「練習ノートは縦でなく横に書こう」漢字の苦手な子も無理なく学べる!土居正博流メソッド②

関連タグ

漢字が苦手な子、漢字学習が嫌いな子はどの学級にもいるものです。そんな子どもたちが、無理なく楽しく漢字を学べる学習メソッドを、漢字学習の著書も多くもち、東京書籍小学校国語科教科書編集委員でもある土居正博先生が解説します。全3回の短期集中連載で送る第2回は、書く学習についてのメソッドです。

執筆/神奈川県公立小学校教諭・土居正博

漢字ドリルだけで覚えきるつもりで取り組む

子どもたちを見ていると、漢字ドリルの取り組み方が「いい加減だなぁ」と思ってしまいます。ただ「マスを漢字で埋めればよい」と考え、書き順の欄や用例の欄などには目もくれず、いい加減にマスを埋めている子が多くいます。これでは覚えられる漢字も覚えられません。

実は、漢字ドリルだけでもしっかり取り組めば、多くの子は漢字をしっかり覚えることができます。本当は練習ノートに何回も何回も書かなくとも、漢字ドリルで効果的に練習すれば、それだけでかなりの子が漢字を覚えることができるのです。もちろん、全員とは言いきれませんが、私が見てきた中で8割から9割ほどの子どもたちは漢字ドリルをしっかり練習しただけで、漢字を覚えられていました。

書き順を意識して何度もなぞることで覚える

書き順を意識してなぞり書きしよう。

漢字ドリルは、書き順が体に染み込むように取り組むことが大切です。そのためには、マスを埋めるだけではなく、「なぞり」を重視して取り組みます。

漢字ドリルでは、新しく学習する漢字が大きく示されています。それを指や鉛筆で書き順どおりになぞるように指導しましょう。なぞり書きのマスに取り組む前に、大きく示された漢字を指などでたくさんなぞるようにします。これだけで、漢字の習得が飛躍的に向上します。

子どもたちには、書き順どおりにしながらも、なるべく「素早く」なぞるように伝えましょう。そうすることで、短時間で何度もなぞることができます。練習ノートにたくさん書くよりも、短時間で効率的に書き順を体に染み込ませていくことができるのです。

なぞる回数は、漢字の複雑さや子どもの覚えの早さなどにもよりますが、10回はなぞってから、マスを埋める学習に入るようにするとよいでしょう。

ノート練習は縦でなく横に書く

漢字練習と言うと、縦に同じ字を連続で書いていくことをイメージされる方がほとんどではないでしょうか。かく言う私も同様であり、ずっと子どもたちにそのように練習させていました。

この方法が、まったく効果がないとは言いません。しかし、縦に同じ字を何度も書かせると、ただマスを埋めるためだけに書いてしまって、作業的になったり雑になったりします。こんな書き方をしていては、書き順が体に染み込まないので、漢字を覚えられません。

縦に同じ字を書いていくのは、実は漢字を覚えるという点においては非効率です。なぜなら、「忘れる」ことがないまま何回も繰り返し書くことになるからです。脳科学では、いったん「忘れ」、それを「思い出す」ことで記憶が強化される、とされています。この「思い出す」ことを「想起」と言います。記憶を強化していくには、「想起」を意図的に繰り返していくことが大切なのです。ところが、縦に連続で書いていくと、「忘れる」ことなく何度も漢字を書くことになってしまうわけです。これでは、「想起」する暇もないのです。

そこで、私は漢字練習を下図のように横に書き進めていくことをおすすめしています。

あらかじめ、その日に練習する漢字をノートの上のほうに書き出しておき、その下に漢字を練習するスペースを確保します。そして、縦に同じ字を連続して書くのではなく、横に書き進め、毎回違う字を書いていくようにするのです。

毎回、違う漢字を書くことがポイント。晩・晩・晩・晩…と縦にマスを埋めていくのではなく、晩を書いたら、晩の熟語(例:今晩)、次の漢字の片を書き、片の熟語(例・片言)、次の漢字の翌と、横に漢字を書いていく。
毎回、違う漢字を書くことがポイント。晩・晩・晩・晩…と縦にマスを埋めていくのではなく、晩を書いたら、晩の熟語(例:今晩)、次の漢字の片を書き、片の熟語(例・片言)、次の漢字の翌と、横に漢字を書いていく。

これにより、毎回違う字を書くことになるので、「忘れる」→「思い出す」というサイクルを毎回組み込むことができます。結果的に「想起」することが増え、記憶を強化することができるのです。

縦ではなく横に書く、というのは書く方向が重要なのではありません。同じ字を連続して書くのではなく、毎回違う字を書くことが大切なのです。そのほうが記憶が強化されるからです。また、毎回違う字を書くので気持ちがリフレッシュされ、雑になりにくいというメリットもあります。

子どもたちにこの練習法を教えると、初めはどの子もびっくりします。「漢字は縦に書くもの」という固定観念があるからです。しかし、慣れていくと、「こっちのほうが覚えやすい!」と言う子が増えていきました。

土居正博流「漢字学習」メソッドを詳しく知りたい先生方に

『家庭学習で100倍「漢字力」を伸ばす!』

『家庭学習で100倍「漢字力」を伸ばす!』表紙

宿題としてほぼ毎日のように学習しているにもかかわらず、定着率が低く、学年が進むにつれて漢字嫌いになる子が多い漢字の学習。
本書は、今までの漢字学習の問題点を説き明かしながら、漢字嫌いの子どもも、宿題の漢字ドリルや練習ノートを使いながら漢字力を楽しく確実に身に付けられる、とっておきの方法を紹介します。子どもの漢字学習に悩んでいる先生方や保護者の方にぜひお薦めしたい1冊です。

2023年8月22日発売 著/土居正博 小学館 1650円(税込)

「漢字ドリルを1冊まるごと音読しよう」漢字の苦手な子も無理なく学べる!土居正博流メソッド①
「学習した漢字の熟語を集め意味を推測しよう」漢字の苦手な子も無理なく学べる!土居正博流メソッド③

【土居正博プロフィール】

どい・まさひろ●1988年、東京都八王子市生まれ。神奈川県川崎市公立小学校教諭。東京書籍小学校国語科教科書編集委員。国語教育探究の会会員。全国国語授業研究会監事。全国大学国語教育学会会員。国語科学習デザイン学会会員。国語科を中心に、子どもに力を付け、育てる指導を日々追究している。
〈受賞歴〉「わたしの教育記録」(日本児童教育振興財団)「新採・新人賞」(2015年)・「わたしの教育記録」(日本児童教育振興財団)「特別賞」( 2016年)・「読売教育賞」(読売新聞主催)「国語教育部門優秀賞」(2018年)・「国語科学習デザイン学会優秀論文賞」(2020年)

参考文献/
土居正博著『クラス全員が熱心に取り組む!漢字指導法』(明治図書出版)
土居正博著『イラストでよくわかる!漢字指導の新常識』(学陽書房)

イラスト/霜田あゆ美

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
関連タグ

授業改善の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました