思考ツールで学級の問題を設定する理科授業デザイン 【理科の壺】
問題を見いだす場面では、子ども一人一人が問題を見いだすために考える場面と、一人一人が考えた問題を発表しあって、学級の問題を設定する場面があります。これまでは、子ども一人一人が問題を見いだしたかどうかというのは評価の観点に入っていなかったため、導入場面では最初から学級としての問題を設定することが一般的でした。現在では、個人で問題を見いだし表現することが求められたため、たくさんある個人の問題から1つの学級の問題を設定することも一苦労する先生も多いようです。今回は、新米先生と先輩先生のやり取りや先輩先生の授業の様子を通して、個人の問題を見いだした後に、学級の問題を設定する一つのアイデアをご紹介します。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校教諭・齋藤照哉
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
目次
1.問題の見いだしの授業での悩み
「問題を見いだす力」は主に3年生で育成する資質・能力です。問題を見いだす力を伸ばせるように指導し、それを教師が評価するためには、子どもたち一人一人が問題を見いだす活動を行う必要があります。本稿では、一人一人が見いだした問題から学級の問題を設定するまでの過程を、思考ツールを用いた授業の実践を交えながら紹介します。
新米のA先生は、「問題の見いだす」授業の導入場面で悩んでいて、先輩先生に相談することにしました。二人のやりとりを見てみましょう。
相談があるって言っていたね。どうしたの?
実は、問題の見いだしの授業がなかなか上手くいかなくて。
どんな風に上手くいかないんだい?
事象を提示して、子どもたち一人一人が問題を見いだす時間をとっているんですが、いろんな問題が出てきてそれをどうやって学級問題として一つにまとめたらいいかわからないんです。せっかく子どもたちが問題を考えているのに、先生が「こうやりましょう」と言ってはダメですよね。
それは確かに難しいね。今度「植物の養分と水の通り道」で問題の見いだしの授業をやるから見においでよ。
いいんですか!? よろしくお願いします!
新米のA先生は、先輩の先生の授業の様子を見に行くことにしました。どのような授業が行われるのでしょうか。
2.比較を用いながら事象への気づきを整理し、一人一人が問題を見いだす場面
今回紹介するのは6年「植物の養分と水の通り道」の水の通り道の学習で行った実践です。「問題を見いだす力」は主に3年生で育成する力ではありますが、今回のように教師が児童の実態を考慮し、4年生以降の学習においても単元の中に位置付けることも可能になります。
今回の導入場面では、水を与えずしおれてしまったホウセンカ(A)と水を与えて葉が元気になったホウセンカ(B)の2つの写真を提示して、整理していきます。
【植物の養分と水の通り道】「水の通り道」の導入の板書例
ホウセンカAとBを比べて気づいたこと話し合ってみよう。
ホウセンカAは葉に元気がなく枯れそう。水をあげていないんじゃないかな。
ホウセンカBはAと違って生き生きしているね。土が湿っているし水をあげたのかな。
この導入では、Aに水をあげてBの状態になったものを提示し、時間がたった時の比較が行えるようにします。ここでは子どもたちが「原因と結果(〇〇をしたから、〇〇になる)」の見方を働かせることを大切にしています。AとBの状態の差異点を整理することで、葉が元気になった原因(水をあげたこと)に着目できるようにします。
実はホウセンカAの周りの土に水をあげてしばらく時間が経った後がホウセンカBです。
やっぱり! でも土に水をあげたら、なぜ葉がシャキッとするのかなぁ。
疑問を見つけて、ノートに学習問題を書き始めている子がいますね。みんなも自分の問題を書いてみよう。
土に水をあげて時間が立ったら、葉がシャキッとしていることに疑問をもったところで、子どもたちが学習問題を書き始めた。
どんな問題を書いているのかな。
葉が元気になった原因に着目できたところで、一人一人が問題を見いだす時間を設定します。子どもたちは次の表のような問題を見いだしました。
【子どもたちが見出した問題の例】
子どもたちがそれぞれ、問題を書き終えたようだ。私が困っているのはここからなんだよなぁ。
3.一人一人が見いだした問題についてグループで話し合う場面
A先生が困っているのは、出てきた個人の問題を学級の問題を設定するために整理するところです。実際の問題の見いだしの場面では、子どもたちは多様な見方を働かせます。そのため、問題の内容が広がることもありますし、そもそも問題の見いだしの力が不十分で、追究が難しい問題が出てくることがよくあります。ここからは、子どもたちの対話の中で学級の問題を設定していくやりとりです。
では、個人で考えた学習問題をもとに、まずは班ごとにどのような問題がよいか話し合ってみよう。
私は「水はどのように運ばれているのだろうか。」という問題にしたよ。
僕も葉がシャキッとしたのは、水が運ばれたからだと思って問題を書いたよ。
私も似ているんだけど、土に水をあげたから、根っこから運ばれていると思ったんだ。
確かに! 根から水を運んでいそうだよね。じゃあ、「水は根っこを通ってどのように運ばれるのだろうか。」でどうかな。
グループの問題にまとまってきたぞ。
この後はどうやって学級の問題にするんだろう?
【グループで話合った後の問題の例】
このように話合いの中でグループの問題にまとめていきます。ここでの教師の役割は重要なものになります。発言力の強い子どもの意見に流されたり、安易に問題を決めたりすることがないように机間巡視をしながら支援をします。検証可能な問題であるか、導入で整理した気づきを生かした問題になっているかなどを意識できるように、声かけすることが大切です。
4.思考ツールを用いて学級の問題を設定する場面
グループでの話合いの後は、出された問題をもとにクラス全体で話し合います。本実践では、話合いの際、伝えたいこと、大事なことを絞り込むために「ピラミッドチャート」という思考ツールを使用しています。
黒板に全てのグループの考えた問題が揃いましたね。では、ピラミッドチャートを使って話合いをしよう。
「ピラミッドチャート」って確か思考ツールと言われるものだよな。総合的な学習の時間で使ったことがあるような。
【ピラミッドチャート】
「吸収する」や「運ばれる」という言葉が入っている問題が多いね。
「根」や「葉」という言葉もキーワードになりそう。
2班・3班・4班の問題はそれ以外の問題と調べたいことが違う気がするなぁ。
2班・3班・4班の問題もよい問題ですが、水が運ばれることがわかった後に調べた方がよさそうですね。では、どの問題が、候補になりそうかな。
1班の問題は根を通ってどのように運ばれるかって書いてあって具体的でいいよね。
「元気になる」や「葉がシャキッと」は問題になくても大丈夫だよね。8班の問題が何を調べるか分かりやすくていいと思う。
候補にあがった問題は2段目におきます。学級の問題はどうしようか。
どちらかにするのではなく、二つを組み合わせるといいんじゃない。
葉まで水が運ばれていると思うから、「葉」という言葉を入れたいなぁ。
根だけでなく葉までどう運ばれるかという意見があるから、「植物全体」という言葉にしたらどうかな。
う〜ん。「水はどのように吸収されて植物全体に運ばれているのだろうか」がいいと思うんだけど、どう!?
いいと思う!キーワードも使えているし調べたいことがわかるね。
学級の問題が決まりましたね。ではノートに決まった問題を書きましょう。
おぉ! 子どもたちの意見から学級の問題が出来上がったぞ。ピラミッドチャートを使うことで、学習問題が整理されたんだ。
ピラミッドチャートを使った話合いにより、学級の問題を設定することができました。本実践では、2つの候補に絞った後、それぞれを組み合わせて一つの問題を作っています。
〜放課後〜
ありがとうございました! 子どもたちの対話の中から学級の問題を設定することができていて、とても勉強になりました。
それはよかった。やっぱり子どもたち自身が問題を設定することが大切だよね。自分たちが考えた問題だから、その後の追究意欲が高くなるんだよ。ただし、検証が難しいなど学級の問題として相応しくないものになってしまうこともあるので、そういった場合は先生が支援してあげてね。
わかりました! なんだか明日からの授業が楽しみになってきました。早速教材研究をしに理科室に行ってきます。
紹介したのは一例だから、チャートの使い方はアレンジしてやってみるといいよ…。ってもういないよ。A先生は子どもために一生懸命だな。笑
A教諭は先輩教諭の授業を参観して、問題の見いだしの授業のイメージがもてたようです。子どもたちが自ら問題を見いだし、それを練り上げ学級で追究できるような問題を設定することができれば、授業がもっと楽しくなります。ぜひ皆さんもチャレンジしてみてください。
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
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〈執筆者プロフィール〉
齋藤照哉●川崎市立日吉小学校教諭。平成21年より川崎市立小学校理科教育研究会に在籍し、理科教育の研究に携わる。横浜国立大学にてCST(コアサイエンスティチャー)プログラムを履修し、認定後は神奈川CST協会の事務局として理科の振興を目指し活動を行っている。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。