覚悟を持って、子どもを “ほめちぎる”【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #20】

連載
菊池省三流 コミュニケーション科の授業

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します
第20回「コミュニケーション科」の授業は、<覚悟を持って、子どもを “ほめちぎる”>です。

アレンジしながら、オリジナルの取り組みに

継続的にかかわっている学校や自治体を訪れるたびに、「現場に浸透していってるなあ」と実感します。

学校現場では、担任が作成した価値語を添えた写真を全教室に貼り出したり、上級生が下級生に「ほめ言葉のシャワー」のアドバイスを行ったりしています。自治体では、地域を超えた研修会を行ったり、「○○(自治体名)ウィーク」と称して、1週間まるまる学びの場を設けたりしています。

特に印象に残ったのが、ある小学校長です。私が招かれた当初は教育センター長でしたが、小学校に異動。今までの取り組みを支える側から、実践できる立場になり、教職員とともに意欲的に取り組み始めました。「自分もできることからやってみよう」と、「いいところ」を見つけ、写真に価値語を添えて貼り出したのです。子どもたちの「いいところ」は校長室前の廊下に、教職員の「いいところ」は校長室に貼り出したところ、学校がプラスの空気に包まれるようになってきた、と話してくれました。

各々が工夫しアレンジしながら、オリジナルの取り組みにしている姿は、まさに「継続は力なり」。とてもうれしく感じました。

一方で、数年取り組んでもなかなか学校現場に浸透しない自治体もあります。元々自治体が主体となって取り組んだにもかかわらず、担当者がやらされ感で場当たり的なため、むしろ学校現場が混乱しています。

なぜこうも差が出てしまうのか―根底にあるのは、首長なり校長なり担当者なりの“覚悟”ではないだろうかと私は強く感じています。

そもそもなぜコミュニケーション力の育成に取り組むのか。細かいところは各々異なるでしょうが、根っこになっているのは、「対話や話し合いを通して子どもたちがかかわり合いながら、お互いを認め合う、公に通用する人間を育てたい」という思いです。そのためには、教師主導の授業を見直し、子どもたちが主役となって自ら考えるような授業を行う必要がある。そういう授業観の転換がなければ、これまでの“悪しき一斉指導”を乗り越えることは難しいのではないでしょうか。

1学期以上に “ほめちぎる”

“悪しき一斉指導” からの脱却には、まず自分からできることを実行していくことがなにより必要です。

学級経営の例を挙げましょう。

進級したばかりの4月は、子どもたちもやる気に満ちています。担任も心機一転。“ほめて認めて励ます” 視点で子どもたちと向き合っていきます。ところが、子どもたちが学級に慣れてきた5月過ぎ辺りから、だんだんと尻すぼみになっていきます。子どもたちのマイナスの部分が目につくようになるからです。私語や好き勝手な行動をする子、授業中に立ち歩く子、気に入らないことがあると暴言を吐く子、と気になる行動が目についてきます。担任も、問題を起こす子に対し、注意や小言、叱責することが増え、教室の空気が重くなってきます。すると、ほめるより叱るほうが多くなってしまい、バランスが崩れてしまう。教室が大きく荒れることはないものの、重い空気のまま、1学期が終了。その空気を引きずって2学期が始まります。

9月に入ったら、担任はもう一度スタート地点に立ち返り、教師も1学期の空気をいったんリセットしましょう。

なぜほめて認めて励ますのか──一人ひとりのいいところを認めて、その良さを他の子どもたちにも伝えることで、お互いを認め合えるようにする。お互いに本音を出し合える人間関係をつくり、全員で成長していく学級にしていこうと考えていたはずです。子どもたちと一緒に担任自身も成長していきたいと思っていたはずです。その原点に返り、“ほめて認めて励ます” ようにしましょう。そこでは、これまで以上にほめることが大切です。1学期に叱ってきたマイナス分を取り戻すためには、“ほめちぎる” 必要があるのです。やみくもにほめるのではなく、内面も含めたその子のいいところを深く見つめ、周りの子にもしっかりと伝えていく。その先の子どもの変容をどこまで見切れるか、覚悟を持って“ほめちぎり”ましょう。

実践!「コミュニケーション科」の授業
パネラーになりきって即興力を鍛えよう!

<岡山県浅口市立鴨方中学校1年2組>

6月に祝日をつくるならどんな祝日にする?

「最前列の6人は、机を後ろに向けてください。これから、テレビ番組でパネラーが話すみたいな形で発表をしていきます」
菊池先生が話すと、生徒たちがわくわくした表情になった。
「6月は祝日がありません。もし祝日をつくるとしたら、どんな日にしたいか。紙に〈○○の日〉とバシッと書きましょう。きっと楽しい祝日を考えてくれると思います」
パネラーだけでなく、全員で考える。

「どれくらいの時間が必要ですか?」
「……3分?」
「長いっ!」
「じゃあ1分!」
「よし! じゃあ59秒で考えましょう
みんな大爆笑。菊池先生と生徒たちの掛け合いに、教室の空気が一気に上がった。

「6人のパネラーは言いたい人から自由に発表します。理由もつけてください。聞いている人はどんどん突っ込んで質問しましょう」
考えついたパネラーから立ち上がり、発表が始まった
「6月19日に〈あじさいの日〉。あじさいが雨に濡れていてきれいだから」
「なぜあじさいにしたのですか? 他の花ではだめなのですか?」
「梅雨の時期は他の花よりたくさん咲いているので、あじさいにしました」
「おおーっ」という歓声と大きな拍手でパネラーをたたえた。
「『おおっ』『あっ、なるほど』というプラスのコメントや拍手はとてもいいですね。うなずくのもいいね。こういうリアクションがあるから、いい質問もどんどん出てくるんです。発表は即興力だよね」と菊池先生が話しながら、一人の生徒の席まで行き、上から見えない糸で引っ張るように生徒の挙手を促した

「お、即興力ですね。さすがだなあ。どうぞ」
むちゃぶりで指名された生徒が「僕もよく思いついたと思います」とコメントすると、みんなから大きな拍手が起こった。
「私は〈表現者の日〉にしました。雨で憂鬱な気分を晴らしたいので、舞台を見たり、そういう表現の日にしたいです」
「なぜ、表現者なのですか?」
「なんか言葉がいいな、と思って」
教室中が大きな拍手に包まれた。

「僕は〈地獄の始まりの日〉にしました。梅雨はむしゃくしゃするし、気分が悪い。事故も多くなるイメージがあるので、そう名付けました」
「梅雨でも、プラスのことはありませんか?」
「雨で警報が出ると、学校が休みになることです」 
みんながどっと笑った。

「今のはいい質問ですね。全く逆のことを聞いて、新たな発想を生み出す質問です。みんな、拍手の準備は?
大きな拍手が教室中に響いた。

自分らしさにあふれた意見に大きな拍手

「プラスの言葉を使ってコミュニケーションを高めていくことを1年間続けると、1年2組はどんなクラスになるでしょう?」
菊池先生の次の問いに、交替した新しいパネラーの生徒が、真剣な表情で紙に書き出していく。

<みんなが親友!!>
今もみんな仲がいいけれど、もっと仲良くなって親友になると思う
<情熱的でほんわかしたクラス>
より上を目指すことでちくちくした言葉を使うことがなくなってほんわかになる
<みんな一人ひとりを尊重できるクラス>
まだ全員できていない。話し合いやほめ言葉のシャワーをすることで、一人ひとり尊重できるクラスになっていく
<団結力のあるクラス>
ほめて認めて励ますと、より仲が深まり、団結力があるクラスになる
<心が温かくなるベリベリグッドなクラス>
ほめ言葉のシャワーでコミュニケーション力が上がって団結するから

発表を聞いた生徒たちから大きな拍手が起こった。
「今日は、即興力やユーモア力を交えながら、自分の言葉で発表しました。どの発表も自分らしさにあふれていましたね。聞いている人も、友達の思いを聞きながら、『なぜ?』『へえ』と、頭の中で自分と対話していたことと思います。みんなの意見を聞いて、成長し合っていくクラスだと感じました」と菊池先生が授業を締めくくると、生徒たちは大きくうなずいた。

授業後、生徒たちは「発表していた人たちの個性がすごく出ていて、自分ももっと即興力を磨こうと思った」「友達の意見を聞きながら、自分では思いつかないなあ、と感じたところがおもしろかった」と感想を話してくれた。

即興で発表された意見は、どれも個性的だ。パネラーも質問する生徒たちも、どんどん力がこもってくる。


 「1分」ではなく、「59秒」とすかすことで笑いを取り、子どもたちの緊張感を取り除く。1分よりも短い時間、というとらえ方で時間を意識させ、スピードアップさせる効果も。
 すぐに書く子もいれば、なかなか思いつかない子もいる。端から順に発表させると、詰まってしまうことになる。自由に発表することで、自分のペースで話すことができ、自分の意見をより明確に話すことができる。
③⑤ キラリと光る意見やリアクションが出たら、すかさず教師が価値づけてコメントする。子どもたちは、「こんなリアクションをしてもいいんだな」「もっと別の角度から質問してみよう」と広く深く考えるようになる。
 挙手した子だけを当てるのではなく、糸を引っ張るようなリアクションをして手を挙げさせたり、発表者に「誰に質問してほしいですか?」と振ったりすることで、子どもたちの発言の機会を増やす。いい緊張感を与えることにもなり、みんなが授業の“参加者”になる。

『総合教育技術』2022年秋号より

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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