誰でもできるプログラミング教育~小六理科 電気の性質や働き~
いよいよ2020年度から、プログラミング教育が始まります。どのように導入していったらよいか。高学年で必修となる小学6年生の理科のプログラミングの授業実践例を紹介します。プログラミング教育について考えていきましょう。
監修/千葉県公立小学校校長・佐和伸明
佐和伸明●長年にわたり、情報教育や情報モラル教育に関する先進的な実践事例を多数発表。千葉県柏市教育委員会指導主事・副参事を経て2018年度より現職。文部科学省「小学校プログラミング教育の手引」「教育の情報化に関する手引」協力者。全国で、プログラミング教育やタブレット端末を活用した教育等の研修会講師を務めている。
目次
どこの学校でも誰でもできるプログラミング教育
学校の裁量の時間から始めてみよう
いよいよ2020年度から、プログラミング教育が小学校で本格実施されます。プログラミングに関する学習活動の分類として、文部科学省公表「小学校プログラミング教育の手引」ではA~Fに分けられています。
Aは、学習指導要領に例示されている単元で実施するものです。具体的には、小学5年算数の正多角形と小学6年理科の電気のはたらきの中のセンサーを使う働き、そして、総合的な学習の時間に示されています。2020年度から算数と理科は教科書に出てきますので、学校は取り組むことが望ましいのです。
Bは、学習指導要領に例示されていないのですが、各教科等において実施するものです。
Cは、各学校の裁量により実施するもの(A、B及び、D以外で、教科課程内で実施するもの)です。
Dは、クラブ活動など、特定の児童を対象として、教育課程内で実施するもので、EとFは、教育課程外になります。
学校としては、A~Dの中で、どのようにしてプログラミング教育を進めていくかを検討する必要があります。そのなかで、始めやすいのは、Cの学校の裁量によって実施するところだと思います。
というのは、算数や理科でプログラミングの授業をしようと思っても、プログラミングの基本の知識や技能がないと実施することが難しいからです。Cは、気付きを促すことがとても重要です。プログラミングの楽しさ、おもしろさ、できたときの達成感を子供たちが体験することによって、プログラミングの基本的な知識や技能を身に付けるようにするとよいでしょう。
繰り返し、触れていくことが大切
プログラミング教育は、1回実施すれば身に付くというものではなく、繰り返し、触れていくことが大切です。繰り返し行ううちに、自分で創意工夫ができるようになることが期待されています。
柏市では、全公立小学校42校の4年生、5年生、6年生の各学期に最低1回は、プログラミング学習を行うカリキュラムを作っています。
また、紙ベースで指導案を配付すると同時に、随時新しい実践をウェブ上で公開していきます。小学校段階では、プログラミングの基本的な概念である順次処理、繰り返し、条件分岐の使い方が理解できる状態で、中学へ送り出したいと考えています。プログラミングだけの力を抜き出すというのではなく、情報のまとめ方、発信の仕方など情報活用能力を育成するなかにプログラミング教育が位置づけられています。それらは、トータルで育てていくことが大切です。
子供たちが十分に考える時間、場面を作る
来年度、5年算数と6年理科の教科書にはプログラミングの内容が掲載されますので、5、6年の担任は授業の準備が必要です。その授業を実現するために、担任だけでなく、子供たちが、プログラミングの基礎的な知識や技能をその授業までにどのようにして身に付けておくかを合わせて考えることが必要です。
プログラミングに対する理論は必要ですが、理論だけでは、授業できません。教師自身が授業で使うソフトを実際に操作しながら、体験し、来年度のプログラミング教育の本格実施に向けていきましょう。
プログラミング学習は、主体的、対話的で深い学びそのものだと考えます。
子供が、プログラミングをしていると、ちょっと難しいと感じることがあります。今までのやりかたで簡単に解決しないことが多いので、子供はこれを解決したいと本気になり、主体性が生まれます。
自分一人では解決できないこともあり、そこで話し合いが必要となり、対話が生まれます。それがうまくいった、一生懸命に自分で考えた、友達といっしょに考えて相談したからおもしろかったと感じます。一人ではできなかった深い学びになっていきます。プログラミングを通して、対話が生まれ、思考が育ち、学びが深まっていくわけです。
プログラミングでは、子供が思考することがいちばん重要な活動です。それは論理的思考、プログラミング的思考の育成につながります。しかし、子供に考える時間を十分に提供することがなかったら、形的にはプログラミングを扱っていても、プログラミング教育の一番大事なねらいを達成しにくいといえます。
子供が自分で考える、友達と相談する、自分たちで解決することが大切で、考える場面、対話する場面を多く取り入れた、プログラミング的思考を育む授業にしていきましょう。
小六理科:電気の性質や働き「センサーのプログラミング」(2時間続きの授業)
めあて(8と9/9)
・課題を自ら設定し、その目的や使う人を意識したプログラムをデザインして創り出そうとしている。
・センサーの働きについて、理解することができる。
・いぬボード(Scratchで使う拡張用のセンサーボード)のセンサーを操作し、様々なプログラムを組もうとしている。
学習内容
8、9/9の授業では、いぬボードのセンサーを操作し、プログラムによって電気が様々なものに変わることを知る。いぬボードの働きをプログラムする。そして、自分の節電方法を考え、その後、いぬボードのセンサーを利用し、自分たちの節電方法を考え、作る。
1.実験の準備・基盤の組み立て、光センサーのセット、動作を確認
いぬボードの説明書を見ながら作成します。
2.どんな節電プログラムにするか考える
自分たちが何を作りたいか、アンプラグド的に考えていきます。授業のゴールやプログラムの完成形イメージがあると、子供がそこに向かって主体性をもって学習を進めていくことができます。言葉やフローチャートで、自分たちが作ってみたいプログラムの目標を決めます。
3.プログラミングする
プログラムがうまくいかないで、光センサーが感知しない、ランプがつかない場面もあります。その際は、自分たちのプログラムを見直し、話し合いながら何回も試行錯誤し、考え直す。これが、プログラミング的思考力の育成につながるのです。
4.自分なりに工夫する
基本的なプログラムを組んだ後、子供たちは明かりがついたり、消えたりするプログラムだけでなく、徐々に明かりが消えていくプログラムや手動のスイッチを入れたプログラムなど、子供たちが自分なりに工夫できる場を提供しましょう。
5.発表する
最後にどのようにプログラムをしたか、発表をします。
教科にプログラミングを活用する
外国語活動でプログラミングを活用しよう
小学校学習指導要領での例示はないですが、各教科でもプログラミングを活用するように文部科学省は勧めています。例えば、外国語活動では、「道案内をしよう」等の単元で活用できる。使用する英語表現は、次の通り。
「Where is ~? Turn right / left. Go straight. Stop. 」
例えば、町のマップの上に置いた車を使って、消防署へ行くにはどのようにするかを、グループで話し合いながら、プログラミングしていきます。自分たちのプログラミングで正確に決めた地点に行くことができるのかを検証します。行くことができなかったら、どこが間違っているかを自分たちで考え、試行錯誤しながら、正しく行けるようにプログラミングをします。
そして、案内するときには、「Turn right / left. Go straight. Stop. 」を声を出して言います。声を出して何回も繰り返すことによって表現に慣れ親しんでいきます。
自分が作ったプログラミングによって外国語を話す必然性が生まれます。自分の車が正しく動いているという思いがあると、自信をもって発表できるものです。
このほか、図画工作や音楽など様々な教科でプログラミングを活用することができるので、工夫してみましょう。
編集部のおすすめ参考図書
教育技術MOOK
『プログラミング教育導入の前に知っておきたい思考のアイディア』
黒上晴夫、堀田龍也著(小学館刊)
本体1400円+税
取材・文/浅原孝子
『教育技術 小五小六』2019年11月号より