リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #9 地域の魅力、知ってる?|葛西もえ先生(岩手県公立小学校)


子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促していく……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。第9回は、葛西もえ先生のご執筆でお届けします。
執筆/岩手県奥州市立佐倉河小学校教諭・葛西もえ
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和
目次
はじめに
みなさん、こんにちは。
岩手県の小学校に勤務しております、葛西もえと申します。
大学卒業後、特別支援学校で講師として経験を積み、今に至ります。
特別な支援が“特別”でなく“あたりまえ”の社会になってほしいという願いをもちながら、「みんなちがってみんないい」と自然と思えるような学級づくりに励んでいる最中です。
日々の道徳の授業は、毎回ギリギリまでどうしようか悩んでいる優柔不断な私ですが、今回、藤原先生から声をかけていただいた時、真っ先に「地域教材でいこう!」と思いました。
それは、自分が住んでいるこの岩手県が大好きだからです。
私は幼い頃から今まで岩手県で過ごし、たくさんの魅力を感じてきました。
教師となった今、その魅力を子供たちに伝えたいという気持ちがあります。
昨年度、子供たちと岩手県について学んだ際に「岩手は山しかない。あと田んぼ」「つまんないよね」「住むなら都会がいいな~、東京がいい!」といったような発言がありました。
確かに、見わたせば緑色ばかりで、大きなテーマパークがあるわけでもありません。しかし、いろいろな角度から岩手県を見つめることで、見える景色も変わってくるのではないかと考えます。
1 授業の実際 〜世界に届け、平泉の魅力〜
対象:小学6年
主題名:町の宝を世界の宝に
内容項目:C-17 郷土愛
以下の写真を提示します。

パッと見るとなにが写っているか分かりにくい写真ではありますが、よく見ると「HIRAIZUMI(平泉)」の文字が見えます。子供たちは4年生の社会科の時間に平泉について学習していることもあり、次々と反応し始めるでしょう。
さらに、これまでに学んだ知識や見た感じの様子から、平泉町の魅力を語り始めます。実際に行ったことのある子供は、平泉町で行われる歴史に触れるイベントの面白さも話し始めます。
●金色堂だよ。見たことある! すごくきれい。
●街並みもいいよ。昔の街みたいでおしゃれ。
●藤原まつりで、昔の服を着た人を見たことがある。
●きれいな景色が残されている。
説明
ここで、この写真に写っている資料が世界遺産登録のための推薦書であることを明かしてから、以下のことを説明します。
●世界遺産として登録されたのは、中尊寺金色堂や毛通寺のような建物だけでなく、柳之御所遺跡と呼ばれる屋敷の跡や金鶏山という山もあること。
●平泉の文化の始まりは、戦で妻子をなくした藤原清衡が平和で平等な世界への願いをこめたことからであること。※1
●伝統、思想、信仰が評価され、登録に至ったこと。
●藤原氏の衰退後も、平泉の文化が守られてきたこと。※1
〈きれいなもの〉が世界遺産に登録されると思っていた子たちは、そこに込められた思いや願いに触れることで、平泉の文化に対して新たな気付きを芽生えさせます。
ここで、一つ目の発問をします。
発問1 平泉町の人々は、平泉の文化のどんなところが世界遺産登録に推薦できると思ったのでしょう
●きれいな建物や景色をオススメしたいと思う。
●昔からあるものが、たくさん残っていることかな。
●景色だけじゃないかも。
●平和を願う気持ちを世界に伝えたいのでは?
●平和を願う気持ちが続いてきたこと。
平泉の世界遺産と聞くと、煌びやかな金色堂をイメージする子が多いですが、この発問について考えることで、目には見えない魅力に気付いていきます。
世界に誇れる平和の文化に気付き、盛り上がってきた子供たちに次のように説明をします。
説明
●写真に写っている推薦書は、じつは二つ目の推薦書であり、一つ目の推薦書を出したときには、世界遺産登録の審査をやり直す「延期」を勧告されてしまった。
●ダメだったってこと?
●えー、なんで?
●いいところ、たくさんあるのに……。
子供たちは、せっかく気が付いた魅力が認められなかったかのように感じ、がっかりするかもしれません。
加えて、以下のことを説明します。
●当時の町長は「勧告は重く受け止めている。しかし、これで終わりとは思っていない。」と述べていること。※2
●「延期」となった際に、あきらめずに取り組み続けた人々がいたこと。
●世界遺産登録に向けて、町全体で環境を整える活動をしたこと。
●世界遺産登録が町全体の願いになったこと。
発問2 「延期」を勧告されたが、あきらめずに世界遺産登録に向けて取り組めたのは、なぜだろう
●なんとしてでも世界遺産に登録して、平泉の魅力を世界に伝えたい。
●平泉の素晴らしい文化を世界の人たちにも大切にしてほしいと思ったから。
●世界遺産になることで、街がもっと元気になると思うから。
●平泉をもっと好きになってもらいたい。
●世界中の人に興味をもってもらって、たくさんの人に見てもらいたい。
●自分の住んでいる地域に自信を持ってほしい。
自分が住む地域ではないけれど、平泉の人々と自分を重ね合わせたり、自分の知っている平泉の魅力とつなげて考えたりすることで、魅力を発信したくなる気持ちや、郷土を大切に思う気持ちに共感することでしょう。
また、世界遺産登録後の平泉町の様子から、自分の住む町をより良くするにはどうするかという視点で地域について見つめ直す子も出てくるのではないでしょうか。