学級じまいの迎え方|アヤ&メグの新任教師お悩み相談⑩
新任教師のお悩みに二人の先輩が答えてくれるシリーズの最終回のテーマは、学級じまいに向けた担任の在り方についてです。
教職15年目の通常学級担任・樋口綾香先生と、11年目の支援学級担任・竹澤萌(たけざわめぐみ)先生が、具体的な実践の紹介とともに、担任として意識したいポイントを教えてくれます。
Instagramでは2万人超えのフォロワーに支持され、多くの女性教師のロールモデルにもなっている樋口綾香先生による人気連載!
このシリーズのテーマは、「子どもの力を引き出す担任の在り方」。初任の先生の悩みや疑問をもとに、先輩教員二人が考え方や手法を提案します。答えるのは、教職15年目の通常学級担任・樋口綾香先生と、11年目の支援学級担任・竹澤萌先生。具体的な問題場面に対して、担任として意識したいポイントを提示し、二人の考えを共有します。
きっと、正解は1つではありません。状況によって、考えや行動は柔軟に変化させなければならないでしょう。目の前の子どもたちの力を最大限に生かすための方法を、いっしょに考えていきましょう。
執筆/大阪府公立小学校教諭・樋口綾香
目次
今回の相談のテーマ「学級じまい」
[今回の相談]
あと1か月半ほどで修了式を迎えます。新しい学年に向けて、子どもたちが希望をもてるような学級じまいにしたいと思っています。担任として、どのようなことを大切にして学級じまいの日を迎えるのがよいのでしょうか。
修了式の日をどう過ごしたいか、今から考えておくのはいいことですよね。「一人ひとりの成長を言葉にして伝えたい」とか、「みんなで思い出のムービーを見て、わいわいと笑い合いたい」など、理想とする学級じまいは先生方によって違うと思います。竹澤先生は、どんな学級じまいが理想なのでしょうか。そのために、どんなことを大切にして日々を過ごしているのでしょうか。
竹澤先生の実践
私の理想とする学級じまいは、「このメンバーで一緒に過ごせてよかった」「このクラスのような雰囲気を来年も自分たちでつくりたい」と、子どもたちが思って気持ちよく修了式を迎えることです。私は現在、4つ目の勤務校にいますが、毎年クラス替えをする学校と、2学年ごとにクラス替えをする学校がありました。私はどちらも経験することで、双方のメリット・デメリットを感じています。簡単に挙げると以下の通りです。
【毎年クラス替えがある学校】
メリット
友人関係や担任との関係が一度リセットされ、新たな気持ちで進級することができる。
デメリット
環境の変化に加え、また新たに関係づくりを始めるので、4月に大きなエネルギーを使う。
この場合、学級じまいと同時に子どもたちも担任も大きくシャッフルされるので、学級の思い出づくりにウエイトを置くことができます。また、他学級の子どもたちともコミュニケーションが取れる機会があると、進級進学に伴うクラス替え後に安心してスタートできます。
【2学年ごとにクラス替えをする学校】
メリット
気心の知れた友達と進級するので、4月に落ち着いてスタートできる。
デメリット
リセットされない部分がマイナスになることがある。他学級の友達との交流機会が少ない。
この場合、子どもたちのメンバーは変わらず、担任の私だけ変わることもありました。なかでも新規採用教員のほうへ引き継ぐことが分かっているときは、いつも以上にていねいに学級じまいをしています。だれが受け継いでも、4月に負担をかけないことを大切にして過ごすようにしています。
どのような状況だとしても、私は子どもたちに「担任の先生が○○先生だったから1年間楽しかった」とは思ってもらいたくはないし、来年を不安に思うような学級じまいはしたくないと考えています。そのために、3学期は、子どもたちが自分たちの力で思い出づくりをしてほしいと思っています。
教師としては、進級・進学に伴うクラス替えの不安を少しでも軽減できるような取り組みを意識して計画するようにしています。ここではいくつかの実践と、そのときに大切にしていた思いを紹介させていただきます。
1 ラストプロジェクト活動
クラス会議を開き、残りの日々でやりたいことを話し合います。実現可能なものは計画的にスケジュールを組み、準備、運営などすべて子どもたちにやってもらいます。私は、時間と場所の調整を手伝うのみです。高学年になると、学級内にとどまらず学年全体や他学年との合同イベントを企画することもあります。必ず計画段階で学年主任や管理職に相談し、安心安全に実行できるようにしましょう。
2 カウントダウンカレンダー
修了式や卒業式までの日数を数え、一人1枚担当して書いてもらいます。教室内に掲示するのもよいのですが、学年で1つのカレンダーを作り、みんなが目にする昇降口や階段、学年掲示板などに飾るのもよいでしょう。カウントダウンが進むにつれて、寂しさを感じるものですが、前向きな子どもたちのメッセージが未来を明るくする効果も感じられます。日が過ぎたページはどこかに飾るのもいいですね。
3 学年合同イベント
ウォークラリーやドッジボール大会などゲーム性のあるものは、クラス対抗ではなく委員会や出席番号ごとにクラスをシャッフルしてチームを組むようにします。歌やダンス、なわとびなどの発表会をやったこともあります。子どもたちがクラスの垣根を越えて仲よくなれそうなものを提案しましょう。クラスの違う友達とは、普段はなかなか交流する機会がなく、はじめて接点をもつ子ども同士も多いでしょう。4月よりも先に出会いの場を設け、クラス替えが楽しみになるように仕組んでいきます。
4 思い出ムービー
修了式の日や最後の授業参観などで流します。注意したいのは、「勝手に自分のクラスだけでやらない」ということです。事前に学年の先生方に必ず相談をしますが、この活動を負担に思い、否定的に感じる先生もいます。それでもムービーとして思い出に残したいときには、他のクラスでも流せるような構成で作り、提案することをおすすめします。集合写真や行事の写真を中心に使用すれば簡単にできます。「ひとりよがりにならないこと」が大切です。
樋口先生の実践
私が理想とする学級じまいは、「1年間、楽しかったな。がんばったな」と少しでも思ってもらえること。そして、私も子どもたちも、互いが晴れやかな気持ちでお別れができることが理想です。そうできれば、自分も、「担任としてよくがんばったな」と思えるような気がするからです。
最後の日に互いにそう感じるには、楽しかったことやがんばったことを子どもたちが実感していることが大切です。そのために私は、毎日を、プラスの声かけを中心にして過ごしたいと思っています。
できていないことや、問題行動があると、ついその行動すべてを注意してしまいそうになりますが、行動をよく観察し、4月の子どもたちと比べてできていることを見つけ、プラスの声かけを意識して伝えるようにしましょう。
私からも、学級じまいに向けて、先生と子ども、あるいは子ども同士のつながりが次年度にもよい方向に発揮されるように、願いを込めて行った実践を紹介します。
1 メッセージカード
飛び出す気球のカードをつくりました。色とりどりの気球の中にメッセージを書くことができます。私は、当時の学級目標だった「笑顔」と学級名、そして「ありがとう」という言葉を書いて、一人ひとりに渡しました。1年間みんなで大切にしてきた学級目標を次年度も忘れずに、笑顔で過ごしてほしいという願いを込めました。
驚いたことに、春休みの間に、同じカードを自分でつくって私にプレゼントしてくれた子どもがいました。今でも大切にもっています。
2 みんなで寄せ書き
6年間転校することがなければ、なかなかみんなからの寄せ書きをもらうことはありません。
私は、小さいとき、転校生に手渡される寄せ書きがうらやましくてしかたがありませんでした。みなさんは、そう思ったことはありませんか?
6年生の卒業後の進路は、みんないっしょであるとは限りません。もう、なかなか会えない場所へ行ってしまう子もいます。そこで、離れても、この学級で過ごしたことが励みになるように、次の場所でも力を発揮できるようにと願い、全員が全員に寄せ書きをして、1枚1枚ラミネートして、卒業式の日にプレゼントしました。
寄せ書きを初めてもらい、喜んでいる子どもたちを見て、昔の自分を見ているようでうれしくなりました。
3 合唱でお別れ
低学年の学級を担任しているとき、毎月曲を決めて、帰りの会で歌っていた年がありました。子どもたちに、今まで歌った曲のなかから最後にどの曲を歌いたいかを聞き、星野源さんの「ドラえもん」をみんなで輪になって歌いました。
元気で明るい曲なのに、この歌が終わるとお別れなんだと思うと、熱いものがこみ上げてきたのを覚えています。5年ほど経つのですが、今でもこのときにみんなで楽しく歌ったことを思い出すと、年賀状で伝えてくれる子がいます。
私の場合は、学級目標や、学級掲示(折り紙制作)、合唱など、1年を通じて子どもたちとしてきたことを、最後の日にも大切にしているのだと気づくことができました。1年間の楽しさやがんばりを、言葉だけで伝えるのではなく、みんなが体験したことに乗せて伝えたかったのでしょう。
竹澤先生の場合は、次年度に子どもたちがスムーズに前向きなスタートを切れるように、精いっぱい配慮をしながら、学級じまいの日を迎えていることが分かります。
教師の言葉が子どもを縛るのではなく、自信につながり飛躍できるよう意識して、修了式の日までがんばっていきましょう!
今回で、竹澤先生との共同執筆が終了します。10回にわたり、「子どもの力を引き出す担任の在り方」について2人で考えてきました。10回の連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。
竹澤先生といっしょに連載するなかで、「担任としてこうありたい」「子どもたちにこんなふうになってほしい」という理想や願いが、子どもの力を引き出すためにとても大切なものなのだと気づくことができました。
理想や願いをもっていれば、考え方が変わります。考え方が変わると、子どもたちへの声かけ、対応のしかた、教室環境も変わっていきます。そして、何よりも先生自身が楽しそうなのです。竹澤先生は、子どもたちといつも笑顔で話をしています。また、これまでの実践の写真からも、毎日が充実していて、担任という役割を楽しんでいるのだということが伝わってきました。
来年度以降も「どんなクラスをつくりたいか」、「子どもたちにどう過ごしてほしいか」、「担任としてどうありたいか」といったことをじっくり考える時間を、大切にしていきたいと思います。
樋口 綾香
ひぐち・あやか。Instagramでは、@ayaya_tとして、♯折り紙で学級づくり、♯構造的板書、♯国語で学級経営などを発信。著書に、1/14発売の『「自ら学ぶ力」を育てる GIGAスクール時代の学びのデザイン』(東洋館出版)、『子どもの気づきを引き出す! 国語授業の構造的板書』(学陽書房)ほか。編著・共著多数。
竹澤萌
たけざわ・めぐみ。11年目、支援学級担任(2022年現在)。栃木県で学年学級担任を10年間経験した後、結婚を機に大阪に転居。現在は樋口綾香先生と同じ学校で勤務中。Instagramでは、@mohepipipiとして、様々な実践を発信している。
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