リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #32 誰の姿が見えますか?|飯村友和 先生(千葉県公立小学校)
子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今週は飯村友和先生のご執筆でお届けします。
執筆/千葉県八千代市立高津小学校教諭・飯村友和
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和
目次
ごあいさつ
みなさん、こんにちは。
千葉県で小学校の教員をしております、飯村友和と申します。
教員になって21年目。学級担任をずっと続けています。
私は、子供たちに、人の行為や物を見て、そこには人の想いがあることを想像できる人になってもらいたいという願いをもっています。
それができた方が、できないよりもずっと幸せに生きられると思うからです。
そのために、年間を通してしていることがあります。
それは、子供たちに、意識しなければ「あれども見えず」の状態になっているものについて問いを投げ、考えさせることです。
今回紹介するのは、その一つです。
よろしくお願いします。
1 授業の実際〜目の前に給食が置かれるまで〜
対象:小学4年生
主題名:自分の生活を支えてくれる人に目を向ける
内容項目:B-8 感謝
次の写真を提示します。
提示した瞬間に、「あ、給食だ。」「昨日の給食だ。」という声が上がりました。
「ハンバーグ、おいしかったよね。」「エビもおいしかった。」「昨日は、全部食べられた。」「牛乳を残しちゃった。」などと話が出てきます。
写真を黒板に貼り、次のように問います。
発問1 この給食は、誰の手も使わず魔法のように「ポンッ!」て出てきたのかな?
●いやいや。そんなわけないでしょう。
●作ってくれる人がいる。
●給食センターで作ってもらって、それを運んでもらった。
●給食当番が配膳してくれた。
誰かが何かをしてくれたから、目の前に給食が置かれるということを確認した後、クラスの子供たちの集合写真を黒板に貼りました。
そして、最初に出した給食の写真と矢印で結びました。
黒板の左端に給食の写真を貼って、右端にクラスの子供たちの集合写真を貼って、間を長い矢印で結ぶのです。
発問2 この矢印のところには、誰の姿が見えますか?
●調理員さん
●配膳員さん
●野菜を育てる農家さん
●給食を学校に運ぶトラックの運転手さん
●材料を給食センターに運ぶ運転手さん
●材料を売ってくれる人
●給食費を払ってくれる家族
●魚を捕っている漁師さん
●牛や豚を育てている人
●肉を加工している人
●食器を洗ってくれている人
子供たちから出されたことを板書していきます。
板書は時系列で書いていくと、わかりやすいです。
黒板がいっぱいになったところで、「これを見て、どれに一番驚いた?」と問います。
この問いによって、自分では考えつかなかった友達の意見に目が向くことになります。自分の意見と友達が出した意見との比較をすることになります。
そして、「全体を眺めて、気付いたことはありませんか?」と問います。
すると、
「こうやってみんなで意見を出し合ってみると、思っていたよりも多くの人のおかげで給食が届いているということがわかりました。」
「たくさんの人たちが協力して頑張ってくれていることに感謝したいです。」
などの意見が出ました。
2 どこにどのようにつなげるか
この後、黒板を指し、「この中から『この人に書きたい!』という人を選んで、感謝の気持ちを手紙に書きましょう。」と投げかけます。
書いてもらった手紙は、実際に届けることを伝えます。
調理員さんや運転手さん、農家さんなどに、子供たちそれぞれが感謝の手紙を書きます。
実際の授業後、栄養教諭さんにお願いして、それぞれの人に渡してもらいました。とても喜んでもらえました。
この活動は、国語科「いろいろな手紙を書こう」(教育出版)につながっています。
もちろん、給食の時間にもつながります。
授業後の給食の時間の子供たちの様子をよく見ていると、いつもとは違う動きを見せる子がいます。
●準備を手伝うようになった子
●苦手なものを減らさなくなった子
●残す量が減った子
●残さずにきれいに食べるようになった子
もちろん、変化が見られない子もいます。
全員が変わるわけではありません。
でも、変わる子もいます。
準備を手伝うようになった子の日記には、「あんなにたくさんの人ががんばってくれているのだから、自分も何かしようと思い、当番じゃないときに手伝うことにした。」とありました。
子供たちのちょっとの変化も見逃さずにいたいものです。
おわりに
コロナ禍にあって、給食指導は難しくなりました。
それまでの「感謝して食べる」や「食べ物を粗末にしない」といった指導よりも、「感染防止」を優先してとにかく静かに安全に給食の時間を終えることに重きをおくようになってしまいました。
安全を最優先に考えつつ、これまで大切にしていた給食指導もしていきたいです。
そのために、今回の「目の前に給食が置かれるまでには、多くの人の苦労があることに想いを馳せること」が、そのきっかけになると思います。
なお、この学習は、3年生の社会科で、給食センターについて学習したことが土台になっています。実際に給食センターに行き、作っている様子を見るという体験があるからこそ、それを足がかりに考えることができます。
この学習を低学年で実施する場合には、給食を作っている動画を見せるなどしてあげるとよいでしょう。
今後の連載予定
第33回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。
<リレー連載>明日の授業に生きる! 「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
第16回 町名の由来
第17回 百年の桜
第18回 わんこそば
第19回 みんなの場所で
第20回 美しい建物の街~弘前
第21回 1枚で3通りの活用 ~西郷瀞のブランコ~
第22回 外国の靴屋さん
第23回 象には絶対に乗らない
第24回 誰かの便利は、誰かの不便
第25回 美しさの見つけ方
第26回 祇園の夜桜
第27回 私たちにできること
第28回 テニスボールに込められた思い
第29回 学びの「値段」
第30回 東日本大震災
第31回 「一枚画像」から道徳を問う