先進校レポート|翔和学園 ギフテッド教育の課題とは? 【発達障害8.8%をどう受け止めるか #7】

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発達障害8.8%をどう受け止めるか
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「通常学級の小中学生の8.8%に発達障害の可能性」という調査結果を専門家はどう受け止めているのかを知り、学校の未来を考える7回シリーズの最終回です。文部科学省は2023年度から特異な才能のある子どもへの支援に乗り出すことを表明し、日本のギフテッド教育が動き出そうとしています。そこで、ギフテッド教育にいち早く取り組んできた翔和学園(東京都中野区)を訪ねました。

本企画の記事一覧です(週1回更新、全7回)
 提言|川上康則 学校管理職に気づいて欲しいのは「学校が子どもに合わせる時代」になったこと
 提言|児童精神科医が指摘! 発達障害の子どもと不登校の関係は?
 提言|木村泰子 「困っている子が困らなくなる学校」をつくる
 提言|赤坂真二 今、学校がすべきなのは学級経営のUD化
 提言|授業づくりのポイントはUDL×「個別最適な学び」
 提言|中邑賢龍 学習障害の子どもの見つけ方とICT支援
 先進校レポート|翔和学園 ギフテッド教育の課題とは?(本記事)

2015年からギフテッド教育に取り組む

翔和学園には、小中学部、高等部、大学部があり、小中学部はフリースクール、高等部は民間の教育機関として位置づけられ、大学部は、18歳以上の支援を必要とする若者向けの障害福祉サービスを提供しています。この学園に通うのは、ADHD(注意欠陥・多動性障害) と ASD(自閉スペクトラム症)の両方を持っている人、あるいは片方を持っている人、学習障害がある人などです。現在の学生数は90名で、その内訳は小中学生が8名、高校生が8名、大学部の学生が46名(正確には「大学生」ではない)、さらに、卒業後、就職のトレーニングを受けている人たちが28名います。卒業後のメンバーは、就活メインの人だけではなく、作業ベースで過ごしている人もいるそうです。小中学生は学区内の小中学校に在籍していますが、不登校やいじめなどにより、校長先生の許可を得てこちらに登校しています。

同学園でギフテッド教育を始めたのは2015年からです。

「当時、私たちは IQ が130以上で、学校の授業に適応できない小学生を支援していこうと考え、ギフテッドクラスをつくりました。海外の事例を参考にしながら、コミュニケーションの苦手な子どもに対し、アカデミックの部分に集約して教育をしていこうと考えたのです。IQ130以上であることを基準とし、理系の科目で没頭するほど興味を持っていることについての作文を課して募集しました。結局、入れ替わりはありましたが、クラスの人数は10名程度でした」と語るのは、同学園の広報担当で、学生の支援を行っている大学部の石川大貴さんです。

ギフテッドには、2つのタイプがいるそうです。

①天才タイプ
②2E(twice-exceptional、二重に特別な)タイプ

才能のある人たちの中で、発達障害などの特性がある人は、二重に特別な教育ニーズを持つ、2E(トゥーイー)タイプとされ、それ以外の人たちが天才タイプです。

①については、学習面でギフテッド教育に近いことを行う教育機関はすでに数多くあり、先取り学習は塾でも行われています。同学園のギフテッド教育の対象は②であり、そのような場所にうまく適応できなかった子どもたちです。IQ が高い人たちは、発達障害を併存している可能性が高いと言われています。具体的には、高 IQ で ADHD、高 IQ で ASD などの子どもたちであり、発達に凸凹があり、ある分野では突出した才能を示しますが、苦手なこともある子どもたちです。

わずか3年でクラスを解体した理由

しかし、それからわずか3年後の2018年までに、同学園ではギフテッドクラスを緩やかに解体してしまったというのです。その理由を石川さんに聞きました。

理由1弁は立つが本質的な理解をしていない

「ギフテッドクラスでは、子どもが一人一人、興味のあるテーマに特化して学習に取り組みました。子どもたちは皆、IQ が高くて弁が立ちますので、調べたことをプレゼンさせると、次から次へとよどみなく話します。相対性理論がどうのこうのと言えば、大人から拍手をもらって『すごいね』とほめられます。しかし、実は調べた資料に書いてあることや、YouTubeやテレビ番組などを通して聞きかじったことを暗記して話しているだけであり、本質的な理解をしていないことに気づいたのです。本来は、基礎学力が積み重なっていく中で徐々に高度な学習へと進んでいくものですが、基礎学力がないために、周囲の大人の興味を引きそうな話を覚え、表面的な知識がついたところで終始してしまい、本格的な学びや研究へつながっていかなかったのです。学校教育とは、しつけも含め、子どもが将来、社会に出ていくための土台を作ることが重要だと思うのです。IQが高い子どもを集めて、それぞれが好きなことだけを学んでも、土台を作ることはできないと判断しました」

理由2子どもと保護者に差別意識が生まれる

「これはギフテッド教育の本質的な問題だと思うのですが、『自分たちは IQが高い』と知ると、子どもの中に差別意識が生まれてくるのです。当学園の他の学生たちと、『自分たちは違うんだ』と思い始め、それが言葉や態度に表れます。保護者にも『うちの子どもは、他の子どもたちとは違う』という意識が強くなってしまいました」

さらに、取り組んだからこそ見えてきた、ギフテッド教育の難しさや課題を教えてもらいました。

① IQ の高さだけではギフテッドと判断できない

「当学園が考えるギフテッドとは、平均より高い能力があって、創造性があり、学ぶ意欲がある子どもたちです。IQ130以上という基準はクリアしても、小学生の段階で、理系の分野の一つのことに興味を持って寝食も忘れるほど没頭し、学び続ける意欲のある子どもを集めるのは難しいことでした。IQが高いだけでギフテッドであるとは判断できないのです」

②才能の判断が難しい

「小学生でありながら、高校生レベルの勉強をしている子どもがたまにいますが、それだけでギフテッドであるとは言えません。学校の勉強には必ず答えがあり、パターンを覚えればできるものだからです。世界各国の国旗を全部覚えました、円周率の3.14の続きを100桁言えます、恐竜の知識が豊富ですなど、これらは人よりも優れた才能ではありますが、ギフテッド教育に期待されるのは、社会に評価され、社会に求められる才能です。そうなると、どの子どもの才能がギフテッド教育にふさわしいのか、その判断が難しくなります」

③保護者の期待が大きい

「保護者の中には『うちの子どもは発達障害ではなくてギフテッドです。ギフテッドのための教育をしてください』と言ってくる方がいます。『普通の人よりは』凄いだろうと、そういうレベルの才能でも、わが子がアインシュタインやエジソンになることを期待してしまうのです。ギフテッドという概念にくくることで、社会的な成功ルートに乗せた進路設計、つまり、わが子が東京大学などへ進学することなどを望み、それを要求してくるのです。

ギフテッドの光と影

才能と発達障害、その両方を持つ 2E の子どもたちに、学校はどう対応したらいいのかを考えていくために、まずは世界の標準とされる、ギフテッドチャイルドの特徴をご紹介します。

<ギフテッドチャイルドの特徴>
 記憶力が非常に高い
 すぐに物事を学び判断できる
 年齢の割に語彙が多く、複雑な文章構造で話せる
 数字やパズルなどの問題を楽しむ
 感情の起伏が激しく、神経質
 社会や政治、不正に対して関心がある
 想像力があり、空想に夢中になる
 好奇心が強い
 集中力が高い

出典:N. Colangelo & G.A.Davis. Ed. Handbook of Gifted Education (3rd Ed. Ed). Pearson Education, inc.
 Johnsen, S.k,: Identifying Gifted Students: A Practical Guide. Waco, Texas: Prufrock Press, Inc, 2004.

「これらは全部ポジティブにとらえられていますが、学校ではネガティブに作用することが多いのです」と石川さんは話します。

記憶力が高いので小さいことまで覚えていますので、先生の発言の間違いを指摘し、歯向かいます。
理解が早いので、授業中に発言したがり、先生から授業妨害だと思われます。
年齢の割に複雑な文章が話せるので、友だちにとって「わけがわからない」ことを言い、トラブルを起こしやすいのです。先生からは生意気な奴だと言われます。
数字やパズルを楽しみますが、つまらないと思った授業はやる気になりません。
感情の起伏が激しくて神経質なので、癇癪を起こしたりします。
絶対的な正義感を持っていたりすると、柔軟性がありません。
想像力がありますが、突拍子もないことを想像し、現実的なことが考えられません。
 好奇心が強すぎるので、授業がつまらないと感じます。
集中力が高いので、例えば、図工の授業で一度集中したら、次の時間にもそれを続けたいと言い出します。

「驚くべきことに、子どもにタブレットを渡して、『授業を邪魔しなければいいので、YouTubeを見ていてください』と言う先生がいるようです。そのため、無駄な時間を過ごしているからと、私どものようなフリースクールに来て勉強したいと相談を受けることがあります。先生が対応しきれないのでしょう。これは先生が悪いわけではなく、今の学校のしくみがこの子どもたちに合っていないのだと思います

2Eの子どもに学校はどう対応すべきか

同学園では、2E タイプの子どもはどんな学び方をしているのでしょうか。

「彼らは IQが高いですから、既存の知識を使ってたいして努力をすることなく、テストで高得点を取ることができます。だからこそ、その先に進めない子どもがほとんどです。答えがある世界の中で生きていくことが多いのです。しかし、社会に出ると既存の答えのストックを持っているだけでは役に立ちませんから、先に進めなくなっている子どもをそこから出してやらなくてはなりません。そのためには、他者の批判を受け入れる態度を養い、学びのスパイラルをつくっていく必要があり、その際に大事なのは対話する力です。だからこそ、当学園ではギフテッドクラスを解体し、多様な人たちの中で過ごさせることにしたのです

同学園を訪ねると、広い空間に小学生から18歳以上の学生まで、たくさんの人がいて、イラストを描いていたり、恐竜の図鑑をつくっていたり、パソコンでゲームをつくっていたり、それぞれの作業に取り組んでいました。小中学生に対しても、年齢が上の学生に交じりながら、個別の才能を特性に合わせた形で教育する、という意味での「個別最適な学び」が行われています。今はギフテッドの基準などは特に設けておらず、学校で困り感がある子どもを受け入れていますが、IQが130を超える子どももいます。

壁の一角には自学ノートが展示されていました。子どもたちが自分で興味のあるテーマを選び、学んだことを自学ノートにまとめたものです。見てみると、手書きでまとめてあり、それに対して指導者が赤ペンでコメントしています。学園内にはパソコンがあるのに、あえて手書きにこだわるのには理由があります。

「パソコンを使わず、手で書いて情報を整理するのは、ギフテッド教育から反省した点です。手書きなのは、そのほうがしっかりと考えることにつながるからです。子どもは、最初は資料を貼り付けるだけです。それに対して教師が赤ペンでコメントを入れながら学びを深めていき、自分でまとめて書く、というところまで成長しました。コピペは図鑑があればできますが、そこに学びはありません。次に、自分の書きたいことを書くだけでは、『すごいだろう』と自己満足をして終わりです。将来、社会で生きていくには、他者からのフィードバックを受け入れて、修正できるようになることが重要です。私たちは他者からの評価を受け入れられるようになることが成長であり、より良いものへと改良することが学びだと考えています

2Eタイプの子どもの対応で、学校はどんな点に注意する必要があるでしょうか。ポイントは3つあるようです。

一つ目は、同学年の子どもとの関わりが苦手だと認識することです。

「小中学生の場合は、高校生や18歳以上の学生がたくさんいる中で学ぶことが有効だと感じています。彼らは同学年の子どもとの関係づくりが苦手なのです。だから、学校でトラブルを起こすのです。それに対し、年齢が上の人たちは、ピアサポート的に関わってくれますので、うまくやっていけるのです。そういう意味では、学校は異年齢集団の交流を大事にし、同学年の子どもとの関わり方には注意を払う必要があると思います」

二つ目は、特別支援教育の対象に加え、必要な支援をすることです。

「2Eタイプは、テストの点が高いので、小学校では特別支援教育の対象にはならず、学習障害があってもそのまま過ごしてきていたり、情緒面の問題を抱えているのに何のフォローもされていなかったりします。テストの点には関係なく、特別支援教育の対象とし、必要な支援をしていく必要があります。以前、書字が苦手な子どもが、学校でタブレットの使用許可を求めたところ、許可が出るまでに3か月ぐらい待たされたことがあります。もっとスピーディーに対応してもらえればと思います」

三つ目は、一人一人の子どもをよく見て何が必要なのかを考えることです。

「これはギフテッド教育に限ったことではありませんが、一人一人をよく見て、その子にとって何が必要なのかを考えることが大切です。その中でもしかしたら才能の萌芽があり、人との出会いがあり、才能が開花するかもしれません。ただし、徹底的に勉強させて、有名大学に進み、有名企業に就職する、という成長モデルを描いて子どもを見ている限り、才能は見つけ出せないと思います。それぞれの子どもの才能が開花するところまでつなげていくために重要なのは、子どもを潰さないことですが、たいていは学校で潰されてしまいます。子どもたちは、先生から叱責を受け、いじめに遭い、不登校になるというパターンを経て当学園にやってきます。子どもたちを潰さないためには、学校の『こうあるべき』という標準をもう少し緩やかにして、そこから逸脱していても認めてやることが大事だと思います

8.8%の調査結果について

「小中学生の8.8%に発達障害の可能性」という調査結果について、意見を聞きました。

「当学園に来る子どもたちを見る限り、書字障害の子どもとADHDの子どもが増えていると感じます。書字障害の子どもの中には『書けない子ども』と『書かない子ども』がいます。前者は、いわゆる書字障害です。言語理解力は高いのですが、脳の処理速度が遅く、『板書をノートに写しなさい』などと先生から言われても、書けないのです。後者はただ単に書きたくないのです。これは、書く練習を小学校の低学年のときにしていない場合もありますし、生活の中で、そもそも文字を手で書く必要がなくなってきているせいもあるのかもしれません。一方、ADHDの子どもについては、日本の学校ではうまくいかないだけで、アメリカに行けば普通なのだということを、学校関係者には知っておいてほしいと思います。アメリカの学校には動きが激しい子どもが、日本よりもたくさんいますが、特に問題視されません。それだけ日本の学校は、子どもが『こうあるべき』という標準が厳しくなってきているのです。その部分を変えなければ、今後も、学校という枠組みに合わない子どもが増えていくだろうと思います」

最後に、学園長の伊藤寛晃さんに話を聞きました。

「ギフテッドとは、私たち大人が勝手に子どもの才能に対して高い、低いと評価をつけているだけであって、本当はただ『違い』があるだけです。IQが高い人の中には、暗記が得意な人もいれば、ひらめく人もいます。それらを統合するのが上手い人もいますし、いろいろな違いがあります。その違いの一つ一つに応じることに、今、当学園はチャレンジしています。その中で大事にしていることは、ネットワーク力です。教師一人の資質だけで、子どもたちの違いに合わせた教育をすることは無理ですから、子どもを外部の専門家や機関につなげています。子どもたちの個々の才能を伸ばすには、これからは学校も地域のネットワーク力を活用していく必要があるのではないでしょうか。

それから、子どもたちの才能を潰さないためにも、時代の変化に合わせた教育をしていくためにも、先生たちに求められるのは、社会人経験だと思います。子どもが自立した先の社会はどんなところで、そこで求められるのはどんな人材なのかを理解したうえで、そこから逆算して、目の前にいる子どもの教育を考える必要があるからです。研修で企業インターンを経験するなどして、先生たちが社会とつながれるといいと思います。

また、学校が子ども一人一人に必要な支援をしていくために、管理職に求められるのは『これは本当?』という自問自答だと思います。例えば、『やらなければいけない』と思っていることが本当に必要なのかを、法律や制度などで確認してみる必要があります。そうすると、やらなくていいことがたくさんあるはずです。当学園の教育の目的は『人間の生きていく気力を育てる』です。それを可能にするための最も根本的なことは、教師に生きていく気力があることです。学校ではそれが今、厳しくなっているのではないでしょうか。ですから、『これは本当?』と前提を疑いながら、やることを精選していく必要があるのではないかと思います。その決断ができるのは管理職だけです」

左から、翔和学園の学園長伊藤寛晃さん、大学部の石川大貴さん。

取材・文/林 孝美

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