子どもとともに学ぶ、小学校理科授業のつくりかた 【理科の壺】
ベテラン先生の授業する姿を見ていると、簡単に授業を進めているように見えます。しかし実は日ごろから、「子どもにとって学びを充実させる指導とは何か」を考えて授業を改善し続けています。形だけ授業が進んでいれば良い、とはしていないわけです。つまり、経験に裏打ちされた “見えない工夫” が大切だったりします。今回は、理科の授業をする上での基本的な考え方を、杉野先生から具体的に紹介していただきます。改めて、あなたも授業の方法を見直してみましょう。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/お茶の水女子大学附属小学校教諭・杉野さち子
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
私は、「子どもとともに授業をつくりたい」といつも考えています。そうすることで、子どもはその授業を進める “主体者” となり、友達や先生を共に進む仲間にして、授業をつくっていくことができると思うからです。そのためには、子ども自身が自分の行動を振り返り、自分の考えを修正することや、仲間の考えを自分の中に取り入れることが必要です。そのような力は、将来にわたって大切になると考えています。
今回は、第4学年「雨水のゆくえ」を例に、このような授業をつくるために、1時間の授業の中で、私が大事にしていることを紹介します。
1 目標を学級で共有しよう
1コマ(または2コマ)の授業の中で、何をどこまでやるのか、目標を共有します。その時間のゴールが明確になることで、子どもは自分たちで授業を計画することができます。先生の関わり方も明確になります。子どもも先生も、常に目標が達成されているか考えながら活動を進めることができます。
例えば、
問題:水は、どのように流れていくのだろう?
について調べる場面の導入の様子を示します。
今日は、どこまで行けるかな?
実験をして、みんなで考察する!
その前に予想を出し合わないと。
予想するには、どんな風に実験するか考えないと。
実験もしたい。
じゃあ、方法を考えて、予想して、実験するところまでを目指す?
2時間続きだから、考察まで行けると思う。
このようなやり取りをして、下の板書のように全体で目標を共有しました。板書を使って視覚的に目標を共有すると、子どもたちの考えもこれから活動する内容も整理できます。子どもたちは、班ごとに方法を考えて、どうなるか予想をし、実験を行うために校庭に散らばっていきました。
2 活動中、先生は子どもとたくさん関わろう
いろいろな場所で実験をしている子どもたちに、できるだけ関わるようにします。先生は、ともに目標達成に向かう仲間ですから、積極的に関わることが大切だと考えています。例えば、思い通りに実験が進んでいない班には、「最初はどうなると思っていたの?」と予想に立ち戻って方法を見直すように促します。早々に結果を出して満足している班には、「この結果から、どんなことがいえるの?」「他の場所でも同じ?」など、考察するための事実を見直すように促します。班の中で理解に差がある場合には、対話を促します。
しかし、子どもたちの中で解決に向かっているときは(失敗があったとしても、そのことについて検討している場合など)、「見守る」という関わりも大切だと思います。
3 全体で話し合うときは深掘りしたいところに “ツッコミ” をしよう
すでに子どもの中で十分考察が進んでいるのなら、先生は、深掘りしたいところに絞って声を出し、子ども同士の対話を助ける役割を担います。例えば、似たような発言でも、考えに違いが見てとれたときは、その差異を際立たせ、さらに深く考えられるようにします。「水がたまるのは、平らなところ? それとも、くぼんだところ?」などのようなツッコミを入れます。子どもはもう一度実験結果を見直したり、ときにはもう一度やってみたり、ということになります。
4 振り返りでは目標の達成を問うてみよう
みんなで決めた目標を自分は達成したか。しなかったとしたら、次にどうしたいかを振り返ります。友達の考えに影響を受けた場合なども、振り返りに記述するようにしています。そのことにより、自分の学びを振り返り、自信をもったり見直したりしてほしいと思います。また、仲間と学ぶ良さを改めて感じてほしいと思います。次の子どものノートを見てください。このノートは、この時間の振り返りです。
実は、この時間は、最初に共有した目標に達成しなかった、と振り返った子が複数いました。
授業後に、ノートの記述をみて分かりました。余裕のあるときは、次のように振り返りを座席表に記述し、教師も振り返りをするようにしています。そして、次の時間の改善を考えます。この授業では、結果的に、次の時間に「もう一度調べたい!」となって、再実験と考察をしました。
なかなか計画通りにはいかないものです。でもそれが、子どもとともにつくる授業の楽しいところでもあるのです。子どもが、授業は自分たちのもので、先生も一緒につくっていくものと考えていたら、とてもうれしいです。
イラスト/Nataka
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
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〈執筆者プロフィール〉
杉野さち子●すぎの・さちこ お茶の水女子大学附属小学校教諭 札幌市公立教員より現職。理科に限らず、子どもの見取りに関心がある。
SSTA通信編集、理科三団体連携企画に携わっている。日本理科教育学会優秀実践賞受賞。最近の著書は、「子どもと深い理解をつくる授業を目指して」(理科の教育2022年1月号)、「子どものエージェンシーを支える教師の役割」(初等理科教育2022年12/1月号)「アセスメント・リテラシーに基づく実践の公開と省察」(理科の教育2022年12月号)。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。