「昔のヒーロー」になっていませんか? 【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #50】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第50回は、<「昔のヒーロー」になっていませんか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

「土鍋にパエリア」指導

今日も職員室で、ある若手教師を校長がご指導なさっています。

「いいかい、そんな子がいたら、ダメなときはダメって言わなくちゃ。私のクラスにも大勢いたよ。そういうときは、毅然としてビシッと言わなくちゃならないんだよ。そんなことだからナメられるんだよ。」

また、あるときは、

「いいかい、そういう子はね、かまってほしいだけなんだから、しっかりと話を聞いてあげればいいんだよ。別にあなたのことを嫌いなんじゃないよ。好きだからそうするんだよ。じっくりとその子に向き合ってあげなさい。〇〇先生のようにやってごらんなさい。」

若手は助言されればされるほど表情が曇り、元気をなくしていきます。そして、毎日のように繰り返されるやりとりに、職員室の空気は重苦しくなっていきました。特に「〇〇先生のように」と名前を出された先生は、いたたまれない思いでその場でジッと佇むだけだったと言います。

時々、こうした自分の過去の武勇伝や根拠の曖昧な話を披露しながら、若手に指導、助言をする管理職やベテラン教師の話を聞きます。この状態を山田洋一氏は、日本学級経営学会のシンポジウム(2018年3月)で「土鍋にパエリア」と表現しました。若手に対して、状況に合わない指導をするベテラン教員の姿を比喩的に表現したものです。山田氏は、多くの若手教員の相談にのるなかで、そうした指導と実態のミスマッチの事例を多く見てきました。

こうした状況は、学校教育に限った話ではなく、ビジネスシーンでも見られる現象のようです。松尾(2011)は、「営業の世界には『昔のヒーロー』と呼ばれる人がいます。時代が変わっても同じ売り方にこだわっているため今では売り上げがパッとしない人たち」の存在を指摘しています※1。教育や営業でも、成功し続けるためには、絶えず変化する状況に合わせて、やり方を修正していく必要があります。

長く続く老舗ラーメン屋さんは、なぜ長く続くかというと、その店の個性を大事にしながらも、現在の客のニーズに合わせて微修正を繰り返していると言います。しかし、「昔のヒーロー」たちは、過去の自分のやり方で上手くいくと信じ込んでいるところがあり、状況に合わせた修正や磨き上げを怠りがちです。

冒頭の例で言えば、若手はダメなことはダメと言わなくてはならないとわかっていることでしょう。しかし、ビシッと言えと言われても、学級担任は、毅然とした指導に迷いがある方が少なくありません。そうした指導が支持されない事例を数多く見聞きしているからです。また、何をどうしたら「ビシッと」なるのか、「毅然と」とは、どのような態度、行動を指すのかよくわからないかもしれません。

話を聞いてあげなくてはならないことは百も承知のことでしょう。しかし、今の教室には、教師の注目を独り占めしたい子が、片手では足りないほどいるのが普通です。「先生のことを嫌いじゃないよ、好きだから」と言われても、あちらこちらで「先生見て、聞いて」とサインを送られてヘトヘトになっている教師には、そんな言葉は慰めにもならないことでしょう。

プレーヤーからマネージャーに

管理職は、プレーヤーではなくマネージャーです。また、新採用指導教員や学年主任などの主任層も、授業者や学級担任としてプレーヤーの側面は確かに持っていますが、学年経営や若手指導の場面では、マネージャーの役割を担います。

優れた実力や能力で、凄い結果を出してきた人が、優秀なマネージャーになるべきだという考え方はわかります。確かに、一定以上の実力があるからこそ、その人にメンバーはついていくのでしょうから。

ただ、中原(2014)は、マネージャーの仕事の本質を「他者を通じて物事を成し遂げること」と言います※2

つまり、管理職の仕事は、自分が直接的に為すことで結果を出すことではなく、職員を通じて教育活動の目的を達成することなのです。

管理職が、なかなか結果の出せないメンバーに向き合うときにするべきことは、かつての武勇伝を披露したり、成功談をひけらかしたりすることではありません。そんなことをしようものなら、タダでさえ自信を喪失している職員は、意気消沈してしまうでしょうし、決して職員は尊敬してはくれないことでしょう。それどころか「わかってないな」「それができたらやっているよ」と、本人だけでなく他の職員の不信を買うことになるかもしれません。

柴田(2015)は、「優れたマネージャーの仕事とは、自分が優れた結果を出すのではなく、メンバーの優れた能力を引き出し、良い結果を出すことができるように最適化すること」だと言います※3。柴田(前掲)は、優れたマネージャーの姿として40の指針を挙げていますが、その中の一つに、「優秀なプレーヤーで終わる人は自分を元気にする、優秀なマネージャーとなる人はチームを元気にする」と指摘します※4

マネージャーに求められる態度は、開放性であり、メンバーへの関心です。事例の校長は、自分の過去の実績に関心を向けてはいますが、目の前のサポートの必要な職員に関心が向いていないのかもしれません。職員に必要なのは、過去の他人の業績ではなく、自分の葛藤への誠実な関心なのです。管理職の仕事は、結果や成果に責任を持つことですが、結果や成果を出すのは、ご自身ではなく、他ならぬ職員であることを忘れてはならないのではないでしょうか。

※1 松尾睦『職場が生きる人が育つ「経験学習」入門』(ダイヤモンド社、2011)
※2 中原淳『駆け出しマネジャーの成長論』(中央公論新社、2014)
※3 柴田励司『優秀なプレーヤーは、なぜ優秀なマネージャーになれないのか?』(クロスメディア・パブリッシング、2015)
※4 前掲※3

『総合教育技術』2021年8/9月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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