リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #23 象には絶対に乗らない|佐々木虹香先生(北海道公立小学校)

連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ

北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今回は佐々木虹香先生のご執筆でお届けします。

執筆/北海道長万部町立長万部小学校教諭・佐々木虹香
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

こんにちは。佐々木虹香です。北海道で小学校教員をしております。
みなさんは日本以外の国に行ったことがありますか?
私は海外旅行が趣味で、コロナ禍以前は毎年2〜3か国を巡っていました。よく「海外に行くと価値観が変わる」という言葉を聞くことがありますが、私もその一人です。

それは単に見知らぬ土地のおかげではなく、海外で出会った「人」の生活に触れることや、一緒に行った「人」と普段には無い長く濃い時間を過ごすことによって、価値観が広がったり、新しい感情や価値観に気付いたりしているのだと思っています。

この度、原稿執筆の依頼をいただいた時、世界のどこかで撮ってきた写真を使おう、自分の価値観が揺さぶられた出来事を題材にしよう、とすぐに決めました。

2 一枚画像道徳」の実践例

対象:小学6年生
主題名:自然や生き物を愛する心
内容項目:D-20 自然愛護

以下の写真を提示します。

(筆者撮影)

この写真を見た子供たちは、「象に人が乗っている」「動物園?」「日本っぽくないね」などとつぶやいていました。
それらの反応を待った後、教師自身がインドネシアに行ったときに撮った写真であることや、観光地では象乗り体験が有名であることなどを伝えます。
「先生も乗ったの?」という言葉が出てから、「体験を予約しようと思って、象には乗りたいよねって友達に話したら……」と、次の発問につなげます。

発問1 私の友人は、象には絶対に乗らない、と言いました。どんな理由が考えられるでしょうか。

ここで1分ほど、考えを書く時間をとりました。子供たちは、次のような考えを発表してくれました。

象が嫌い。
象が怖い。
象から落ちたことがある。
象が可哀想。

概ね、その友人の個人的な思いや都合であると予想しているようです。
そこで、次のように説明しました。

説明

インドネシアなどの国の観光地では、象に乗せる体験を目玉にして商売をしている人が多くいる。
しかしこの友人が象に乗らないと言った理由は、「象は人を乗せられるようになるまでに、無理矢理ひどい躾をされることがある。そういう酷いことに協力したりお金を使ったりしたくない。」というものだった。
「象に餌やりをしたり、象を見に行ったりする体験なら、ぜひしたい。」とも言っていた。

これを聞いた子供たちからは、「知らなかった。」「可哀想。」「許せない。」などの反応がありました。初めに象の写真を見たときとは、すでに印象が変わっているようです。
新たな気付きがあったところで、今度は「自分ごと」として捉えて考えを深めていきたいところです。そこで、次のように二つ目の発問をしました。

発問2 観光地の象を大切にするためにできる行動はどんなことでしょうか。

ここでは、2分ほど、考えを書く時間をとりました。
複数思いつく子には、いくつか書いてもらいました。子供たちは、次のような考えを発表してくれました。

象に乗らない。
象に感謝する。
象に乗らずに、餌やりなど別の体験にする。
躾は仕方がないけど、これ以上酷い躾を受ける象を増やさない。

多くの子供たちが象に乗ることは可哀想、やめた方が良い、という考えをもったのに加えて、「ひどい躾はしないでほしいけど、人を襲わないための躾なら仕方がない」「せっかく訓練を受けた象なら乗ってあげたほうが良い」など、象に乗ることをただ否定するのではなく、「じゃあ躾をしなくてもよいのか」「今の象はどうなるのか」と多角的に考え、多様な価値観をもとに発言する児童も見られました。
ここでは、象に乗る、乗らないという答えが重要なのではなく、「動物を大切にする」という方向に向かっていればよいと考えます。

そして、「知らなければ、動物への酷い行動に加担してしまう可能性があること」「話し合いのおかげで、動物を大切にする行動はたくさんあるとわかったこと」を改めて確認します。

しかし、この商売をしている人は「悪」なのでしょうか。
この人の立場になって考えれば、象をコントロールする訓練をして、この仕事をすることで生活が成り立っている訳です。もしかすると、初めから「でも、この人のためには乗った方がよい」と考えていた子供もいるかもしれません。

そこで最後には、「動物を大切にすることについて、自分ならこうする、と考えることができましたね。とても素敵です。でも……もしもみんなが象に乗らなくなって、この人が職を失い、生活が成り立たなくなってしまうとしたら? みなさんは、同じ行動を選びますか?」と、多角的・多面的な思考を促して、授業を終わります。

3 他教科とのつながり

以下に説明するSDGsとの関連から、社会科で「日本と世界のつながり」や「世界の人々とともに生きる」ことを学ぶ単元や、総合的な学習の時間で「自分にできるSDGs」を考える単元等とつなげていくことができると考えます。

4 おわりに

SDGsでは、「あらゆる場所で、あらゆる形の暴力と、暴力による死を大きく減らす。」という目標が掲げられています。
これは人間だけではなく、動物も含まれるべきだと考えています。生態系を守る、というのは、単に命を守るだけではなく、その健やかさをも守ることです。

今回の題材について、「象の躾」を検索すると、世界の様々な酷い躾の様子が簡単に見られます。正直、小学生には見てもらいたくない、と思うような動画です。
全ての象が酷い躾をされているとは限りませんが、そうした現状を知って、「観光地では象に乗らないでほしい」と呼びかけている人もいます。
私自身、友人に言われなければ今だに知らなかった現実だったろうと思います。

しかし、授業の終わりの問いにもあるように、「ならば象に人を乗せる観光事業は無くそう」という単純な話ではありません。
同じくSDGsでは、「地球上のあらゆる形の貧困を無くそう」という目標も掲げています。生態系を守りつつ貧困も解消するには、政策も資金も必要となるでしょう。
子供たちにも、ある側面だけを切り取るのではなく、様々な背景を捉えた上で自分の考えをもてるよう支援していきたいものです。

一枚画像道徳の授業では、10分という短い時間でも、「なんてことのない日常の風景」が、「新しい気付き」や「自分の価値観の広がり」につながる可能性をもっています。
今回のように、こうすればAは良くなるがBが困る、というような場面から葛藤がうまれ、自分が大切に思う価値に気付く子供もいるかもしれません。
自分自身の価値観が広がるような一枚を、これからも貯めていこうと思います。

参考文献
 TABI LABO
 公共財団法人 日本ユニセフ協会

今後の連載予定
第24回 大野睦仁(北海道・札幌市立平岡中央小学校)
第25回 千葉孝司(北海道・公立中学校教諭)
第26回 中條佳記(京都府・京都市立百々小学校)
第27回 三浦真司(青森県・八戸市立根城小学校)
第28回 樋口綾香(大阪府・池田市立神田小学校)
第29回 高橋朋彦(千葉県・袖ケ浦市立平岡小学校)
第30回 駒井康弘(青森県・弘前市立堀越小学校)
第31回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。

※この連載は、毎週木曜日に公開します。次回は2月23日(木)6時に公開予定です。

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第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
第16回 町名の由来
第17回 百年の桜
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第20回 美しい建物の街~弘前
第21回 1枚で3通りの活用 ~西郷瀞のブランコ~
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