小針小学校の実践②【「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例Part2#3】

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小針小学校の実践②【「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例Part2#3】

小針小学校が考える実践上の進め方、深め方のポイントとは?

前回、新潟市立小針小学校で1年少々の間に、どのようにして実践を広げていったのかを紹介しました。では、実践をスムーズに進めていくためにはどのようなポイントがあるのかといったことから、2022年度以降、さらに実践を深めていきたいと考えているポイントなどについて紹介をしていきます。

写真左より、小針小学校の寺山晋一教諭、山田哲哉校長、小川雅裕教諭。
写真左より、小針小学校の寺山晋一教諭、山田哲哉校長、小川雅裕教諭。

先生方の主体性を大事にした取り組み姿勢が効果的

まず実践を無理なく進めていくうえで、どんなことがポイントとなるのか、小針小学校のGIGA推進リーダーである寺山晋一教諭は次のように話します。

「本校では、比較的スムーズに実践が進んできているわけですが、私のような推進する立場の者は、先生方に実践を強いるのは違うだろうと思います。先生方にはコロナの対応も含め多様な仕事があるわけですし、気持ちよく使ってくださるようなマネジメントと、全体のイメージづくりをしていくことが大事だと思っています。
先生方は、子供たちにとってよいと思ったことはどんどん進んで使ってくださるものです。ですから、『これをやってください』と言うのではなく、先生方が負担感なくできるようにサポートしていくことに注力をしてきたつもりです。
もちろん、先々のことを考えていけばいろいろやっていくべきことはあるわけですが、それもできる方からどんどん進めてもらうようにするということが大事だと思います。
そうした寺山教諭の支援の仕方について、研究主任の小川雅裕教諭は次のように評します。
「寺山教諭のような存在が全体のくさびとしていてくださるので、小針小学校としての取り組みが進んできたように思います。寺山教諭が、実践全体の中心で旗を振りつつ方向性を見せてくれたうえで、あえて先生方に取り組みを強いることはないわけです。そして『こんなことをやりたいのだけど』とか、『こんな機能はないだろうか?』という先生方の思いをどんどん聞いてくれて、寺山教諭も一緒に探したり効果的な方法を考えてくれたりするわけです。それを試したい人たちがどんどん試して、効果があればほかの先生にもどんどん広がっていくわけですね。そんなふうに、先生方の主体性を大事にした取り組み姿勢が効果的だったと私は思います」

「ICT端末を使って『実感を伴った学び』を進めていってほしい」

そのように、寺山教諭の推進リーダーとしての姿勢を評価する小川教諭は、校内での実践について一定の広がりを評価しつつ、2年目となる2022年度には、小針小学校としての研究テーマを踏まえた質的な深まりを追究してきていると次のように説明します。

「一定程度、広く使われるようになったらそれでよいというわけではなく、むしろ重要なのはその先ですよね。本当に質の高い授業をどこまでできるかということと、そのなかでICT端末をどのように使えば、より効果的に学びが深まるのかということを継続して追究していくことが重要だと思っています。
本校はこれまで生活・総合の研究に力を入れてきており、今年度で3年目です。その経緯もあり、iPadをどのように活用していけば探究をより高度化していくことができるかというのが、本校の取り組みの重要なポイントとなっています。一般的に、ICT端末が入れば探究がより加速し、高度化するだろうと考えられるわけですが、その過程で、iPadやロイロノートやほかのアプリがどういう場面でどのように使われればより深まるのか、あるいはどういう場面では使わないほうがよいのかといった情報を蓄積し、整理して授業の質を高めていこうとしているのです。
その探究のスパイラルを高度化していくという点で言えば、いつ使っていつ使わないほうがよいかがいくつか見えてきています(資料1、2参照)。

資料1 探究的な学習の各過程(ポイント)ごとに使用した方が良いとき、そうではないときがある。
資料1 探究的な学習の各過程(ポイント)ごとに使用したほうがよいとき、そうではないときがある。
資料2 学習の課題設定をする場面で使用した方が良いとき。当然、使わないでよいときも整理されている。
資料2 学習の課題設定をする場面で使用したほうがよいとき、当然、使わないでよいときも整理されている。

例えば、総合的な学習の時間の課題設定の場面で、ICT端末を使えば遠くの人と関わることができるので、遠くの人と話をしたり、情報を集めたりする場面では積極的に使っていったほうがよいでしょう。しかし、Zoomで多様な人と関われることに慣れすぎると、誰とでもそうやって関わろうとしてしまうのですが、直接見学に行けたり話を聞いたりできるところでは、iPadは使わずに、直接にコンタクトをとって見聞きするほうがよいわけです。
また情報収集の場面で、インターネット上にテキストが出回っているときには、検索して集めればよいし、これまでは手分けをして地域の方に話を聞いて情報を集めた後にも、音声言語だけで交流をしていたのですが、見聞きしたことを音声や動画、文字情報をミックスして共有することで、交流の質がぐっと上がって互いに深まってくると思います。
また学習の後半の整理・分析をしていく場面でも、本校の子供たちは思考ツールを使い慣れていますから、それらを使って整理をしたほうがより効果的だと思います。さらに学習したことを発信するときにも、自分たちの活動を動画やスライド、文字情報を使ったほうが効果的でしょう。そのように、どの場面で何をどう使うのか、使わないのかのベストミックスを見付けていこうとしているところにきています」

そうした実践研究の方向性について、同校の山田哲哉校長は次のように話します。

「ICT端末自体はあくまで道具、つまり令和時代においてはノートであり、鉛筆なわけです。それをうまく使いこなしながら、『実感を伴った学び』を進めていってほしいというのが私の願いです。
実物がよければ実物に触れることが大切だし、人に直接会って話を聞いてもいい。それができなくても、ICT端末を使うことで出合ったり、手に入れられたりする情報もあるでしょう。そのように、学び手である子供たちにとって、より『実感を伴った学び』を追究していってほしいと思っています。
過去、生活科・総合的な学習の時間の学びでは、なんでもかんでも達人に聞けばよいというように人に会うことが重視された時期もありました。しかし、学びの内容によっては、ネット上に整理された静的な情報、体系化されたテキストに当たったほうがよい場合もあるわけです。子供の思考を深めていくには、どういう方法を選ぶのがより効果的か、今後も考えていきたいと思っています(資料3参照)」

資料3 現時点までの実践を通し、ICT活用の考え方をシンプルに整理したまとめ。
資料3 現時点までの実践を通し、ICT活用の考え方をシンプルに整理したまとめ。

ていねいな学級経営が基盤にあれば、情報モラルもうまくいく

ICT端末の活用に関しては、学校での活用以外にも、家庭での活用が重要なポイントとなるでしょう。実際に、持ち帰りを始めたことで、子供同士のトラブルが生じた例も出てきています。最後に、こうした端末の持ち帰りに関しての話を聞きました。まず、寺山教諭は家庭での活用について次のように話します。

「特別、私から『これをやるように』とは言っていませんが、現時点で相性がよいのは、ドリルパークだろうと思っています。子供たちは紙のドリルと同じような使い方ができますし、何より自動採点してくれる点が非常に役に立っています。子供の解答状況も担任が確認できますので、理解が不十分な場合は個別にサポートしたり、全体的に定着が不十分だった場合には改めて補充指導を行ったりもします。
さらに、今年度に始めたのは家庭学習を学級Teams上で共有するような取り組みです。これまでも、『家庭での自主学習で何をやっていいか分からない』という子供もいたので、昨年度までは学校で互いの家庭学習を見合っていたのです。それを一歩進めて、今年度からは学級Teamsの連絡帳的な機能に加え、『家庭学習のレシピ』というチャネルを作り、それぞれが家庭学習でやっていることをアップできるようにしました。それを子供たちが主体的に見て、『いいね』を付けたりしながら、『ああ、Aさんはこんな家庭学習をやっているんだ』『Bさんのこの学習は自分もやってみよう』と友達の家庭学習を参考にして、自分の家庭学習について考えられるようにしました。
少しずつ活用に慣れ始め、いつものように『理科で教科書のこの問題をやってきてね』と家庭学習の課題を出したときに、多くの子供が教科書を持ち帰ったのですが、『忘れた君、これどうぞ!』と問題をアップしてくれた子供もいました。そんなふうに考えてよりよく活用してくれています。
しかし、良いことばかりではありません。学級Teams上では、ごく簡単に子供同士の挨拶もアップされることがあるのですが、そのなかに『おやすみなさい。さようなら』と書いて、骨のイラストをアップした子供がいたのです。その子はなんの悪意もなかったのですが、『それはどうなのか』という話になり、『直接、話をしているときには違和感を感じないことも、文字にしたり画像を付けたりすると違う感じがするんだね(場合によっては不快に感じる人もいるんだね)』という話をしました。そうやって、少しずつ考えさせながら導入していきました。
そのために、最初から『全体で共有するよ』と伝えることで、子供たちが『この写真は出さないほうがよいかな』などと、情報を意識して使えるようになることが大切だと思っています。そのように日常的に使っていると、小さな情報モラルの問題も生じるわけで、それを一つ一つていねいに確認をしながら活用していくことで、今のところ深刻なトラブルは生じていません」

最後に、山田校長は情報端末を効果的かつ安全に導入し、活用するためのポイントについて、次のように話しました。

「寺山教諭は学級活動の専門家で、小川教諭も日々の授業を通してすばらしい学級経営を行っています。本校のほかの先生方も二人と同様にていねいに学級経営を行っており、それが基盤にあるからこそ、端末を使った学習上のコミュニケーションもうまくいくし、情報モラルもうまくいくし、家庭に持ち帰っても大きな問題が起きないわけです。
そのような教育の根幹を忘れて、GIGAスクールのシステムや仕組みなど技術的なことばかりに目がいってしまうと、せっかくのICT端末もうまく機能しないのではないでしょうか」

ICT端末やツールの活用を進め、さらなる質の向上を図っているという小針小学校。しかし、その根幹には、これまでの日本の教育と変わることのない姿勢があるというお話でした。そうした学校の実践状況を踏まえ、次回、改めて新潟市全体の今後の方向性や取り組みの重点について紹介をしていくことにしましょう。

新潟市教育委員会の考える課題と方向性【「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例Part2#4】はこちらです。

執筆/矢ノ浦勝之

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