【木村泰子の「学びは楽しい」#15】休み時間の子どもの様子を見ていますか?
すべての子どもが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載第15回目。今回は、「休み時間」をテーマに、誰一人取り残さない学校づくりについて考えていきます(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】
執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子
目次
学校はトラブルが起きて当たり前
5月の連休が終わり、子どもも大人も、そろそろ緊張感がほぐれて疲れを感じるころなのでしょうね。子どもは、友達との関係性の中でトラブルが続出するころでもあります。
学校はトラブルを起こしてはいけない場所などと思っているから、先生たちが疲弊していくのですよ。すべての子どもが学校という学びの場で主体的に学び始めれば、トラブルが起きることは当たり前です。トラブルはピンチではなくチャンスなのです。トラブルは大人が解決するものではなく、大人の仕事は子ども同士をつなぐ「通訳」に徹すること。解決するのは子ども自身です。
特に、休み時間の子ども同士の関係性の中には、子どもにとっての困りごとがたくさん見られます。本来、子どもは休み時間が大好きです。ところが、日によって子どもの表情は様々なのです。
休み時間は先生たちも休みたいと思うのが道理でしょう。しかし、他の時間に休む工夫をして、子どもたちが運動場で遊んでいるときに、教室を回ってみてください。1人で教室に残っている子がいるなど、授業の中では見えない子どもの表情や行動・言葉に出合うことでしょう。そんな時、どんな声をかけるとその子が安心して心の声を聴かせてくれるかを考え、チャレンジするのです。
「休み時間がなかったら学校に行ける」
学校に行っていない5年生の子どもの声です。「休み時間がなかったら学校に行けるのだけど……」と言います。読者のみなさんはこの子どもの声から何を感じられますか。私は、正直ハッとさせられました。この子どもの声は、私たちに多くのことを教えてくれています。
まず、授業中と休み時間の子ども同士の関係性は違うということです。授業中は教員が管理しているから一人ぼっちになることもないが、休み時間はフリーになるので、自分の居場所がなくなると言うのです。
この子は、なぜ学校に行きたくないかを担任には言っていません。担任は、授業中に見るこの子の様子からは困り感を感じないので、この子がどうして学校に来られないのかが分からないのです。その子は、周りの友達にどのように話しかけてコミュニケーションをとったらよいのかが分からないから不安だと言います。こんなふうに感じて不安になっている子どもは当たり前にいるでしょう。
まずは「画一的に管理している授業」を壊さなくては前に進みません。管理する「画一的な授業」の中ではトラブルは起こりません。先生が安心して休み時間を子どもに任せることができるようになるためには、授業の中でこの子どもがもつような不安感をどんどん出し合って、授業の中で子ども同士をつないでいく先生の「通訳」が不可欠です。「不登校」過去最多の課題の解決は、授業を変えることからしか始まりません。
「みんな遊び」がもつ排除
教員養成の授業の中でのことです。「誰一人取り残さない学校をつくるために、現状の学校の何を捨てるか」という問いに、1人の学生が次のように自分の考えを書きました。
小学校のときに「みんな遊び」というものがあった。これは昼休みに外で遊ぶというもので、私はこれが嫌いで図書室で本を読んでいる方が楽しいので、外で遊ぶことを拒否した。すると、自分勝手だと先生に怒られた。ほかの人はみんな外で遊んでいるのにあなたもみんなに合わせなさいと運動場に連れていかれた。今もこのようなことが学校現場であたりまえに横行している。「みんなと同じことをしなさい」と指導されるが、それぞれの人の個性や意見を集団で否定することは許されないと思っている。(原文ママ)
「みんな遊び」の目的を学級の全員で対話し、合意できていればまた違う展開になるかもしれませんが、前例踏襲で「みんな遊び」ありきで進んでいくと、この学生のように理不尽を心の底に貯め込んでしまうのではないでしょうか。
また、何をして遊ぶかを決めるときに、多数決で決めていませんか。多数決で事を決める方法はやめませんか。多数決に変わる手段として「対話」があるのです。
誰一人取り残さない学校づくりは、誰一人置き去りにしない社会づくりにつながらなければなりません。多数決によって、「少数派の意見を切り捨て、決まった以上は従うのが当たり前だ」と言わんばかりの強制力を子どもに教えてしまっていませんか。「みんな遊び」の是非を論じるのではなく、「みんな遊び」の目的を明確にして、学級のすべての子どもの合意のもとに進めることが大切なのです。
例えば、「学級の全員が楽しめるみんな遊びを考えよう」とのミッションを子どもに与えてみたらどうでしょう。きっと、子どもたちは「難しい」「そんなの無理」「先生はいい考えがある?」などと言って、困り感が満載になることでしょう。ここからが、学びのスタートです。
休み時間には、誰一人取り残さない学校をつくるためのヒントがいっぱい溢れていますよ。
〇休み時間は、子ども同士の関係性から生まれる困りごとや授業では見られない子どもの表情・言葉に出合える。トラブルをチャンスととらえ、「通訳」として子ども同士をつないでいこう。
〇誰一人取り残さない学校づくりのために、物事は「多数決」ではなく、「対話」で決めよう。目的を明確にして、学級のすべての子どもの合意のもとで進めよう。
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きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。