別れの時を大切にするとは?【伸びる教師 伸びない教師 第28回】

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栃木県公立小学校校長

平塚昭仁
別れの時を大切にするとは?【伸びる教師 伸びない教師 第28回】

今回のテーマは、「別れの時を大切にするとは?」です。3月は別れの季節。子供たちはこの時期、心が揺さぶられるような別れの経験を繰り返しながら感性を高めていきます。それは教師も同じであるという話です。豊富な経験によって培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載です。

執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)

栃木県上三川町立明治小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を歴任。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。

伸びる教師は別れの時に思いを大切にし、伸びない教師は形だけ整えようとする。

心揺さぶられる別れを繰り返しながら感性が高められる

3月は、別れの季節とよく言われます。

卒業式、涙をこらえた教師を先頭に号泣しながら会場を後にする卒業生。

離任式のあいさつ、涙をこらえきれず言葉が詰まってしまう教師と下を向いて肩を震わせる子供たち。 

修了式、折り紙で作られた花束とたくさんのお手紙を抱え、目を真っ赤にしながら教室から出てくる教師。

イラスト1

学校ではこんな場面に出合うことがあります。

教師と子供たちの離れがたい思いが伝わってきて、こちらまで涙があふれてきます。

担任の教師と子供たちは、1日8時間近く教室という同じ空間で同じ時を共にしています。子供たちにとっては、自分の親と同じくらい、またはそれ以上の時間を担任や友達と過ごしていることになります。

また、ただ同じ時間を過ごしただけでなく、時にはみんなで大笑いしたり、時にはひとつの目標に向かって協力したり、時にはつらいことを励まし合いながら乗り越えてきたり、その学級の教師と子供たちにしかわからない「思い出」を共に創り上げてきました。

互いに別れがたくなるのは当然だと思います。

子供たちは学校というシステムの中で、こうした心が揺さぶられるような別れの経験を繰り返しながら感性が高められていると私は思っています。

それは、子供たちだけではなく私たち教師も同じです。

子供たちはどこに行っても先生のことを忘れません

私は、大学卒業後、地元の小学校で講師をしながら教員採用試験に臨んでいました。

小学校4年生を担任した時のことでした。

担任してから半年が経った頃、校長先生からこんなことを知らされました。

当時担任していた4年生の子供たちが、私が教員採用試験を受けているといううわさを聞き、「受かったら来年も平塚先生をこの小学校の先生にしてください」と署名を持って校長室にお願いにきたとのことでした。

そのことがずっと頭に残っていて、教員採用試験の面接が終わった後、自分でも思いがけない言葉が出てきました。

「もし受かったら今の学校に勤務することは可能なのでしょうか……」

次々に子供たちの顔が浮かんできて、言いながら涙があふれてきました。

学生時代の私はどちらかというとクールで涙も流さないほうでしたので、こんなに泣いている自分が不思議でした。

大人になって忘れかけていた感覚を、素直な子供たちと毎日を過ごすことで思い出したのかもしれません。

面接官の方が笑顔でこんな言葉をかけてくださいました。

「子供たちはどこに行っても先生のことを忘れませんよ。それにどこに行っても子供たちはいます。新しい子供たちもきっとかわいいですよ。これからも、出会いと別れを大切にしてくださいね」

出会いと別れを大切にできていたのか

あれから、数えきれないくらいの出会いと別れを経験してきました。

果たしてこれまで出会いと別れを大切にしてきたのかと聞かれると、正直、自信はありません。

ただ、いただいた言葉のとおり大切にしようとしてきた自分はいます。

卒業式や6年生を送る会では、形だけで終わらぬよう卒業生の思い、在校生の思いを大切に指導するよう心がけてきました。

また、別れの時には、相手が子供でも、意見を戦わせてきた同僚であっても、出会えたことに感謝し、共に時間を過ごせたことに対してお礼を伝えてきました。

とくに子供たちとの別れの時には、気持ちを伝えながら楽しかった思い出が頭に浮かんできて涙が流れることもありました。

きっと他の職業についていたとしたら、人との別れを惜しんで涙する自分はいなかったと思います。

今さらながら、教師という職業のよさを感じています。

構成/浅原孝子 イラスト/いさやまようこ

※第16回以前は、『教育技術小五小六』に掲載されていました。

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