運動の記録を活用するにはどうしたらいいの? 【使える知恵満載! ブラッシュアップ 体育授業 #17】

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小学校教諭

平川 譲
使える知恵満載! ブラッシュアップ 体育授業

体育学習の中では、運動の数値的な記録を扱うことがよくあります。しかし、ただ記録を残すだけ、最高記録を目指すだけではもったいない。記録を上手に活用することで、学級全体の学習意欲を高めたり、雰囲気をよくしたりすることができるのです。
今回は、そんな記録の活用の仕方をご紹介します。

執筆/東京都公立小学校教諭・吉羽顕人
監修/筑波大学附属小学校教諭
 体育授業研鑽会代表
 筑波学校体育研究会理事・平川 譲

1.記録のたし算

記録の活用といっても、特別なことをするわけではありません。グループや個人の記録をたし算するだけです。

例えば、長なわ跳びでしたら、跳べた回数をグループごとに記録するだけでなく、全グループの合計も算出します。そうすると、その合計値が「クラスの記録」となります。次回以降は、各グループが自分たちの最高記録を目指すだけではなく、クラスの最高記録も目指すようになります。

2.記録をたし算するメリット

⑴ 協力する意識が高まる

グループごとの記録のみを追い求めると、グループ間の競争意識が高まり、その技能差が競争の結果を左右することになります。

競争しようとする態度そのものが悪いわけではありません。ただ、記録が伸びにくいグループには運動が苦手な子どもがいる場合が多く、この苦手な子どもは、競争が盛り上がるほど肩身の狭い思いをしてしまいがちです。

しかし、記録のたし算をすることで、子どもたちがグループ間の競争だけではなく、クラス全体の記録向上のほうに意識を向けていきます。そして、クラスの最高記録を目指すために、他のグループであってもアドバイスをしたり応援をしたりする姿が現れます。クラス全体で協力しようとする態度を育むことになるのです。

⑵ 技能の低い子どもがヒーローになる

記録のたし算を始めた頃は、技能の高い子どもが活躍して、クラスの最高記録を出す様子が見られます。

しかし、技能の高い子どもは、はじめのうちから高いパフォーマンスを発揮することが多いので、早めに記録の頭打ちがやってきます。

それに対して、技能のあまり高くない子どもは、運動に慣れるのに時間がかかります。単元後半で記録を伸ばすのは、多くがこのような子どもたちです。教材によっては、はじめの何倍もの記録を打ち立てていきます。これにより、クラスの最高記録をどんどん更新することができます。

「◯◯さんが頑張ったおかげで、クラスの最高記録が出たよ」と価値付けることで、技能の高くない子どももクラスのヒーローになることができます。

以下に、このような効果の期待できる教材と実際の指導法を紹介します。

3.実際の指導法

⑴ 長なわ跳び

跳ぶメンバーが間を空けずに8の字跳びで何回跳べるか挑戦します。子どもには、15〜20分くらい取り組む中での連続跳びの最高記録を報告するように指示します。

10人グループ×4組(40人学級)だとすると、はじめのうちはクラスの合計が20〜30回程度でも不思議ではありません。しかし、クラス全体が連続跳びのリズムに慣れてくると、100回、200回と爆発的に記録が増えていきます。

この活動のメリットは、なるべくみんなが連続で跳べるように、なわをゆっくり回そうという考えが自然に生まれることです。ゆっくり回すことで、技能の低い子どもも「なわを跳べた」という達成感をもちつつ、記録更新に貢献することができます。

⑵ 前回り下りリレー(鉄棒)

4人グループを基本に行います。1人目が前回り下りを3回したら、次の人に交代します。4人目が終わったら、また1人目に戻り、運動を続けます。2分間で前回り下りのできたのべ人数がグループの点数です。

記録向上を目指すために、子どもたちは自然と回転を速めるので、回転感覚を高めるのに有効な運動となります。また、上手な子どもの運動観察を通して、鉄棒の真下あたりで着地すると、すぐに次の回転に移ることができると気付かせることができます。

⑶ 30秒馬跳び

ペアで30秒間ずつ馬跳びを行い、2人の記録を合計します。子どもたちの技能に応じて、ペアでの目標を決めます。

多少の恐怖感があって上手に馬を跳べない子どもも、ペアの子のために頑張れるという利点があります。ペアでの合計回数を記録とするので、馬跳びが苦手な子どもと組む相手を上手な子どもにすれば、苦手な子どもの分をフォローできます。

上手になってくると、次の馬跳びの準備のため、着地と同時に向きを変えます。運動観察を通じて上手な子どもの動きをクラス全体に広めると、さらに記録が伸びます。

4.最後に

運動の記録のたし算をするというひと工夫を加えるだけで、教え合いが活発になり、クラス全体の雰囲気がよくなります。また、動きの質が高まり、運動学習として大きな成果を得ることができます。

一石二鳥にも三鳥にもなる記録の活用法です。ぜひ明日の授業から取り入れてみてください。子どもの意識や動きが変わること間違いなしです。

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執筆
吉羽 顕人
東京都公立小学校 教諭
1986年 東京都目黒区生まれ。「みんなができる、みんなでできる」授業の実現を目指し、日々研鑽中。また、実践を広げるために、オンラインで研修会を行っている。『「資質・能力」を育成する体育科授業モデル』(共著)(学事出版)


平川譲先生

監修
平川 譲
筑波大学附属小学校 教諭
体育授業研鑽会 代表
筑波学校体育研究会 理事
1966年千葉県南房総市生まれ。楽しく力がつく、簡単・手軽な体育授業を研究。日本中の教師が簡単・手軽で成果が上がる授業を実践して、日本中の子どもが基礎的な運動技能を獲得して運動好きになるように研究を継続中。『体育授業に大切な3つの力』(東洋館出版社)等、著書多数。


イラスト/佐藤道子

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