イライラ教師のアンガーマネジメント

特集
教師のメンタルヘルス対策:ストレスチェックからうつ病体験記まで

元宮城県公立小学校教員

川上淳子

何かと子どもたちの荒れが騒がれる11月ですが、教師も神経をとがらせたり、イライラする時期でもあります。そこで、教師のための怒りのコントロール方法について、専門の川上敦子さんにお話をお伺いしました。

監修/アンガーマネジメントコンサルタント・川上淳子

川上淳子●Edu Support Office代表。日本アンガーマネジメント協会認定アンガ―マネジメントコンサルタント。宮城県の小学校に32年勤務。長年の教員生活と2人の子育て経験を生かして、「日本中の教室にアンガーマネジメントを!」をモットーに、現在講座開催や各地で講演活動を行う。

イライラする教師
写真AC

教師もイライラする時期

11月になると、気持ちが落ち着かなくなったり、イライラするのは子どもだけではありません。教師も些細なことでイラッとしたり、気持ちが不安定になりやすい時期なのです。ここからは、なぜ11月に教師がイライラしがちなのか、その理由を解説し、さらに、自分の怒りやイライラを上手に解消する「アンガーマネジメント」の手法をご紹介します。

11月に教師のイライラが増える理由

①行事が多い

二学期は大小さまざまな行事が目白押しです。運動会や学習発表会のほか、プール納会や生活科での校外学習(秋を探そう)、就学時健康診断、校内研究の授業提供など、さまざまな行事を、常に数本同時進行しながら具体的に計画し、実践していかなければなりません。そのために大きな多忙感を感じる先生方も多いでしょう。時間や仕事に追われると、気持ちに余裕が持てず、些細なことでもイラッとしてしまうことが多くなります。

②二学期は学習の山場が多い

10月以降は、どの学年も学習内容がグンと難しくなり、各教科で山場を迎える時期です。学習が難しくなると、習熟度において個人差が広がったり、学習意欲が減退する子どもが出てくるなど、個別対応が必要になり、教師の仕事も増えてしまうのです。

③宿題など課題の処理が遅れる

行事の計画や準備に追われていると、つい日ごろの事務処理も遅れがちになります。とくに宿題の点検作業。宿題を出すと必ず点検作業が必要です。後回しにしていると、次々に溜まっていきます。次々とやるべきことが積み重なることで、イライラも増えていきます。

④連休が多く、仕事が溜まる

二学期は、学習内容も行事も盛りだくさんな上に、連休が多くなります。さらに台風や大雨が増える時期でもあり、突然臨時休校になることもあります。行事の準備や学習指導は、こうした連休や臨時休校があることを頭に入れて計画を立て、ハイスピードで実施しておかないと、後々間に合わなくなって焦り、さらにイライラが募ることにつながります。

⑤体調不良を訴える子が増える

気候の変化から風邪やインフルエンザが流行し始める時期でもあります。欠席の子や早退の子が増えると、保護者への連絡や、登校後の補充作業も増え、学級実務がますます増えていくことになります。

これら11月にイライラが増える原因は、私自身、32年間の教師生活で経験してきたことです。しかし、「アンガーマネジメント」を学んだことで、イライラする気持ちに翻弄されることがなくなり、困難を感じる場面でも、創意工夫をするチャンスなのだと考えられるようになりました。「アンガーマネジメント」は、1970年代にアメリカで始まった「怒りの感情」をコントロールする心理トレーニングです。若い先生方にはこれからの教師人生を自信を持って歩むために、ぜひ取り入れていただきたいテクニックです。

アンガーマネジメントとは

例えば、イライラが続くと、どうなるのか想像してみましょう。

・不機嫌になり、周囲の雰囲気も悪くなる。
・集中力を欠き、事務作業や授業が遅れる。
・些細なことで怒る自分を責めてしまう。
・怒りによって衝動的な行動を取り、子どもや周囲の人から信頼を失ってしまう。
・家族に愚痴を言ったり、八つ当たりする。

このようにさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。しかし、イライラを我慢していると、不満が溜まって突然その怒りが爆発したり、ストレスを感じて体調不良になるなど、さらに悪い事態を引き起こすこともあります。

アンガーマネジメントは、「イライラを我慢したり、怒りの感情を消すためのテクニック」ではありません。「怒る必要のあることは上手に怒り、怒る必要のないことは怒らないようになること」を目的としています。大切なことは怒りの感情を受け入れ、コントロールすること。

ここからは、イライラした時、すぐにその場で自分の感情をコントロールするためのアンガーマネジメント下のテクニックを紹介します。

イライラにふり回されないための5つのキーワード

【Keyword・1】ストップシンキング(思考停止テクニック)

怒りのピークは「6秒」

怒りにまかせて反射的に行動すると、相手にひどい言葉を浴びせるなど、衝動的な行動をとってしまい、取り返しのつかない事態を招くことがあります。これは、そうしたことを回避するためのテクニックです。

さまざまな説はありますが、「怒りの感情のピークは長くて6秒」と言われています。つまり、カチンときた時、6秒間一時的に意識を飛ばし、やりすごすことで、瞬間的な怒りを鎮め、衝動的な行動を抑えることができるのです。

例えば、怒りを感じたら、心の中でゆっくりと1から6まで数えてみましょう。

このテクニックは、子どもたちに自分の怒りをコントロールさせるときにも有効です。「怒りたくなったら、心の中で1から6まで数えてみよう」と伝え、怒りたい気持ちをやりすごす方法を教えておきましょう。

頭の中を空っぽにして思考を止める

さらにより強い怒りを感じた場合は、まずは頭を真っ白にする、もしくは空っぽにすることを意識しましょう。考えることを止め、怒りの状況を引きずらないようにするのです。そうすることで、怒りに対する自分の衝動的な反応を遅らせることができます。頭の中に白い大きな紙や空白などをイメージするとよいでしょう。

怒りのピークは6秒。この6秒をやりすごす方法をいくつかトレーニングすることが大事なのです。逆にその時間にしてはいけないことは、反射的に言い返したり、仕返しをすることです。

1.2.3.4.5.6と心で数えてみましょう

【Keyword・2】タイムアウト(作戦タイム、仕切りなおしテクニック)

一旦その場を離れてみる

怒りに自分がふり回されるのを防ぐため、怒りがエスカレートする前に、一度その場を立ち去り、心を落ち着かせるという方法です。一度相手から離れ、その間に感情をリセットすることで、その後戻った後に冷静に話ができるようになります。相手に黙って立ち去るのでなく、戻ってくる時間を必ず伝えましょう。

「先生、このままだと怒りそうだから、ちょっと職員室へ行ってくるね。すぐ戻ってくるね。」

私が教師時代にも、クラスでトラブルを起こした子と話していたとき、なかなかその子が本当のことを言ってくれないと、私自身の怒りが高じてしまうので、このタイムアウトをよく使っていました。

以前は、よく子どもの体に触れながら注意をするとよいと言われることもありましたが、最近では、子どもが激高しているときに体に触ると誤解され、「セクハラ」だとか「先生に叩かれた」と言われかねないので、むやみに体に触れることは注意が必要です。

「ちょっとトイレに行ってくるね。戻ったらまた話そう」

○タイムアウト中にやるとよいこと
深呼吸、リラックス、散歩、有酸素運動ストレッチ、ヨガ など
×タイムアウト中にやってはいけないこと
発声、激しい運動、飲酒、運転、怒りを思い出すこと など

【Keyword・3】ポジティブセルフトーク(プラス思考メッセージ)

ポジティブな言葉を唱える

コーピングマントラ(魔法の呪文)は自分の気持ちを落ち着かせる言葉・フレーズですが、これは、自分の気持ちを奮い立たせる言葉・フレーズのことです。普段からそうした言葉をいくつも用意しておくようにします。そして、イラッとしたら、自分自身で何度もそのフレーズを心の中で唱え、心を落ち着かせながら、冷静さを取り戻しましょう。

「大丈夫!!成長するチャンス!」

【Keyword・4】24時間アクトカーム(魔法の一日)

穏やかな自分を演じ、その効果を体感する

「24時間アクトカーム」の「アクト」は「行動する」、「カーム」は「穏やかに」の意味です。24時間、意識して穏やかにふるまうことで周りの人がどう変化するかを体験する方法です。言葉遣い、表情、仕草など、徹底的に穏やかにふるまいます。

「今日一日ニコニコ穏やかな私」

先輩の先生で穏やかな人、尊敬できる人をイメージしてみるとよいでしょう。または自分の指導していることがすべて子どもたちに通じ、子どもたちも仲よく生活し、賢く勉強しているというふうに、最高のイメージを想像しながら一日を穏やかに過ごしてみるのもよいでしょう。

他人を変えるより、自分を変えてみる

誰でも、他人をどうにか変えて問題を解決したいと考えますが、この方法は、他人よりも自分を変えることに意義を見出すことができます。だからこそ週末ではなく、あえて忙しい平日に試してみることをお薦めします。もちろん、慌ただしい教室で一日を穏やかに過ごすことは難行苦行です。しかし、チャレンジすることで得られることも大きいと思います。

例えば、保護者の「クレーム」も、教師の説明が足りない点があり、そのことで困って問い合わせをしているだけと考えてみてはいかがでしょうか? 「クレームを言われている」という「自分の思い込み」と「事実」を分けて考えることが大事です。怒りは相手からの「リクエスト」と考え、そのことに向き合うことで、自分自身も穏やかになり、保護者との関わりも温かく変わっていくことでしょう。

「お気持ちお察しします」

【Keyword・5】リフレッシュ(プチ気分転換)

好きなことを思い切り楽しみ、気分転換

イライラして、心の中のコップがマイナスの感情でいっぱいになりそうなときは、好きなことをして、楽しみで心を満たしてしまいましょう。しかし、遠方への旅行など、週末や長期休業にならないと実行できないものはそれまでの時間、イライラがなくならないので、一日でできる、半日でできる、ちょっとした時間にできる、「気分転換」であることが重要です。

すぐにできる「気分転換」の例
・子どもたちと一緒に掃除をする。
・子どもたちのよいできごとを記録する。
・家に帰ってゆっくり我が子と遊ぶ。
・好きな音楽やテレビ番組を楽しむ。
など

ポイントは、マイナスの感情にとらわれず、好きなことに夢中になることで「今」をしっかりと楽しむことです。

スッキリ、リフレッシュ!

取材・文/出浦文絵 イラスト/奥まほみ

『小一教育技術』2016年11月号より

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