菊池省三の教師力UP道場:子どもの可能性を引き出す「あおり力」とは
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- 菊池省三の教師力UP道場
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菊池省三先生が伝説の授業の達人(鳥?)であるフクロウのショーゾー先生となって、ラビ子・ツネ夫・タヌ吉の3人、いえ3匹の教師のタマゴたちに「生きた授業技術」を伝授するお話。第4回は、子どもたちの意欲を高める「あおり力」についての講義です。
監修/菊池省三
きくち・しょうぞう。959年愛知県生まれ。2014年度まで福岡県北九州市の小学校教諭を務め、退職。現在、教育実践研究サークル「菊池道場」主催、高知県いの町教育特使、教育実践研究家。『菊池省三の学級づくり方程式』(小学館)ほか著書多数。
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目次
「スモールステップで学ぶ 授業ライブ力」とは!?
みなさんは、今の授業に満足していますか?
大学や初任者研修などで学んだ教育技術だけでは不十分だと感じたことはありませんか?
もっと子どもたちを引きつける充実した授業をつくりたいと思いませんか?
ラビ子、ツネ夫、タヌ吉の3人、いえ3匹も、そんな思いをもっている教師のタマゴたちです。
この連載は、3匹が「森の大学」の伝説の授業の達人(鳥?)であるフクロウのショーゾー先生のもとで、大学では学びきれなかった「生きた授業技術」を悪戦苦闘しながら学んでいくお話です。
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温かい気持ちで挑発!〜子どもの可能性を引き出す「あおり力」
ライブ力=(事前準備+教室の空気を読む力+子供を引き出す力)× 教師の人間性
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キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
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さてと、本日の「授業ライブ力」の講義を始めるぞい。
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先生!
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なんじゃい、ラビ子?
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「森の日曜学校」で、前回習った「10秒間で子どもをぐっとつかむ構成力」に挑戦してみたら、とってもうまくいきました!
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ほう、どんな様子だったんじゃ?
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はい。教室が少しざわざわしていたので、黙って黒板に「やる気」と書いてみたんです。そうしたら、子どもたちが「なんだなんだ!?」ってパッと集中したんです。
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それはよかったのう。
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先生!
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なんじゃい、ツネ夫?
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タヌ吉も挑戦してみたのですが、うまくいきませんでした〜。
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どんな様子だったんじゃ?
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自分が小学四年生の頃の写真を見せたら、「ヘンな顔ーっ!!」って、違う方向で盛り上がっちゃって、授業にならなかったんですよ。
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「ヘンな」じゃなくて、「かわいい」だったよ!
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まだこの講義の極意をきちんとつかんどらんようじゃの。まあ、いいわい。
さあ、今日の講義「あおり力」に入るぞい。「あおり力」というのは、子どもたちのやる気を出させるために、意図的に挑発したり、適度な負荷を与えたりして、具体的な目標を与えて、意欲的に活動させる力じゃ。子どもたちの可能性を信じて行うパフォーマンス技術といえようぞ。
具体的に4つの方法を紹介しようかの。まず1つめ「〜した人から席に戻りましょう」じゃ。 手をあげた子どもを指名するだけでは、緊張感もなく授業がダレてしまう。そこでときどき、『○班の人は前に出ましょう』と指示するのじゃ。前に出てきた ら、教壇に腰かけさせて『発表した人から席にもどりましょう』と声をかける。つまり、順番を決めないで、「早い者勝ち」とするのじゃ。
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「早い者勝ち」ですか?
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そうじゃ。ただし、子どもたちを追い立てるのではなく、「楽しさ」が感じられるようにするのが大切じゃぞ。『最後になると少し恥ずかしいよね』などと、 ユーモアたっぷりに「あおり」を入れるのがポイントじゃ。「どの子も必ず発表できる」と子どもを信じる教師のやさしさが大切じゃ。
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なるほど〜。
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子どもたちは、最後になりたくないので考えを早くまとめたり、書いたノートを早く読もうする。先を争って立ち上がり、発表しようとする。次々と発表した子が、教室前から自分の座席に帰っていく。……すると、授業の中に緊張感が生まれてくるのじゃ。
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最後に残っちゃうのはつらいなあ。
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もちろん、最後になった子どもにもフォローが大切じゃ。「さすがですね。最後になっても落ち着いていいことを話しました」「前の友だちと違う考えがよかったですね。○○くんらしい発表でした」などと言ってほめてあげるひと言を忘れずにの。
この方法が定着すると、「今日1日でがんばったことを○班の人、前に出て話しなさい」「各グループの班長は前に出て、今話し合ったことを話しなさい」というように、いろんな場面で使えるようになるぞい。授業や活動にリズムとテンポが出てくるのじゃ。
自分から発表する、「恥ずかしい」「どうしよう」といったマイナスの気持ちがなくなるという効果もあるんじゃ。
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ふーん。
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2つめは、「早く○○をしたい人?」。子どもを「やさしく」急がせる方法じゃよ。たとえば、「このクラスのよいところを3つノートに書きなさい」と指示した後に、机間指導の中で、「3つめを書いている人?」(何人かが挙手)「2つめを書いている人?」(多くの子が挙手)と声をかけてみる。当然、2つめも書けていない子はあせるじゃろう。「次は、1個しか書けていない自分の番だ、恥ずかしいな」と感じているはずじゃ。そこで、 「早く3つを書きたい人?」と聞くんじゃ。
これなら、後ろめたさを感じることなく手をあげることができるじゃろう。教室の中に安心感とやる気が出てくるし、なにより、どの子も笑顔になって、ホッとした雰囲気が教室の中に一気に出てくるんじゃ。もちろん書くスピードもアップじゃ。
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ツネ夫なんか、いつもイヤミばかり言っちゃうから、この方法は役立つよ、きっと。
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うるさいなあ、余計なお世話だよ!
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これこれ、次に行くぞい。4つめは、「では始めます。○分です。スタート!」じゃ。集中して作業をさせたいときに使うといいの。○分という数字は、子どもの具体的な達成目標となる。ストップウォッチを片手にこの指示をすると、特に効果は大きいのじゃ。教室の中が鉛筆の動く音だけになるぞい。
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これって、よくある方法ですよね〜?
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そうじゃよ。よくある方法じゃが、もう少しひねりを加えるんじゃ。たとえば、内容によっては、子どもと話し合って時間を決めてもいいの。そこで、ユーモアを1つプラスするんじゃ。
子どもが、5分ぐらいほしい」と言ったら、「わかった。では、3分!」というように、子どもの要求よりも短くすることがポイントじゃ。子どもたちは、「えーっ!!」と言いながらも、パッとノートに向かって書き始める。最初は「先生ずるーい!!」「無理だよ〜」と大騒ぎになるが、すぐに笑顔で鉛筆を動かし始める。それだけ子どもは集中するんじゃよ。
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わあ、おもしろそう。子どもと教師のかけあいが目に浮かぶようです。さっそく、次の「森の日曜学校」でやってみようっと!
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ぼくもやってみるかな!
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え? 2 人とももう理解しちゃったの?
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タヌ吉の場合は、あおられちゃうかもね。
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(爆笑)
構成:関原美和 イラスト:柴田亜樹子
「小四教育技術」2007年9月号~2009年3月号に掲載した記事を再録。