小針小学校の実践①【「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例Part2#2】

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小針小学校の実践①【「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例Part2#2】

新潟市の先進校、小針小学校の実践

新潟市は、文部科学省「StuDX Style」の事例提供にも名前を連ねる先進自治体ですが、その現場ではどのように実践を深めてきているのでしょうか。同市の先進校のうちの一つである新潟市立小針小学校で取材をしました。

写真左より、小針小学校の寺山晋一教諭、山田哲哉校長、小川雅裕教諭。
写真左より、小針小学校の寺山晋一教諭、山田哲哉校長、小川雅裕教諭。

持ち帰りの際に安心してiPadを使用できる環境整備

GIGAスクール実施初年の2021年度に小針小学校に異動し、GIGA推進リーダーとして同校の実践をリードしてきた寺山晋一教諭は、実践開始からの同校の取り組みについて次のように話します。

「私はGIGAスクール実施年に本校へ異動してきたのですが、前任校は1人に1台iPadを配付していたパイロット校で、同校で研究主任をしていました。ですから異動当初には、先生方のモチベーションにギャップを感じはしましたが、前任校での経験からモチベーションは次第に上がっていくという確信があったので、まずは粘り強く取り組もうと考えていました。
取り組みの最初には、まずアカウントの設定をこちらで行う必要があり、大変でしたね。それと並行し、研究主任の小川雅裕教諭からは、『まず、ロイロノート、Google Classroom、Zoomの3つのアプリだけはある程度使えるようにしてほしい』と言われ、先生方向けにiPadとロイロノートの活用で、書いたカードを子供のiPadへ送るような極めて基本的なところから少しずつ研修を始めていきました。
その後、当初設定のパスワードがシンプルすぎるということで5月に職員作業で変更を行ったうえで、6月頃から子供たちの各家庭への持ち帰りに向けて準備を始めていったのです。例えば、各家庭で使用のルールを決めるわけですが、使用時間に関しては、本校は睡眠時間を確保する『眠育』を行っていることから、家庭に任せるのではなく、一斉に夜9時から朝7時までは使わないよう設定をかけました。それも、本校側の作業ですから、市のICT支援員の支援も受けながら、全712台の設定を行いました。そのような準備をしてからICT端末の持ち帰りを始めたのですが、当初は一斉に毎日行うのではなく、少し持ち帰って各家庭での問題点をフィードバックしてもらった後、その改善点を共有したうえで、本格的な持ち帰りを実施したのです。
そうして7月に全校持ち帰りを開始し、それ以降は夏休みも含めてずっと持ち帰りを行っています。そのときには、登下校時は出して使わないなどの学校としてのルールは示し、各家庭での使用に関しては、時間帯や場所などについて各家庭でルールを決めてくださいというお願いをしました(資料1参照)。
こうした準備をしていた6月には全校朝会をZoomで行うような取り組みも始めました。その当初は音声が聞こえないといったこともありましたが、使っていくうちにどんどんそうした問題は出なくなっていきました。

(資料1)家庭でも活用を推進するための資料には各家庭で決めたルールを記載するようになっている。
(資料1)家庭でも活用を推進するための資料には、各家庭で決めたルールを記載するようになっている。

同時期に、児童会の代表委員会でiPadの使い方をどうするのかというような話も上がりました。そのときに、各学級で学校における使い方に関しての課題意識を共有し、考えるようにしようという議論がなされました。それから各学級での課題意識の共有ができたと思います。例えば、『自分たちのクラスでは昼休みにはiPadは使わないで、みんなで外に出て遊ぼう』というような基本的な約束を決めていったわけです。もちろん、これらの約束は学級の実態に応じて適宜更新をしてきています。
そのように試行錯誤しながらも、本市教委主催のGIGAスクール関係の伝達研修に参加したのですが、そこでの市教委の先生からのお話はそのまま伝えるのではなく、学校の先生方の実態に応じて咀嚼してお話をすることが大事だと実感しました。例えばクラウドについての説明で、クラウド・バイ・デフォルト原則という言葉が出てきたのですが、それは『情報システム化において、クラウド活用を第一候補とする原則』と言っても、校内の先生方には伝わりません。そこで、現在は端末本体にアプリが入っているけれども、先々はクラウド活用に移行していくことや、それ以前にクラウドとはどういうものかといった基本的なことから、クラウドに上げるとみんなで使えるといったことを分かりやすく校内研修に落とし込み、理解を深めていきました。
先生方のなかにはICTの活用が得意な方もいれば、そうでない方もいます。導入当初は、あまり得意ではない方が、『もうできない』と思わないようにサポート体制を整えることを意識しました。そのため。校内で学年1名ずつGIGA担当者を出してもらい、得意な方にはどんどん新しい情報を発信して活用を進めてもらいながら、得意でない方へのサポートもしてもらいました。すべてをGIGA推進リーダーがサポートするのには限界がありますので、各学年のGIGA担当の先生の存在は非常にありがたかったです」

校内研修の実施からオンライン授業の実現まで

このように研修を進めていったという小針小学校。オンライン授業の実施に向けての準備と実施の様子について、寺山教諭は次のように話します。

「2021年9月上旬には、コロナ感染が拡大し、登校できない子供への学習やつながりの保障が話題になりました。そこで、『あくまでもiPadは一つの手段である』という共通認識のもと、子供たちにも無理のない範囲で少しずつZoomとGoogle Classroomなどについても使えるように研修を重ねていきました。オンライン授業に備えて、放課後にZoomで各家庭と連絡を取るような練習もしていきました。
その後、10月の後期(2期制)始業式をオンラインで行い、当時の校長先生が式の後にロイロノートを使って、『ふわふわ言葉とちくちく言葉』について子供たちからアンケートを集めるようなこともされました。そのアンケートを通して、結果的には各学年各学級の活用状況を確認することもできました。
12月には研究会があり、それは対面とオンラインのハイブリッドで行うことになりました。ただ、公立学校で研究費や機器も限られるため、11月、12月と研究主任の小川雅裕教諭と一緒に考えながら工夫し、なんとかよい形で実施できました。
その後、2022年の1月にコロナ感染が再拡大したときに、『新潟市の学校でオンライン授業を3時間行う』というテレビ報道がされました。それは報道先行で、市教委の意図とは少しずれがあったようなのですが、学校に登校できない子供のためにオンライン授業を毎日3時間行うと報道されたのです。それには驚いたのですが、本校では子供の学びの保障とつながりの保障を大事にしていますから、できるところをやりましょうということになりました。
そこで、まず朝の会はZoomで実施し、後はロイロノートを使ってできるところまで進めればよいだろうと全体で確認をしました。ただ、取り組むうちに先生方のスキルが上がり、Zoomでオンライン授業配信を行うような先生方も次第に増えてきました。
2022年3月には学習eポータルが入るということで、ガイドラインの3版が3月末に出されたのですが、新年度が始まってしまうと研修の時間がもちにくいので、新年度が始まる前に急いで準備をして校内の先生方に示し、4月の新学期開始前に研修を行って、どうなるのかを説明しました。
年度末・年度はじめは、端末の移動や新規アカウントの作成・更新など、取り組むべきことが非常に多いのですが、早めに校内の先生方に数か月先の見通しを示すことで、ゆとりをもって取り組んでいただくことができたと思います(資料2参照)。

(資料2)GIGAスクールの実施2年目に移行するにあたり、全教員に向けて大きな流れを示した上で、細やかな日程も示した。
(資料2)GIGAスクールの実施2年目に移行するにあたり、全教員に向けて大きな流れを示したうえで、細やかな日程も示した。

新1年生の保護者には、入学説明会の際にiPadを使った学習が始まることや、家庭への持ち帰りが段階的に始まること、Wi-Fi環境が必要になることなどの必要な情報を伝え、保護者にも協力していただけるように心がけました。
ちなみに、2022年度のはじめにはアカウントの更新もあったのですが、GIGAスクール運営支援センターにいるICT支援員さんの支援があってとても助かりました。余談ですが、(取材日の)前日には転校生があったのですが、それを知ってすぐにセンターに依頼をかけたところ、当日中に新しいアカウントが送られてくるような対応の速さですので、とても助かっています」

学習場面によって、必要に応じて使っている子供もいれば使っていない子供も

このような1年間の準備を進めたことによって、どこまで小針小学校の実践は進んできたのでしょうか。2022年度、同市教委から同校に赴任してきた山田哲哉校長は、同校の実践開始1年後の4月に見た状況を次のように話します。

「私は、2021年度までは教育委員会に在籍してGIGAスクールを推進する側にいたわけです。職責上、感染症対策に追われ、直接学校に出向いて授業を見る機会はあまりありませんでしたが、指導主事を通して現場の多様な声を聞いていました。そのなかには、もちろん先生方が負担感を感じているような声もありました。本市教委としても国から示されることへの対応や、予算や環境整備など次から次へと出てくる課題に追われていました。
市教委としては推進する立場ですから、低い要求をするのではなく、意図的に高めの目標やめざす姿を示すことで、GIGAスクールの推進が進んでほしいという思いをもっていました。過去、生活科や総合的な学習の時間が導入されたときも、道徳や外国語が教科化されたときも、当初は学校現場は混乱しました。しかし、実際に先生方は期待に応えて質の高い実践を成し遂げてこられました。ですから、GIGAスクールもきっとそうなると考え、現場からの厳しい声も受けつつ推進してきていたわけです。
ちなみに、2021年度までの本校の校長は、市の校長会の会長を務める方でしたから、その立場から学校現場が困っている現状や負担感を市教委に伝えてこられていました。今年度、そのお膝元だった小針小学校に赴任することになり、はたして活用状況はどうだろうか、先生方が負担感を感じているのではないかと不安でした。
ところが、4月当初のGIGAスクールに関する研修や実際の授業を見て、日常の学習のなかでごく当たり前に活用されていることがすぐ分かりました(資料3参照)。それも一斉に『さあ、使いましょう』という段階ではなく、子供が選んで使える段階に入りつつあり、学習場面によってはiPadを出している子供もいれば、出していない子供もいて、必要に応じて使っている子供もいれば使っていない子供もいるわけです。それを見て、『ああ、これはかなり進んでいるじゃないか』と感じました。

それぞれの子が必要に応じて活用している様子が画面の違いからも推測できる。
(資料3)それぞれの子が必要に応じて活用している様子が画面の違いからも推測できる。

4月当初には学級閉鎖も相次いだのですが、オンライン授業や不安欠席の子供へのZoom配信などもごく当たり前に行われていました(資料4参照)。そのなかで、ある若い先生の学級が学級閉鎖になったときに教室を見てみると、板書も通常の授業通り構造的に書きながら、一人でオンライン授業を進めていました。それも、しっかり質の高い授業をしているのです。授業後に『すごいね』と声をかけたら、『いえ、オンライン授業は1日3時間までなので、むしろ楽なくらいです』と言うわけです。前年度の1月に3時間と報道されたときには、『3時間なんかできるわけない』という声もあったほどだったのに、実際に若い先生がこのように軽やかに言ったものだから、すごいなと感じました。

(資料4)家庭での活用の様子ではないが、子供たちがオンラインの使用にも慣れていることが分かる。
(資料4)家庭での活用の様子ではないが、子供たちがオンラインの使用にも慣れていることが分かる。

そこまで現場での実践が進んできたのは、紆余曲折がありつつ、寺山教諭や研究主任の小川雅裕教諭といった推進役が少しずつ進めてきてくれた成果なんだなと感じています。そのときに、市教委が『これをやるように!』、現場の推進役が『これをやるように!』と先生方に強いたのでは、ここまでできなかったのだろうと思います。推進役が各学年で核になる先生を育てつつ、じわじわと浸透させていったことがうまくいった秘訣だろうと思います」

ちなみに授業以外での活用について、寺山教諭は次のように話します。

「コミュニケーション・ツールとしては、学級内ではGoogle Classroomを使い、担任が休んだときにも学年内でGoogle Classroomを使って連絡を取れるようにしました。また主に学年間での連絡はTeamsを使って共有するとともに、職員間では本市が全職員向けに導入しているC4thを使っています。
本校では、もともと生活科・総合的な学習の時間の授業づくりのために月曜の放課後に『ワイガヤの時間』というものを設定しているのですが、その時間に意図的にTeamsを使って情報共有を行うようにしました。そこで、『写真ってどうやってアップすればよい?』といった基本的なことなどもやりとりしています。こうした内容については、直接コミュニケーションを取ることも大事にしてはいますが、Teamsで残しておけば、学級や学年を超えても共有できるというよさがあります。
またC4thという校務支援システムは、デスクに置いてあるパソコン上でしか見られないのですが、TeamsはiPadを持ち歩いて、どこでも見られるのでとても便利なのです」
こうした校務に関わる部分について、2022年度、進め方を改めて見直したと寺山教諭。その具体について、次のように説明します。
「昨年度は、校務分掌の情報主任に一括で関連の仕事がきて、それを処理してきたわけですが、今年度は、もっと効率的に処理していくため、昨年度から自分が何をやってきたのかをまず文字化してみました。そのうえで、仕事を管理系と情報教育系に分け、その真ん中に自分が立って、それぞれを割り振って先生方に仕事をしていただくようにしたのです。そのように自分が俯瞰をすることによって、仕事も大分、整理できたのではないかと思います」

1年間で無理なく、なおかつ全校体制での実践を行ってきた小針小学校ですが、2年目の今年度以降はさらなる質の向上を図っていると言います。次回はその取り組みの方向性や重点について紹介をしていきます。

小針小学校の実践②【「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例Part2#3】はこちらです。

執筆/矢ノ浦勝之

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