7時間扱いの4時間目。実験したことからわかったことをまとめ、友だちと交流して考えを深める。
  • 主に使用したソフトウエア:ムーブノート(ベネッセ社)

授業の流れと子どもたちの様子

子供たちは3~4人で机を寄せ、1つのグループとなって着席。前時に行った実験でわかったことをもとに、てこの働きのきまりをまとめていくことが本時のねらいです。先生は、まとめ方のめあてとして黒板に「一目で分かる てこってこれだ!シートを作ろう」と板書し、てこの働きを端的にまとめるよう指示しました。

これに対して子どもたちの反応は様々でした。グループの方針を話し合う子、実験した時に書いたノートのメモを見直す子、端末に考えをメモしていく子など、思い思いに活動を進めてゆきます。各グループには、机上用の実験器具、教室の端には大きな実験器具が用意されているため、それらを使う子もいました。

写真と手書きでシートを作成する子・ノートに書いた実験時のメモを補足してシートを作成する子

グループの考えをまとめていくのに使用したのは、「ムーブノート」の「広場」という機能です。子どもたちは、文字や図を使いながら、グループとしての考えを何枚かのシートにまとめました。

机上のてこを使って改めて実験する子

各グループのシートができたら、隣のグループと互いのシートを検討します。先生はあらかじめ隣り合う2つのグループで一つの「広場」を共有する形で設定していたため、スムーズに活動できていました。シートの一覧性のおかげで、話し合いが活発になっているように感じます。自分と違う視点からの説明に触れ話し合うことで、子どもたちは、てこの働きについて理解を深めているように見えました。

5班と6班専用の「広場」に掲示されたシート

説明シートの交流を経て、授業最後の3分でふりかえりを書きます。先生が用意したムーブノート上にある振り返り専用の「広場」に書き込んでいきました。子供たちの話し合い活動が活発だったことで、振り返りを書く時間が3分になってしまったにもかかわらず、ほとんどの子が、この時間でわかったことや考えたことを記入できました。

提出された振り返りシート

授業者のお話

上野碧(うえのみどり)先生:教職15年目

授業での活用

1人1台端末が配られて3年になるので、授業でICTを使うことにはかなり慣れました。もちろん全ての授業で使っているわけではありませんが、1日に1回は端末をフルに使った授業をしています。

端末が導入されて便利になった点はいくつもあります。まずプリント等の印刷・配布・回収の手間が不要ということです。今日の授業の最後で使った振り返りのワークシートも、「広場」にアップすればOK。提出チェックするのも簡単です。また、資料をカラーで配布できます。

子どもたちの様子

子どもたちにとっても、パソコンで文字を書く方がよいようです。高学年になると、自分の手書き文字が恥ずかしいという子が少なくありません。自分の考えを付箋に書き出して話し合う、という活動をする場合、手書きの時より活発になっている印象があります。今日の授業で振り返りを400文字ほど書いていた子がいましたが、手書きだったら1行で終わりだったかもしれません。もちろん文字入力が苦手な子もまだいます。けれども、そういう子も「だから手書きで」とはならず、前向きに取り組んでいます。

授業での活用の仕方も上手です。今回の単元でも、実験のメモはノートに手書き、そのまとめはパソコン、というように使い分けていました。話し合い活動では、アプリで書くところと話し合うところをうまく調整しています。

今後の課題

今回使ったムーブノートは、約3か月前に導入されたばかりなので、私もまだ慣れていませんでした。以前のソフトではできた「子どもたち30人分のデータを一覧する機能」がないなど、使い勝手の点で課題があります。反応が遅かったり、データが突然消えたりすることがあったので、そうした部分が改善されるといいなと思っています。

ICT活用研究を推進している教頭先生のお話

朝倉一民(あさくら かずひと)教頭先生

学校として「主体性を持った学習」をテーマにし、特に端末を使った授業を研究しています。今年はその研究の3年目。端末活用率は、職員児童ともに札幌市でトップクラスになりました。感染症等の自宅待機などで欠席した児童が端末を通じて授業に参加するような使い方も、ごく自然に行われています。さらに、校務の効率化と授業での利用がかなり進みました。今ではほとんどの先生が、端末を使って翌日の授業準備をしています。授業の質も上がってきているのではないでしょうか。 

とはいえこれまでの活用は、従来の授業をデジタルに置き換えたようなものでした。これからはデジタルならではの授業を志向していこうと思っています。例えば授業終わりで書く振り返りも、語彙分析(テキストマイニング)等の技術を使えば、子どもたちも先生も、語彙レベルでの成長を実感することができるはずです。さらに「振り返りとは、何をどう書けば良いのか」という本質的なところにも迫れると思います。

これまでの成果を踏まえ、来年度公開研究会を実施する予定です。この研究会では、従来のやり方を見直そうと考えています。多くの人が集まって教室に詰めかける形では、子どもたちの自然な姿を見ることはできません。まだ具体的なところは決まっていませんが、動画やネットワーク、分析技術等を利用して、提案性のある資料を用意すれば、意味のある議論ができるのではないでしょうか。

(取材・文/村岡明)

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