児童が交通事故に遭ってしまったとき
児童生徒の登下校路、そこでの事故受傷は学校として対応をしなければなりません。特に交通事故に遭ってしまったとき、軽い傷だと児童は、「だいじょうぶです」と言いがちです。子供らしい素直な言葉ですが、それをいいことに運転者がそのまま立ち去ってしまった…という事例が数多くあります。これはよろしくありません。前もって対策しておきましょう!
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
目次
1 軽いから大丈夫、は通じない
児童生徒が車に接触された。自転車がぶつかってきた。こういった事故はよくあります。加害者が常識のある方で、被害者の救護や然るべき連絡などの義務を果たしてくれれば問題はありません。
しかし、これは特に自転車で多い事例なのですが、軽くぶつかったように思えるような場合、運転者が『ねえ、だいじょうぶ?』と問いかけてくると、児童生徒は、ほぼ100パーセント「だいじょうぶです!」と答えてしまいます。
その時は、加害者側も、被害者側も大したことではない、と思ってしまい、『そう、それはよかった。じゃあね!』と加害者はその場から立ち去ってしまうことがよくあるのです。
しかし、免許が不要とは言え、自転車も立派な軽車両です。決して歩行者と同じ扱いではないのです。
自転車は、例え軽微な接触であっても警察への報告義務があることが、法律で定められています。特に最近は、電動自転車やスクーター型など、車体重量が重く、動力を持つものが増えてきましたので、注意が必要です。
そして、怪我というのは大抵、した直後は大したことなさそうに思えても、後からどんどん痛くなったり、腫れて動けなくなったりするものです。
児童生徒は、後になって担任や保護者に経緯を話します。そして「ちょっと痛くなってきちゃった…」と言い出し、大騒ぎになります。
大人は警察に通報します。警察は目撃者を探し、防犯カメラをチェックし、加害者を割り出し………。
軽い気持ちでその場を離れた加害者は、重大な「ひき逃げ犯」になってしまうのです。
被害者の児童とその家族も、相手からの謝罪や補償がないまま治療や通院をしなければなりません。
2 事故への意識を高めよう
① 事例を話す
特別活動の学級指導で交通安全指導をします。交通ルール、交通マナーなどの学科から、市町村、学校によっては歩行や自転車乗車の実技訓練をするところもあります。これらはもちろんしっかりと学習してもらわなければならないです。自転車に乗ることは児童にとって当たり前ですので、もしかしたら加害者になることもあるからです。
そして、ぜひ実施してほしいのは、担任の交通安全に関わる体験談やエピソードを話すことです。
わたしの場合は、自らの体験からこんなドキュメンタリータッチで話してきました。
●幼児のころ、家の前で自転車の高校生に轢かれてしまった。親が高校生の連絡先を聞いたが、そこに連絡をすると、そんな人はいないということを告げられ、ひき逃げの被害者になったこと。
●幼稚園の頃、友だちが幼稚園バスを降りて、道路の向かい側にある自宅に行くため、左右確認をせずに道路を横切り、バイクに跳ねられて亡くなってしまったこと。
●小学生のころ、友だちが坂から自転車で下るとき、右ブレーキを先にかけたため前輪がロックし、1回転する転倒事故を起こして大けがを負ったこと。
<「ブレーキのかけ方」も注意喚起>
このほか、中学生がヘルメットをかぶっていたので、転倒したのに大きなけがにならなかった事例をはじめ、実際に起こった交通事故の事例を話していきます。日常的に近くで起きた交通事故の事例をメモしておき、朝の会などで話しておくのも、良い注意喚起になります。
② 事故にあったときの態度を教える
児童が不幸にして事故に遭遇してしまった時、いかなる場合でも必ず警察に通報してもらうよう、徹底しましょう。
一例として、保護者さんから聞いた話を紹介して指導します。
あるお母さんが自家用で運転中に追突されたそうです。加害者の相手は免許をとったばかりで、その週に会社に入社するため、会社に知られると就職が取り消されるから、警察を呼ばないでほしいと懇願されたそうです。そこで、車の修理代をもらって、警察には知らせないことにしたのです。
でも、後から首に痛みが出てきました。ケガは、後になって痛みだすことも多いのです。でも、「その時はケガしたなんて言いませんでしたよね」と、治療費を支払ってもらえませんでした。
この方は、警察に連絡して事故調査をしてもらわなかったことを、とても後悔したそうです。みなさんはもし事故に遭ったとき、「だいじょうぶです」と言ってはいけません。車やバイクだけでなく、自転車が相手でもそうです。必ず警察に連絡し、すぐお医者さんに行くようにしたいですね。
このほか、交通事故の現場を目撃した場合の通報(大人に依頼)や、場合によっては被害者の救援の手伝いなども必要かもしれません。もし、その場に直面したらと…いうことを、ぜひ児童に考えてもらいましょう。
③ランドセルの中に『交通事故カード』を!
さらに、ランドセルの中に、『交通事故カード』を入れておくようにしましょう。
☆交通事故カード
これは、事故にあったとき、とっさに「だいじょうぶです」と言ってしまうのを避け、関係各所への連絡を確実にするためのものです。このカード一枚で連絡してほしい先が全部わかるようにしておきます。残念ながら大きな事故に遭い、ランドセルからカードを出すことができない場合も、救援者のどなたかが、ランドセルからこのカードを見付けてくれるはずです。
この『交通事故カード』は、個人情報保護の観点から住所は記載しません。あくまで緊急連絡先を記入しておくだけです。
このカードは交通事故のみならず、病気や怪我で動けなくなったとき、迷子になったとき、自然災害など何らかの被害にあったときなど、さまざまな受難の際に役立ちます。
学校全体として取り組んでみてはいかがでしょうか。
以下、わたしの勤務校で取り組んだ際の、保護者への案内状です。
アレンジして使っていただければと思います。
◆
かつて勤務校では、通学路の道幅が狭く、積雪した日にはさらに道幅が狭まってしまうため、ドアミラーが腕に当たった、などの軽微な事故が頻発していました。地区住民の方々の努力で、付近のたんぼ道で迂回路を設定し、市で財源を確保して、この道の除雪体制をとり、安全を確保してもらいました。PTAも進んでこの迂回路をメンテナンスしてくれました。
児童の意識を高めることも大切ですが、そもそも事故に遭わないような通学環境を整えることも大切だと思います。児童に危険を及ぼすものはないか、アンテナを高くして危機を察知し、どのように対処しようかと、常々考えていたいものですね。
イラスト/フジコ
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山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。