学級崩壊を起こしかけていた先生のその後【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㉓】

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全国「授業実践レポート」 取材こぼれ話
学級崩壊を起こしかけていた先生のその後【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㉓】

学級崩壊を起こしかけた先生と、その学校の校長先生

学級崩壊という言葉は、学校教育に何らかの形で関われば耳にすることのある、しかもインパクトの大きい言葉です。しかし、学校の外にいる人間にとっては、実際にそうなってしまった学級を目にすることはまずないのが現実です。特に、よい実践を紹介することが大半の取材者としては、当然のことです。そこで、今回は学級崩壊をしかけていたという先生の、その後の姿とその学校の校長先生についてお話をしてみたいと思います。

今では、子供たちが自ら発言を紡ぐ、すてきな授業ができる先生

今から10年くらい前のお話ですが、ある先進的な取り組みをしている学校に取材をしに伺ったときのことです。それは「総合教育技術」誌の取材でしたので、学校の実践全体を紹介するのが主な目的でした。しかし、実践の象徴となるような授業を、ぜひ取材前に見ていくようにと校長先生から勧めていただいたので、喜んで授業を拝見することにしました。

それは高学年の国語の授業でしたが、子供たちが読み取ったことを主体的に発表し、それを先生が上手に板書に整理し、対話が見えるように整理することで、自然に対話が深まっていくようなものでした。もちろん、授業としてめざした指導事項も、まるで子供たち自身が発見したかのように気付いていき、身に付いていくようなもので、しっかりねらいが実現されていくのが分かる、よい授業だったのです。

授業後、校長室に戻り、学校の実践についてお話を伺った後で私は校長先生にこう尋ねました。

「それにしても、今日の授業は御校の実践を象徴するとてもよい授業でしたね。何だか、お若く見える先生でしたが、10年くらいの経験がおありなのでしょうか?」と私。

「いえ、確か今年で5年目でしたね」と校長先生。

「ヘ~、5年程度の経験でも、あんないい授業ができるようになるんですね」と私。

「実はね、あの先生は新任のときには、学級崩壊しかかったことがあるんですよ」と穏やかな笑みを浮かべながらお話しになる校長先生。

「そうなんですか。学級崩壊しかかっていた先生とはとても思えない、よい授業でした。校長先生やよい指導の先生に恵まれたのでしょうけど、それにしても、4年間ほどでここまで変わるものなのですね」と私。

取材の主たる目的ではありませんし、その先生の個人的なことは聞けませんので、どのように校長先生が、その先生の成長を支えられたのかお尋ねしました。

すると、まず「人は必ず変わる(あえて成長するという価値付けはせず、変わる、と言うのだとか)」という信念をもっていると話されます。そして、ご本人と相談しながら、先生が自らの問題点を考えて修正を図っていくように関わっていったのだと言うのです。

そのうえで、学級で子供を育てることと、学校経営で先生を育てることは基本的には変わらないと話されます。もちろん、学級の子どもたちと職員室は年齢のバラつきも多様な経験も違いますが、学級で子供たちが自ら考え成長するように関わることと、先生が自ら考え成長していくことを支援するのとは、基本は同様だというわけです。当然、学級崩壊をしかけていたときには、多様な問題を抱えていたのだと思いますが、「人は必ず変わる」と信じて待ちながら、初任の先生に何が問題なのかを考えさせ、支援をしていった姿が想像できて、何だかすてきだなと思ったのでした。

今、よい授業をされているベテランの先生も、きっと若手の頃には失敗を重ねながら、「変わって(成長して)いった」のだろう。
今、よい授業をされているベテランの先生も、きっと若手の頃には失敗を重ねながら、「変わって(成長して)いった」のだろう。

名教師は必ず名校長たり得る?

もちろん、学級崩壊を起こす先生が抱えている問題は一人ひとり異なることでしょう。以前、教育委員会でトラブルバスター的なお仕事をされていた管理職の方から、学級崩壊の要因について取材で伺ったこともありますが、その方から聞いた要因は多種多様です。たまたま運悪く、難しい子が複数いて小さなきっかけで学級が荒れ始めるという場合もあるようです。若い先生が「きちんとしなければ」と思うあまり、厳しくしてしまい反発を招く場合もあるようです。あるいは、先生自身が人と関わることが元々苦手だという、「なぜ、この仕事を選んだのですか?」と聞きたくなるような例もあるそうです。

そのように理由はさまざまあるとしても、いざというときに「人は必ず変わる」と信じて、関わり続けてくれるベテランの先生がそばにいてくれれば、本当に人は変われるような気がします。

少し話が変わりますが、スポーツ界では「名選手は必ずしも名監督ならず」という言葉があります。スポーツの専門技術について、独自の鋭い感覚だけで会得した名人は、人を教えて育てたり、専門家のチームをマネジメントしたりすることが必ずしもうまいとは限らないというのはその通りなのかもしれません。

しかし、もしかしたら教育の世界では、「名教師は必ず名校長たり得る」のかもしれません。なぜなら、多様な個性をもっている人と関わり、彼らが変わる(成長する)ことを支援するという点は、対象者の年齢を除けば、何も変わらないのですから。

そう思うからこそ、すてきな授業をなさる先生に、私はよくこう言うのです。「将来は、ぜひ管理職になってより多くの子供たちを育ててくださいね」と。

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執筆/矢ノ浦勝之

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