リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #16 町名の由来|三浦将大先生(北海道公立小学校)
子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。第16回は三浦将大先生のご執筆でお届けします。
執筆/北海道函館市立大森浜小学校教諭・三浦将大
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和
目次
はじめに
みなさん、こんにちは。
北海道・函館市で小学校の教員をしております、三浦将大と申します。
この授業を構想する上で考えたことは、主に二つあります。
一つ目は、ひと・もの・ことがそこに在ることの意味を、一枚の画像を通して考えられるようにしたいと思ったことです。
もう一つは、橋渡し的活用により他教科・他領域の学習との連携ができるのではないかと考えました。
現在勤務している学校は、数年前に三つの学校が統合され開校された学校です。
校区が広く複数の町があります。そのうちの一つの町名を取り上げ、その町が在る意味や背景を捉えたり、町に愛着をもてるようにしたりすることで、他教科・他領域の学習内容や地域とのつながりを感じられるのではないかと考えました。
1 授業の実際
対象:小学3〜6年生
主題名:町名の由来
内容項目:3・4年生 C-16 伝統と文化の尊重 / 5・6年生 C-17 国や郷土を愛する態度
次の写真を提示します。
発問1 町名の看板です。みなさんは見たことがありますか。
●見たことある。
●学校に来るときに通る道にある。
●わたしの家の近くには、「◯◯町」の看板がある。
●こんな看板があったなんて気付かなかった。
子供たちは、登下校の際に目にしていると考えられます。
一方、この看板は自動車用の信号の横についているため、看板があること自体に気付いていないことも考えられます。
そこで、次の写真のように校区にある町の看板を提示し、子供たちが住んでいる町名の看板もあることを伝えます。
●家の近くだ。
●帰りに見てみる。
このような反応が予想されます。
説明
校区の周りには、新川町、柏木町、駒場町、中島町という町もあることや、それぞれの町名の由来を説明します。
●新川町は新しい川が流れていることから
●柏木町は柏の木がたくさんあったことから
●駒場町は競馬場があることから
●中島町は箱館戦争で戦死した中島三郎助父子の姓から※1 ※2
その上で、次のように発問します。
発問2 最初に見てもらった「時任町」の町名の由来はなんだと思いますか。
●時だから時計に関係ありそう
●何か、ものの名前なのかな
●「ときとう」という人の名前なのかな
●全く思いつかないな
子供たちは、自分なりに考えます。
ただ、「時任」という言葉は、子供たちにとっては、あまり身近な言葉ではないため、考えが出ないことが予想されます。そこで、次の写真を提示し由来を説明します。
説明
時任町創立50年記念碑という石碑が、時任町にある公園にあります。
この石碑には、「時任為基(ときとうためもと)ゆかりの地」と彫られています。
時任為基の写真を提示し、説明を続けます。
●函館県令(今の知事のような仕事)であったこと。
●1877年から1887年までの間、函館に住んでいたこと。
●亀田川の改修、水道埋設の計画、函館公園の開設、牧場の開発、土地の寄付等を行い函館の開拓と発展に貢献したこと
※3
さらに、石碑に記されている内容を紹介します。
時任町は、1931(昭和6)年町名改正のときに誕生した。時任町名の由来は、当地ゆかりの時任為基による。時任為基(1842年~1905年)は薩摩の出身で明治10年から11年余に亘り函館に在住し、当時の北海道開拓使長官 黒田清隆 の信任も厚く、函館県令として近代函館の基礎を築いた。
さらには、現在の本町、杉並町の電車通りから大森浜にかけ約50万坪の土地を購入し、洋式の模範農場を経営するとともに、現在の函館中部高等学校の敷地を寄付するなど功績は大きい。
時任町という町名は、函館のために力を尽くした、時任為基の名前が由来となっているのです。※1 ※2
説明を続けます。
●時任町という町名があることで、時任為基という人物が確かにいたことや、この人物が函館のために力を尽くしたことが伝え続けられること
●このような人物だけではなく、たくさんの人たちが住み続けてきているからこそ町があること
●町があり続けてきていることで、地域の行事や活動、地域の人々や生活の営みが引き継がれていること
そして、次のように伝え、授業を終えます。
みなさんも、みなさんが住んでいる町の町名の由来について調べてみることで、その町についてもっと知ったり、その町にあったものやこと、人物について知ったりすることができるかもしれません。
2 どこにどのようにつなげるか
3・4年生の社会科では、市や県を中心とした地域の社会生活を総合的に理解できるようにするとともに、地域社会に対する誇りと愛情、地域社会の一員としての自覚を養うように求められています。
社会科で地域のことを扱う前に、この「一枚画像道徳」の授業を行うことで、地域のことにより興味・関心をもって社会科の授業に臨むことができるのではないかと考えます。
また、総合的な学習の時間において、地域のことをテーマとして扱う場合もあるでしょう。その際にも、事前にこの授業を行うことで、地域への興味や関心をより高めることにつながるのではないかと考えます。
おわりに
町名の由来についての授業例を報告しました。
授業を構成するにあたり、函館市の歴史に関わる書籍を読んだり、校区をあらためて巡ったりしました。これまで知らなかったことを知ることで、函館市や校区により愛着が湧いてきたことを感じることができました。
また、授業例にある時任為基だけではなく、たくさんの人たちが確かに存在し生活していたこと、そのことが今の地域を創り上げていることをも感じ取ることができました。
子供たちにもそのようなことを少しでも感じ取ってもらえたらと考えています。
<参考文献>
※1 元木省吾『新編 函館町物語』1993年 幻洋社 (p.68, p.88, p.91, p.96, p.98)
※2 須藤隆仙『函館=その歴史・史跡・風土=』1975年 南北海道史研究会 (p.246, p.249, p.252, p.263)
※3 ウィキペディア フリー百科事典 時任為基
●『はこだて歴史散歩』1982年 北海道新聞社
●函館市文化・スポーツ振興財団 時任為基(ときとう ためもと)
●『時任町会創立50周年記念誌』(https://tokito.org/50annivers/004.html / https://tokito.org/50annivers/005.html)
今後の連載予定
第17回 倉内貞之(青森県五所川原市立栄小学校教諭)
第18回 古舘良純(岩手県花巻市立若葉小学校教諭)
第19回 有田雪花(神奈川県海老名市立中新田小学校教諭)
第20回 木村麻美(弘前大学教育学部附属小学校教諭)
第21回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。
<リレー連載>明日の授業に生きる! 「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~