集団のかかわりの中で、個々が育つ【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #8】
教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第8回「コミュニケーション科」の授業は、<集団のかかわりの中で、個々が育つ>です。
人とのかかわり
目次
対話・話し合いの力は日々の学級の中で育っていく
「豊かな人間関係の土台づくり」と「健全な民主主義社会の担い手を育てる」、この2つが「コミュニケーション科」の目標です。これは、何も「コミュニケーション科」に限ったことではありません。全ての教科、いや、学校生活全てにおいての目標であるといえるでしょう。
ところが現実は、目の前の教科の指導に追われ、表面的な人間関係に追われている学校が少なくありません。学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」が重要視されても、教科で教える指導の一つという程度にしか認識されていないように感じます。実際、多くの教室では、これまでと変わらない教師主導の一斉指導が進められています。教科書の遅れを取り戻すことに躍起になっているコロナ禍でより顕著になっているといえるでしょう。
対話や話し合いの授業のとき、「子どもたちの話し合いが活発にならない」「いつも同じ子ばかり発言している」という質問を多く受けますが、それは子ども側の問題ではなく、教師の授業観にあるのではないでしょうか。
対話や話し合いは、限られた教科の限られた時間の中でできるものではありません。45分間、あるいは45分間の中の10分間という細切れで充実した話し合いができるわけがないのです。教師が指導したからすぐできるものではないし、一度経験したからといって充実したものになるわけではありません。そもそも教師と子ども、子ども同士の人間関係が構築されていなければ成立しません。毎日の授業や学校生活の中で少しずつ積み重ねていく、根気のいる取り組みなのです。
日々の積み重ねを通して、個も集団も成長していきます。「今まで発表できなかった○○さんが、今日は発表することができた」「算数の問題で○○さんが悩んでいると、△△さんがさっと行ってアドバイスしていた」と集団のかかわりの中で、個々が変わっていくのです。発問に答えられない子どもがいるとき、すぐに助け船を出す教師や支援員の姿を見かけます。よかれと思ってやっていることはわかりますが、その子の学び、ひいてはその子を巡る集団の学びを断ち切ってしまうことも多いのではないでしょうか。
自ら考え、人の意見を聞き、ときには意見を戦わせながら最終的によりよい解決を導いていくことが対話・話し合いです。それが、強い学び手を育てていくことにつながっていきます。
コミュニケーションの要は対話です。豊かな対話は相手との関係性が欠かせません。対話・話し合いは、学級づくりと並行して育てていかなければならないことは、この連載でも何度も触れてきました。子どもたちの人間関係をより深め、充実した話し合いに持っていくためには、限られた教科だけでなく、日常生活や様々な授業の中で話し合いの活動を取り入れていく必要があります。
その一つとして私は、帰りの時間などを使って友達同士で相手のいいところをほめ合う「ほめ言葉のシャワー」に取り組んできました。相手のいいところを見つけ、伝えることで、相手への思いやりはもちろん、一人ひとりの自分らしさが発揮されます。ほめられた側も自分の長所に気づき、自己肯定感が高まります。「○○さんは以前に比べて、自分の意見が出せるようになりましたね。きっと次はもっといっぱい出せると思います」「今まで私は人の意見に流されがちだった。でも今日の○○さんを見て、次は私も言い切れるようになりたい」──信頼関係が生まれれば、マイナスもプラスに転化するようになります。
「『ほめ言葉のシャワー』がマンネリ化してしまう」──「ほめ言葉のシャワー」について、必ず寄せられる質問です。マンネリ化するのは、教師が「ほめ言葉のシャワー」の目的と価値を十分理解していないからです。一人ひとりが自分らしさを発揮し、お互いを認め合い、みんなで一緒に成長していくこと、将来健全な民主主義の当事者となること、というずっと先にあるゴールに目を向けず、目の前の知識や技術ばかりに気を取られているのです。普段の授業のように教師が一方的に行えば、子どもたちはやらされ感で負担に思うだけです。当然、ほめ言葉も表面的なものになるでしょう。
「ほめ言葉のシャワー」は、子ども同士がプラスに評価し合う活動です。教師だけに評価される授業を受けていた子どもにとっては、初めての経験です。「ほめ言葉のシャワー」をするとどんないいことがあるのか、どんなものにしたいか、子どもたちと一緒に考え、思いを共有していくことが大切です。停滞していると感じても、それは次のステップに進むチャンスととらえましょう。どうすればもっとよくなるか、子どもたちと一緒に考えていく姿勢が必要です。
「ほめ言葉のシャワー」が充実している教室を参観すると、子どもはもちろん、教師も笑顔があふれています。指導する立場、評価する立場ではなく、ともに成長しようと一緒に学んでいるのです。これからの時代を生きる子どもを育てる教師は、子どもの成長を一緒に楽しむ共同探求者であってほしいと強く願います。
実践!「コミュニケーション科」の授業
ほめ言葉のシャワーをレベルアップしよう
人とのかかわり
<福岡県吉富町立吉富小学校2年2組>
ほめ言葉のいいところを出し合う
「ほめ言葉のシャワーのとき、マスクの下はきっとこんな顔になっていますね」
初音さんへのほめ言葉のシャワーが終わった後、菊池先生が黒板に初音さんの笑顔の似顔絵を描いた。
「ほめ言葉のシャワーを毎日やって、一つでもいいことがあったと思う人は○、あまりそう思わない人は△を書いてください」
菊池先生の問いかけに、32人全員が○を書いた。
「じゃあ理由を書きましょう。何個ぐらい書けそうかな?」
「3つ!」と元気な意見が出ると、菊池先生がにっこりしながら、「2年生だから2個にしましょう。2個書けた人から先生のところにノートを持ってきてください」。サラサラと書き出す子、じっくり考える子、みんな真剣な表情だ。
2個書けたら先生に○をつけてもらい、黒板に書いていく。
●メリハリをつけている
●聞こえる声じゃなくて、聞かせる声で話す
●みんなのらしさがわかってくる
●みんな笑顔
●男女関係なくできる
●心の中でキャッチボールしている
●手遊びをしなくなった
●ほめるのがうまくなった
●聞き方がうまくなった
●お母さんにほめられた
●発表に自信がもてるようになった
みんなの意見で、黒板の下半分がみるみるチョークの白い文字で埋まった。全員が書いた後、何人かが発表。中には「○○さんが一人で言えるようになった」と友達の成長を挙げる子もいた。
「自分の考えを自分の言葉で言えるというのはとてもすごいことです。黒板を見てどんなことを思ったか、ぱっと一つ決めて書きましょう」
菊池先生が話すと、子どもたちはさっとノートに向かった。
●“白い黒板”になっている
●みんなが価値語で書いている
●みんなの感想がいっぱい
「それでは、2分間自由に立ち歩いてみんなで意見を交換しましょう。①おしゃべり、②質問、③説明、の順で意見を交換するといいですよ」
子どもたちがさっと席を立ち、いろいろな子と交流。友達の意見をノートに書き写す子も見られた。
「みんな一生懸命書いたなあ」「よい言葉がいっぱいある」「いい質問が出た」「1年生のときと比べてよくなった」と発表し合った。
温かいほめ言葉があふれる教室に
<ほめ言葉のシャワーをもっとよいものにするために>
子どもたちの発表が終わると、菊池先生が黒板に書き足した。
「こういうことを頑張ろう、こうなったらいいなと思うことがたくさんあると思います。ノートに書いてきて、また先生のところに持ってきてください」
子どもたちは○をつけてもらうと、菊池先生の指示に従って、1から3までナンバリングされた黒板の上半分のスペースに意見を書き込んでいった。
①みんなが自分らしさを
価値語を使う
いいほめ言葉を見つける
友達と仲良くする
手あかがついた言葉を使わない
②出る声を出す声にする
③目と目を合わせて言う
手遊びをしない
黙って話を聞く
出席者から参加者になる
笑顔いっぱいで
書き終えると、菊池先生が①→内容、②→声、③姿勢、笑顔、と書きながら、「この3つを頑張れば、温かいほめ言葉があふれる教室になっていきます。そのとき同時に、自分らしさを出してみんなと仲良くなることがとても大切です」と説明すると、子どもたちはにっこりうなずいた。
授業後、「ほめ言葉のいいところを発表するとき、私はあまり書けなかったけれど、クラスのみんなで考えたらたくさん出たのですごいと思った」「みんなが書いたほめ言葉のいいところを見つけられるクラスにしていきたいな」「白い黒板をつくれたのが楽しかった」と子どもたちは感想を話してくれた。担任の西村俊輔教諭は、新卒で2020年4月から教師になったばかり。5月までコロナ禍で休校だったため、学級の人間関係づくりのスタートが出遅れてしまった。1学期は、友達のいいところを紙に書いて主人公の子に渡すところから始め、2学期になって本格的にほめ言葉のシャワーに取り組んでいる。
「最近、子どもたちのほめ言葉の内容が具体的になり、全員が発表できるようになってきました。子どもたちもほめ言葉のシャワーを楽しみにしています。今日の授業をもとに、子どもたちがより意識してほめ言葉のシャワーを行えるようレベルアップしていきたい」と力を込める。
2年生でも、内容の濃いほめ言葉のシャワーが成立することがわかります。西村先生も教師になりたてでいきなりの休校は大変だったと思いますが、子どもたちと一緒に学級の成長を楽しんでいる姿がいいですね。
『総合教育技術』2020年12月号より
構成/関原美和子
菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。