「指導と評価の一体化を図る」とは?【田村学流 単元づくり・授業づくり#21】
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この企画では、元文部科学省視学官であり、現行学習指導要領の策定にも尽力された、國學院大學・田村学教授に、「単元づくり・授業づくり」をテーマとした連載をしていただきます。
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目次
評価計画と指導計画との関係について
これまでの数回で、学習評価における評価規準の設定やその見とり方についてご説明をしてきました。今回からは、そのような評価計画の仕方と指導計画との関係などについてお話をしていきたいと思います。
評価計画と指導計画は一体のものとなって行われることが必要
これまでご説明したような「学習評価」を行うためには、当然、事前に評価計画を設定することが必要になります。そのような評価計画は、指導と評価の一体化という言葉にも象徴されるように、(以前、お話をした単元デザインのような)指導計画と一体のものとなって行われることが必要です。
そもそも、指導という行為は、子供たちに期待する学習活動の実現や資質・能力の育成に向けて先生が働きかける行為だと思います。その行為の是非や適切さを確認するには、何らかの判断材料が必要です。もし、それがないと、先生の日々の指導が自分勝手になったり、偏ったりする危険性が高まってしまいます。しかも、相手は子供ですから、場合によっては指導する先生との間に上下関係が生じてしまい、「できないのは子供が悪い」と、子供の側に責任があると考えてしまうこともあるでしょう。そうしたことが起きれば起きるほど、教育活動は歪んでいってしまうのです。
ですから、指導と評価の一体化は、先生が真摯に、誠実に指導を実現していくためには欠かせない行為だと思います。「指導の改善に向かう」というのは、その通りですが、先生が自分自身の行いを顧みるためにも、常に子供の姿など子供の側に生じる事実を評価することによって、検証していくことが必要だと思います。「指導がより適切に行われる」ということは、そのような適切な評価活動と表裏一体のものとなってこそ実現できるのなのです。
もちろん、このような指導と評価の一体化は、子供たちに資質・能力が付いているかということを見るために行うわけですが、もっと根源には、「本当に子供に寄り添えているのか?」とか、「本当に子供たちのための教育活動になっているのか?」ということがあるわけです。そのような教育を常に実現していくために、指導と評価の一体化が必要なのです。
先生は誰しも、そのような子供の成長を願い、子供に寄り添って教育を行っていると言えるでしょう。一方、本当に、全ての先生にそのような思いがあったとしても、常にそれが具体的な教育活動として実現できているかというと、そう簡単ではないはずです。だからこそ、要所要所で立ち止まり、ふり返ってみることが必要ですし、そのために指導と評価の一体化を図ることが求められているのです。そのような、自らをふり返り、見つめ直すための指標がないと、つい自分本位になってしまうということは、先生に限らず、どんな仕事をする人にも起こることではないでしょうか。ですから、指導の結果としての子供の状況を評価し、その評価結果を次の指導に生かすために、指導と評価の一体化を図ることが必要なのです。
もちろん、評価結果については、子供自身が自身の学習状況を評価し、学びの質を高めていくためにも必要です。そのため、指導と評価の一体化を図り、指導計画と評価計画が表裏一体のものとして計画されていくことが求められるのです。
指導と評価の一体化は事前や事後の指導改善につながる
評価規準の設定の回でも少し触れましたが、指導計画と評価計画が一体に進められるようになると、日々の指導の事前や事後で指導の精度を上げていくことが可能になります。こうお話しすると、「指導の結果である評価を受けて、次の指導改善に生かすことはイメージできるけれども、事前に指導の精度を上げるというのはどういうこと?」と疑問をもたれる方もいるかもしれませんね。
ここで以前、ご説明をした、評価規準の設定の仕方を思い出していただくと、イメージしやすくなるだろうと思います。3つの資質・能力に対応する形で、より具体的かつ精度の高い評価規準を設定する方法を説明したことは覚えていらっしゃるでしょう。子供の姿がより具体的に示された評価規準が設定できれば、「指導計画では、ここでこんな活動をしようと思っていたけれども、評価規準のような姿を具現するためには、もっとこんな学習材との出合いがあったほうがよい」とか、「その姿になっていくためには、単元の途中でこんな活動を行ったほうがよい」というように、事前に指導計画の質の向上を図ることができるということなのです。これが、指導と評価の一体化を図ることによって、事前に指導の精度を上げることができるということです。
事後の指導改善とは、おそらく多くの先生方がイメージされている通りだと思います。例えば授業での子供の姿が事前のイメージ通りにいかなかったとき、「子供の実態が事前のイメージとは異なっていたので、思ったよりうまく理解が深まらなかったな。だから、次の授業ではそれを踏まえて、こんな形に計画を変えてみよう」というように、評価を基にその後の指導改善を図っていくわけです。
さらに事中の指導改善ということもあるでしょう。それは形成的評価とも重なることですが、精度の高い評価規準が設定されていれば、「ああ、子供の姿が思うようになっていかないので、こんな資料を出してみよう」とか、「こんな個別指導をしてみよう」というように、事前の計画にはない支援などを行うことも考えられます。ただし、これは事前に予想していないような状況が生まれた場合のことです。事中でできることは限られてきますから、やはり、事前や事後に指導の質の向上を図ることのほうが大切だと考えられます。
このように、指導計画と評価計画を一体として設計していく行為が、指導の質を向上させることにつながっていくのです。
指導と評価の一体化を図る手順は?【田村学流 単元づくり・授業づくり#22】はこちらです。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之