国語科「海の命」②発問の極意#13〈単元計画づくりと導入の発問〉

連載
子どもの主体が立ち上がる 国語科 単元別 発問の極意

筑波大学附属小学校教諭

白坂洋一
国語科 発問の極意 バナー

前回は物語「海の命(いのち)」をもとに、教材分析と教材の特性について解説をしました。今回は単元計画づくりと単元導入の発問〈きっかけ発問〉を取り上げます。前回の教材分析シートもつけていますので、併せてご覧ください。

執筆/筑波大学附属小学校教諭・白坂洋一

 

単元計画づくり

国語科「海の命」発問の極意#2〈単元計画づくりと導入の発問〉 教材分析シート
教材分析シート:「海の命(いのち)」

物語「海の命(いのち)」で着目したい教材の特性は次の3点でした。

・中心人物「太一」の成長と登場人物とのかかわり
・山場における中心人物「太一」の変容と意味づけ
・題名「海の命(いのち)」に込められた象徴性

単元計画を立てる際、これら教材の特性に子どもたちがどこで出合うようにするかを構想しておく必要があります。そこで、以下のように発問と関連付けました。

・中心人物「太一」の成長と登場人物とのかかわり…誘発発問
・山場における中心人物「太一」の変容と意味づけ…焦点化発問
・題名「海の命(いのち)」に込められた象徴性…再構成発問

 

これを踏まえ、単元計画を以下の通りとしました。

国語科「海の命」発問の極意#2〈単元計画づくりと導入の発問〉 教材分析シート
単元計画表

【きっかけ発問】「たった一文だけ残すとしたら?

まず、〈きっかけ発問〉を取り上げます。
それが、

この物語で、たった一文だけ残すとしたら?

です。

「ごんぎつね」の実践でも紹介させていただいた通り、こちらの発問はあらゆる物語教材で使うことができる発問です。

子どもたちが物語と出合って問う導入時の発問は、その後の学習の方向づけを行う役割があります。この発問によって子どもたちが取り出した箇所を紹介し、教材分析の観点から、取り出した箇所が教師のねらいと一致しているのかを検証していきます。

この〈きっかけ発問〉によって、子どもたちがそれぞれ選んで取り出した一文が、以下の7つでした。

ア:父もその父も、その先ずっと顔も知らない父親たちが住んでいた海に、 太一もまた住んでいた。
イ:もりの刃先を足の方にどけ、クエに向かってもう一度えがおを作った。
ウ:「おとう、ここにおられたのですか。また会いに来ますから。」
エ:大魚は この海の命だと思えた。
オ:太一は村一番の漁師であり続けた。
カ:千びきに一ぴきしかとらないのだか ら、海の命は全く変わらない。
キ:巨大なクエを岩の穴で見かけたのにもりを打たなかったことは、もちろん太一は生涯だれにも話さなかった。

子どもたちがきっかけ発問によって、選び出した一文について、教材分析の観点から見ていきます。なお、私の本単元でのねらいは、中心人物の心情の変化や登場人物の相互関係をとらえ、物語を意味づけることでした。

上記7つの文を物語の構成をもとに分類してみます。すると、アは冒頭の一文イ~エは山場オ~キは結末の三文です。

は、物語の舞台が「海」であること、また「海の命(いのち)」を漁師たちがずっと守り続け、それが続いてきたことを意味する一文だと言えます。結末の三文である(オ~キ)からは、太一も父となり、次へと受け継いでいく命のつながりを読むことができますし、「あり続けた」「もちろん」という表現は瀬の主(クエ)との出合いを通した変容が示されている言葉だと言えます。

イ~エは太一の変容を読むにあたって、欠かせない山場の場面です。この場面で看過できないのは、「この魚をとらなければ、本当の一人前の漁師にはなれない」と「泣きそうになりながら」も、太一は「水の中でふっとほほえ」んで「クエに向かってもう一度えがおを作」り、瀬の主を殺さないで済んだ太一の葛藤、心情の変化です。そこで太一は、〈海に生きる、海とともに生きる〉という価値を見いだします。だから、太一は瀬の主を殺すことなく、瀬の主に向かって微笑むことさえできました。ここが心の転換点であり、心の葛藤を読むことによって、追い求めてきたクエにもりを打たない太一の変容をとらえることができます。

物語の舞台を表す冒頭の一文、そして山場、結末を中心とした読みの方向づけができたと言えます。

 

次回からは、具体的に単元計画づくりと発問を取り上げていきます。

   ・

白坂洋一先生へのメッセージを募集しています。連載「発問の極意」へのご感想やご質問、テーマとして取り上げてほしいことなどがありましたら、下記よりお寄せください(アンケートフォームに移ります)。

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
子どもの主体が立ち上がる 国語科 単元別 発問の極意

授業改善の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました