教師の夏休み・一人合宿のススメ!~つかの間、自分と向き合ってみようよ~
普段は忙しい皆さんも、夏休みの間くらいは、ちょっとしたゆとりが生まれるのではないかと思います。そんなとき、遊びに出かけてパーッと発散するのもいいですし、ガッチリ学ぶのも素晴らしいですが、わたしはぜひ、皆さんの心のなかで旅してほしいなあ、と思います。ちょっと大げさに書きましたが、物語の主人公をお手本(ロールモデル)にして、自分を見つめ直してみてはどうかと思うのです。
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
目次
1 毎日の生活に違和感があるなら…
皆さんは、職員室の環境に馴染んでいますか? 職場での人間関係は良好ですか? そして、仕事にしっかり向き合えてますか?
きっと多くの方が、多少なりとも違和感をもっているのではないかと思います。
そして、もし違和感をもっているのなら、その正体が何なのか、しっかり思考して言語化していますか?
あるいは、その違和感や問題意識を解決するために、何か具体的な手法を取ろうとしていますか?
そんなとき、ロールモデル(お手本)を自分の中に設定しておくと、大きな手助けになります。
例えば、身近な研修会の講師や、あるいは研究サークルの先輩方に、そんな人を見付けられるかもしれません。しかし、リアルな人の場合、時間的にも物理的にも頻繁に教えを乞うということはできないですよね。
そこでわたしは、書籍の中に、自分のお手本を見付けることをオススメします。
書籍の中で語られている主人公の生き様には、始まりがあり、プロセスがあって、結末があります。つまり読者は、主人公の人生を通して、その思考や行動をつぶさに捉えながら、それらを評価し、自分の行動の指針として捉え直すことができるのです。この評価的な思考は、あなたが、あなた自身の心に向き合うことと同じだ、とわたしは思います。
主人公の行動に深く共感するなら、その行動や思考方法をまねしてみましょう。
あるいは、自分ならこうするな…と、新しい方法に気付くかもしれません。
そうです。そのようにして、より能動的に、問題解決していく力につながっていくと、わたしは思うのです。
2 読書休暇一人合宿のススメ
マイクロソフトの創始者、ビル・ゲイツ氏は、「1週間の読書休暇」として、集中的に読書の時間をとっているそうです。
ただ情報を得るだけなら、スキマ時間でもいいでしょう。しかしそれは、じっくり考えるのには向きません。
夏休みに、ぜひ一人の時間をとれるよう、どうにか工夫したいです! そして、ロールモデルを探す旅に出かけてみませんか? わたしはそれを、一人合宿と呼んでいます。自分と本との合宿です!
① ショート一人合宿
ネットカフェ、ホテルのデイユース、カラオケルームの1人利用です。自分以外誰もいない空間をつくり出し、持参した書籍をじっくり読み込みます。それぞれの環境に応じて、気楽に気分転換できるのがよいですね。
② ミドル一人合宿
ちょっとした一人旅をします。普段とは違う環境で心がリフレッシュすることはもちろん、座机に座ったり、寝っ転がったり、ベランダに出たりと、家ではできないような、いろいろなリラックス方法を試せるのもいいですし、風呂や食事の面倒がないのもいいですね。
わたしの知人に、この合宿の愛好者がいます。学びと気分転換の、いいとこ取りだそうです。
③ ロング一人合宿
昔は避暑地に「学生村」というのがあり、夏は涼しく静かな環境で勉強をする、というのが流行っていました。みなさんも、大学のゼミ合宿でそんな体験をしたことはありませんか? ゼミ合宿では、飲み会など何かとにぎやかだったと思いますが、一人でいけば、邪魔するものは何もありません。
わたしは、同じく教員をしている妻と相談して、1年ずつ交互に1週間の一人合宿休暇を取得していました。家事や子育てなどいろいろなものから解放され、完全な自分時間をつくれるのは計り知れないメリットだったと思います。
3 オススメの文学作品
古典から最近の小説まで教師が登場する文学作品を紹介します。現代とは社会情勢や価値観が変わっていることも多いのですが、長く支持される作品には、それなりの理由があります。人生や人間に対する深い洞察があり、学ぶところが多いと思います。()内は初版発行年です。
●島崎藤村『破戒』(1906) 被差別部落出身の主人公教師を中心とした社会派の作品
●夏目漱石『坊っちゃん』(1906) 江戸っ子気質の坊っちゃんとまわりの教師たちのポップなやりとりが楽しい作品
●中勘助『銀の匙』(1921) 筆者の子ども時代の心の中を、豊かな感性で素直に書き残した作品
●石坂洋次郎『何処へ(いずこへ)』(1939) 田舎町に赴任してきた新卒教師とまわりの人々とのふれ合いを描いた作品
●壺井栄『二十四の瞳』(1952) 戦前戦後の動乱期「おなご先生」の苦闘と、12名の子どもたちとの時間を超えた心のふれ合いを描く作品
●灰谷健次郎『兎の眼』(1974) ゴミ焼却場のある町の小学校を舞台に、教師になりたての若い主人公の活躍を描いた作品
●新田次郎『聖職の碑』(1976) 木曽駒ヶ岳集団登山で遭難した教員と生徒の、極限状態の愛を描いた作品
●三好京三『分校日記』(1977) 分校での教員夫婦と児童たちとの心のふれ合いや教師としての生き方を描いた作品
●重松清『青い鳥』(2007) 深い悩みや悲しみをもつ中学生たちと、国語教師なのに喋ることが苦手な教師との絆を描いた作品
●石田衣良『5年3組リョウタ組』(2008) 茶髪でイマドキの見た目だが、誰よりも熱い心をもつリョウタ先生の活躍を描いた作品
●重松清『せんせい。』(2011) 大人になった子どもたちが、今だからこそ理解できる教師の教えに恩情の念を新たにする作品
●長岡弘樹『教場』(2013) 警察学校という、全く異なる価値観の教育現場を描いた作品
もちろん、教職についているわたしたちは教師が出てくる作品でなければならないということではありません。ほかの職業の人でもいいわけです。広く読書をしていきたいものです。
4 教育活動を支えるもの
自宅には、家族が買った日本の歴史、日本文学、世界文学、美術、世界遺産、世界地理、宮沢賢治などなどの全集があります。高校時代の夏休みはこういったものに目を通していました。
教員になってから購入した全集で、教育関係では、野口芳宏氏、有田和正氏、向山洋一氏、森隆夫氏などの全集などがあります。
ある友人は、何か困ったことや行き詰まったことがあると、教科教育論、道徳教育論、学校経営論など広く論じている野口芳宏氏の全集を読むと言っていました。わたしもそれに習い、野口氏の全集に目を通すことが多くなってきました。何かしら解決のヒントがあります。哲学書のような、深い思考が詰まっているのです。こうして思考法を学んでいくのも、非常に有効だと思います。
☆好評連載中! 野口芳宏先生の「本音・実感の教育不易論」はこちら!
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初任者教員への指導を行っている知人に、無着成恭氏の本『山びこ学校』(1951)を使い、初任者たちと輪読会をしている人がいます。無着氏は教育の実践家として、後に僧侶・教育評論家として活躍した人です。その教育活動の根幹には、仏教をもとにした深い哲学と慈愛の心があります。素晴らしい教育活動の根幹にあるものは、教育哲学であり、教育思想です。
こういった、心のなかから湧き出る源泉のようなもの、依って立てる強固な土台となるものを築かずに、目の前の学級経営や授業をこなすために教育技術だけを学ぶというのでは、やがて思いは枯れ果て、揺らげば倒れてしまうことでしょう。自分が成長し自分の実践を展開するようになるためにはやはり、人間性という根幹をしっかりもつべきです。
長い夏休みに自分と向き合うことに時間をとり、より確信的に毎日を過ごしていけるような、目指すものや信じるものをつくっていくのはどうでしょうか。
イラスト/したらみ
【参考図書】
文学でつづる教育史 伊ケ崎 暁生 /民衆社
教師の悩みは、すべて小説に書いてある: 『坊っちゃん』から『告白』までの文学案内 波戸岡景太/小鳥遊書房
こんな問題を抱えているよ、こんな悩みがあるよ、と言う方のメッセージをお待ちしています!
その他にも、マスターヨーダに是非聞いてみたい質問やアドバイス、応援メッセージも大募集しています! マスターはすべての書き込みに目を通してますよ!
マスターヨーダの喫茶室は土曜日更新です。
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。