算数も国語力? 最近増えてきた、算数の文章題が解けない児童への取組

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元山形県公立学校教頭

山田隆弘

「最近、算数の文章題の意味を読み解けない児童が増えてきた」というようなことを、特に低学年の担当者からよく聞くようになってきました。その理由は何でしょうか? 国語の学力が低下し、論理的に読むことができない児童が増えたのでしょうか? そうではなく、どうやら、コロナ禍での学びの環境の変化や、社会の流れが影響しているようです。

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文章題がイメージできない

「算数の力を伸ばすためには、国語の力を伸ばすべき」
というフレーズをよく聞きます。これは文章題をうまく解かせよう、という意図からの言葉でしょう。児童が、文章題に示された状況を論理的に読みこなし、その場面をイメージできるかどうか、ということですね。
コロナ禍にあった数年間、児童は学校に来ることもできず、長く自宅待機をするなど、様々な行動制限を受けてきました。話すのは家族だけ。スポンジのように何でも吸収する大事な時期に、実体験する機会を奪われて、テレビや動画の視聴など受動的な媒体に向かうことがほとんどでした。そして、ようやく学校に来ることができても、思い切り声を出したり、友達と十分にふれ合ったりする機会も一切なかったわけです。給食の時間でさえ、前を向いて黙々と…という感じでした。
これでは文章題で語られるようなこと、例えば…

公園に ハトが ○わ いました…
遠足に 行きました。階段を ○段 上りました…
プールで 平泳ぎを ○メートル泳ぎ…

などは、実際にやったことも見たこともない、という児童が増えたわけです。本来文章題とは、実体験に沿った場景を提示することで、児童が問題をイメージしやすいように、という配慮でもあったはずなのですが、実体験をもたない児童にとってはイメージしづらく、逆にハードルを上げる結果となってしまったようです。

2 まずは、日常語を算数へ翻訳

そこで、文章題に出てくる「ことば」に着目し、キーワードを意識することで問題を読み解くような工夫を考えてみましょう。
日常的に使われる言葉で演算につながるものは、以下のようなものです。

たしざんは <増えることば>
ひきざんは <減ることば>
かけざんは <倍になることば>
わりざんは <分けることば><同じ数になるように、という考えのことば>

中には、たし算なのか、かけ算なのかを迷うものもあったりしますが、原則的には決まった演算につながっていきますので、この4つの大別で捉えてよいと思います。

特に3年生以降は4つの演算の文章題がどんどん出てきますから、この区別を児童にしっかり伝えておきたいです。

さて、教科書や問題集に出てくる文章題ワードを丁寧に拾っていくと、次のようなものがあります。

たしざん (低学年)
<あわせて>
みんなで(ぜんぶで)
あわせて

ひきざん (低学年)
<のこりは>
○人おりて □人のりました  のこりはなんにんですか
<くらべて>
どちらが なんこおおい
ちがいはどのくらい

かけざん (低学年)
~ずつでは何こですか
◯は□のなんばいですか 

かけざん (高学年)
「の」(文章題で「の」の前後に数字があるとき、かけざんの記号で置き換える)

わりざん (中学年)
1個のねだんはいくらですか
ひとり分はいくつですか  
○センチのテープを何本とれますか

わりざん (高学年)
~あたり
~につき
商は…

このように文章題に出てくるキーワードに注目して、どの演算がいいのかイメージしていくことが重要です。これらのことばを教室に掲示して、感覚を養うようにするといいですね。

3 日常生活で計算する機会を増やそう

子どもが生活の中で出てきたシチュエーションに応じ、数字に親しんだり、気軽に計算を行ったりすることも、文章題を解く力の向上につながります。学校生活のいろいろな場面で、次のようなチャレンジをしてみてはどうでしょうか。

ア 給食
配膳する皿を扱うとき、
「学級は全部で何人だっけ? せんせいの分も合わせて?」
「さて全員分の食器を、AさんとBさんと2人で盛り付けしてもらうけど、半分に分けると1人何枚ずつ盛り付けることになるかな?」
「今日は、3人お休みだね。何人分用意すればいいのかな?」
と当番の児童に聞いてみましょう。

イ プリントを配る
帰りの会などでプリントを配るとき、
「今日は5人お休みだね。お休みの人の分をせんせいに渡してもらうと、キミが配るのは何枚必要なの?」
「みんなが書いた算数プリントを配ってほしいな。3人で同じ数だけ配るとしたら、1人何枚ずつになるかな?」
と、問いかけてみるのもいいでしょう。

ウ ゲームで
学級レクなどのゲームにも算数的な要素を入れ、思考力を伴わせて、面白さのアップにつなげることもできます。
「今からせんせいが笛を吹きます。笛を吹いた回数の人数で、手つなぎグループをつくってもらいます。何グループできるか、あまりは出るか、など考えながらやってみましょう」
「せんせいが笛を1回吹いたら、右向け右。2回吹いたら回れ右(180度回転)。3回吹いたら左向け左をします! みんなうまくできるかな?」
「全員で、体育館の右に集まります。『残りは〇〇人!』とせんせいが言うので、その人数だけ残して、他の人は左に移動します。左に移動した人は何人になるかな? 分かった人は手を挙げてね」
といったゲームで、算数の力を鍛えていきましょう。

エ ○字でまとめる

国語の学習方法の1つに要約がありますが、30字でまとめる、100字でまとめるなど、字数の条件を設定すると、否が応でも算数が登場します。ピッタリ規定数で収めると大成功、などと褒めるポイントを設定しておくと、あと○文字ならこの言葉を入れてみようとか、こう言い換えてみよう、などと、積極的に算数と国語に取り組めます。

オ 生活科で体験活動を
生活科での様々な体験活動はとても重要です。例えば、見学に行ったら、見学箇所を回ることでポイントを加算していったり、インタビューをすることでポイントが得られたりと、点数の合算によるゴールを設定したり、ポイントの「ピタリ賞」を設けたりするのも、楽しんで算数のセンスを磨くことにつながります。感染症予防措置も落ち着いてきた昨今、体験的な活動や人と人との交流活動をどんどん取り入れていきたいです。

4 保護者にも協力を依頼しよう

さらに、児童により多くの実体験を得てもらうため、家庭への協力もしっかり求めていきたいですね。学級通信や懇談会など、保護者のみなさんに情報を発信できる機会を使って、今の児童には「実体験を伴う文章題的な思考」を得るチャンスが少ないことをしっかりと伝え、今行っている算数指導のことや、つまずきや課題について、お知らせしていきます。

例えばいくつかの文章題を解くとき、児童は、前の問題がかけ算の問題だったので、今度もかけ算だろうと勝手に思ってかけ算で進めてしまうことが多いです。問題解決の手段として、状況に応じて演算を行うという理解を進めるためには、やはり体験を積み重ねることが一番効果的です。
家庭でも、算数的なアプローチをしていただきましょう。例として…

「(買い物のとき)40円のチョコと30円のガムがほしいんだね。レジでいくら払えばいいの? 分かったら買ってあげる」
「ママの貯金は、キミのお小遣い500円の30倍あります。いくらでしょう?」
「ここの石段は、55段あります。今、7段登ったよね。あと何段あるの?」
「5個で200円のゼリーなんだ。1個いくらになるの?」
「おじいちゃん(ママのお父さん)の年齢は、キミの年齢の8倍に1たしたものらしいです。何歳になるの?」

現代社会を脅かす感染症、異常気象、そして自然災害は、従来の学校の教育課程を壊し、体験活動や学び、そして遊びといった、児童の健やかな成長を阻みます。どうにか工夫しながら、できるだけ児童が体験を通して「生きた知識」を得ていけるようにしたいですね。

【参考図書】
数学を嫌いにならないで 文章題にいどむ篇 ダニカ・マッケラー/岩波書店
算数と国語を同時に伸ばす方法 宮本哲也/小学館
算数文章題が解けない子どもたち ことば・思考の力と学力不振 今井むつみ他/岩波書店
ドラえもんの算数おもしろ攻略 文章題がわかる〔改訂新版〕: ドラえもんの学習シリーズ 小林敢治郎/小学館
子どもの算数力は親の教え方が9割 桜井進/PHP研究所

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イラスト/フジコ


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山田隆弘先生

山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。

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