心の病を抱えた家族に囲まれたきょうだいの行方は ~スクールソーシャルワーカー日誌 僕は学校の遊撃手 リローデッド⑤~ <後編>

連載
スクールソーシャルワーカー日誌 僕は学校の遊撃手 リローデッド

一般社団法人Center of the Field 代表理事/スクールソーシャルワーカー

野中勝治
スクールソーシャルワーカー日誌
僕は学校の遊撃手
リローデッド

虐待、貧困、毒親、不登校──様々な問題を抱える子供が、今日も学校に通ってきます。スクールソーシャルワーカーとして、福岡県1市4町の小中学校を担当している野中勝治さん。問題を抱える家庭と学校、協力機関をつなぎ、子供にとって最善の方策を模索するエキスパートが見た、“子供たちの現実”を伝えていきます。

Profile
のなか・かつじ。1981年、福岡県生まれ。社会福祉士、精神保健福祉士。高校中退後、大検を経て大学、福岡県立大学大学院へ進学し、臨床心理学、社会福祉学を学ぶ。同県の児童相談所勤務を経て、2008年度からスクールソーシャルワーカーに。現在、同県の1市4町教育委員会から委託を受けている。一般社団法人Center of the Field 代表理事。

一時保護から4年、家に帰ったきょうだい

1年の間に奈津さんと祖母がいなくなり、さらにその1年後に亜紀さんと晴也君がいなくなり、林家には両親ふたりが残されました。

長女の奈津さんはいったん退院したものの、家に戻った途端に両親と大げんかを始め、障害児施設に入所することとなりました。

亜紀さんと晴也君きょうだいが一時保護されてから、両親はふたりを再び取り戻すために、服薬を続けながら、少しずつ生活を改善していきました。

生活保護を受け、ほとんど家から出なかった両親は障害者認定を受け、障害者年金と障害者枠雇用で働きながら、どうにか生計を立てられるようになりました。

両親がふたりの帰宅を強く望んだこと、きょうだいふたりも帰宅したいと話したこと、生活の改善も見られたことから、ふたりは林家に戻ってくることとなりました。一時入所から4年がたち、亜紀さんは中学1年生、晴也君は小学5年生になっていました。

帰宅したふたりは、順調に新しい生活になじんでいましたが、しばらく経つと晴也君が学校を休むようになりました。

小学校から連絡が入り、林家を訪ねると母親が出てきました。

「朝、学校に行く時間に起きてこないけ、しょうがない」と話す母親にどういうことか尋ねると、「学校に行かなくなったんは、施設に入っていたせいに違いない」と怒りはじめました。「晴也が甘えたいときに、一緒にいれてなかったから。親のそばにいたいから、学校に行かなくなったのでは?」とろれつが回らない状態で、「施設に原因がある」と繰り返し話しています。

直接、晴也君に生活のサイクルを尋ねると、晴也君の生活は完全に昼夜逆転していました。

「母ちゃんに買ってもらったスマートフォンでオンラインゲームをしたら、おもしろくてずっとやってる」

「何時までやってるん?」

「深夜とか、明け方までやることもある」

「何時に起きとるん?」

「午後2時くらいに起きて、またゲームのつづきをやってる」

……完全なゲーム依存です。ゲームの課金は母親が支払ってくれるため、晴也君はどっぷりとゲームの世界に浸ってしまったのです。

その後も家庭訪問を続けましたが、晴也君の生活は改善せず、学校を休む状態が続いていました。

夫婦げんかで再び保護される

それから1か月後、状況が急転しました。

朝一番、警察から連絡が入ったのです。

「野中さん、昨日の夜中、林んとこがまた夫婦げんかで包丁振り回して、通報がありました。今ふたりを事情聴取してるけ、きょうだいふたりは身柄付通告で一時保護しています」

私はすぐに警察署に出向きました。

児童相談所の職員とともに状況を聞きながら、再び子供たちを家庭に戻すのは困難だろうという結論に至りました。そして、ふたりの児童養護施設送致の保護処分が決まったのです。

あんなにわが子を取り戻したいと頑張っていたのに、なぜたった1か月で再び通報沙汰を起こしてしまったのか。

子供がいない間は、両親は特に問題もなく穏やかに生活を送ることができていました。ところが、子供たちが帰ってくると、再び慌ただしい生活がスタート。子供を喜ばそうとスマホを与えたら、ゲームにのめり込んで学校を休む。学校からは登校を迫られる(ように感じた)。“子育てのキャパシティ” を超えてしまった両親は、感情が爆発して、包丁を持ち出す罵り合いに発展したのではないでしょうか。

亜紀さんと晴也君は、児童養護施設での新しい生活に少しずつ慣れていきました。スマホを持たなくなった晴也君は規則正しい生活に戻ったようです。

現在の見込みでは、ふたりを林家に帰すことはもうないでしょう。

子供に愛情を持っていても、育てることができない── “子育てのキャパシティ” は、人それぞれです。何に困っているか、どう解決していけばいいか、本人たちが求めない限り、私たちはなかなか介入することができません。サポートの難しさをあらためて痛感しました。

*子供の名前は仮名です。

取材・文/関原美和子 撮影/藤田修平 イラスト/芝野公二

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