『一筆箋』 ~この奥ゆかしきもの~
ある女性の校長先生のいる学校に勤務したことがありました。常に、ちょっとした時に「一筆箋」でメッセージをくださいました。先に帰られる時など、「○○○をしてくださってありがとう。□□で子どもたちの笑顔をたくさん見ることができてよかったです。」と一筆箋に書いて机に置いてくださっていました。とてもうれしくありがたかったです。また、反対に、無機的な紙に「ヨーダくん、校長室へ来室されたし」という召集令状みたいな一筆箋が机に置かれることがあり、授業を終えて令状を見つけよく叱られに校長室へ行ったものです(汗)。いずれにしても自分の糧になりました。人と人とのコミュニケーションの架け橋の一つとなっているのが「一筆箋」です。
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
目次
1 上司、先輩に付箋って?
ある研究会に行ったとき、上司への連絡に付箋紙を使うという話が出ました。
上司には、対面でホウレンソウ(報告・連絡・相談)したり、許可を求めたりするのが基本でしょう。ただ、どうしても上司が捕まらないとき、手早く確実に意思伝達をしておくことは重要です。手書きの伝言を残すと安心ではありますよね。
この話に対し、民間企業出身(おそらくお堅い職種)の教員から、
「あり得ない! 付箋で上司にものを伝えるなんていうのは非礼だろう」
という発言がありました。
それに100%同意するわけではないのですが、確かに伝達手段に、ほんの少しの丁寧さや気持ちを込めることで、コミュニケーションはより円滑になるでしょう。
そこでわたしがおススメしたいのが一筆箋です。上司対応だけでなく、同僚や後輩に対しても、付箋のメモより相手に気持ちを伝えやすいように思いますので、いろいろな学校でのシーンに使えそうです。
2 『一筆箋』とは
ほんの半世紀前までには、手紙あるいは簡単なメモのみが、伝達や連絡の手段でした。しかし、現代社会では、その手段が増えてきました。スマホ、電子メール、LINEなしでは生活できないというような流れがあります。すごい時代になったものです。スローレターからスピードレターへの大きな変化です。 さて、私たち教員が勤務する中で日常的に使うメッセージの手段として、公文書以外では4つくらいあるようです。その特徴を整理してみます。
①手紙(封書)
<特徴> 礼儀を伴った内容を書くとき/ほかの人の目にふれない/複雑な内容でもOK
<留意点>形式重視/フォーマル/とても時間がかかる
(はがきやカードはこれに準じます)
②一筆箋
<特徴> 形式がフリー/気軽さ/用件のみに特化できる/親近感・丁寧さ/誰にでも使える
<留意点>複雑な内容には不向き/やや時間がかかる
③電子メール
<特徴> 複雑な内容に最適/スピーディー/多人数で共有ができる/誰にでも使える
<留意点>相手が既読か確認できない/ややビジネスライク
④付箋紙(メモ用紙)・LINE等ショートメッセージ
<特徴> 用件のみ/最も手軽な連絡手段/最高にスピーディー/既読か未読かわかりやすい
<留意点>極めてビジネスライク/超カジュアル/身近な相手のみ
こうして分類すると、一筆箋の位置づけがよく見えますね。フォーマルとインフォーマルの中間に位置するものです。
一筆箋には、さまざまなスタイルががあります。文房具屋さんや100円ショップでは次のような選択ができます。
●和紙or用紙 ●縦書きor横書き ●無地or罫線 ●カジュアルorフォーマル
●季節感があるものor一年中使えるもの ●カラーorホワイト ●既製品or手づくり
ある程度種類をそろえておくと何かと便利です。相手やシチュエーションに応じて使い分けていきます。
3 一筆箋の文字
わたしは、ひどい悪筆です。大学時代に英文タイプライターを使う機会に恵まれたので、30年ほど前に初めてワープロに出会った時、ブラインドタッチでその日からすぐ使うことができました。悪筆が故に、ワープロ、ワープロソフトは手放せませんでした。できるだけ、機械文字で書いた方が読みやすいし、データとしても残すことができるので、学級通信などを大量生産してきました。
同僚には美しい文字の人が多く、中には
「以前勤務していた学校の校長先生に、『字は人を表します。学級通信や連絡表所見などは手書きで書くべきです』と指導されたので、このことを今も守っています」
という方がいました。すてきなポリシーですが、とてもわたしはまねができないなあと思いました。
しかし、現代の学校では連絡帳の返信以外は、ほぼ手書きが絶滅しています。こういう時代だからこそ、手書きの温かさを感じます。下手でもいい。手書きがほしい…。長い文でなくていい…となると一筆箋が活躍できそうです。
そこで、悪筆の方でもちょっとしたコツで上手に見える方法があります。書写指導のポイントを思い出せばかなり、上手に見えます。
①こまめな改行をする。
②単語が切れるような改行をしない。
③余白を考えて、文字をバランスよく配置する。
④罫線に合わせて書く。
⑤右上がりに書く。
⑥漢字は大きめ、ひらがなは小さめに書く。
⑦画数の多い漢字は大きめ、少ない感じはやや小さめに書く。
⑧筆順を意識し、流れるように書く。
⑨点画、はね、はらいを意識して書く。
⑩筆記具に助けてもらう。万年筆などは美しく見えます!
この10のポイントを意識しているだけで、ちょっと悪筆から抜け出せます。
4 オリジナル一筆箋、そしてお気に入りの筆記具
文具屋さんや100円ショップでさまざまな一筆箋を購入することができます。でも、なかなかぴったりくるものがないという時は、自分でつくってしまいましょう。
わたしが使っているワープロソフトには、一筆箋のテンプレートが所蔵されています。これを使ったり、絵柄を季節に合わせたアイテムに交換してみたりするとか個人利用の範囲では手軽にA4版、B5版のテンプレート(あとで一筆箋サイズにカット)を使うことができます。
このほかネットで、「一筆箋 テンプレート 無料」で検索すると、実にさまざまな楽しい一筆箋を入手することができます。
わたしは、有料ですが、プロのイラストレーターに似顔絵を描いてもらい、一筆箋や手紙に貼り付けて使っています。もらった相手はぎょっとするかもしれませんが、誰が書いた一筆箋かよくわかっていいかと思いますよ。
筆記具ですが、人それぞれで相性があります。実際に試してみないとわからないです。
一筆箋に用いる筆記具は、
①水性ペン
②ボールペン
③筆ペン
④万年筆
です。鉛筆はやめましょう。
わたしは、ある程度太い文字が好きなので、「三菱鉛筆ユニボール シグノ」の太字を使うことが多いです。シグノはさまざまな色を用意しています。それから、先に3のポイントでも示しましたが、万年筆の利用です。常時利用するのであれば、品質のいいものをお奨めしますが、ちょっと一筆箋にしたためるくらいなら、100円ショップや雑誌の付録でついてくるもので十分です。「はらい」や「はね」が美しく見えます。
5 こんなシーンで使ってみよう
学校での一筆箋の利用シーンは意外に多いです。
ご自分もそうだと思いますが、担任は職員室でデスクワークする時間が少なく、ほとんど教室にいるため、すれ違いも多いと思います。
手書きのメッセージであれば、机上に置いておくと、読んでくれたか、処理してくれたかどうか、見ればすぐわかります。
一筆箋をこんな時利用してみてはどうでしょうか。たった3行、30秒で書ける文例も示してみます。(*は、補足解説です)
【急な打ち合わせ】
お忙しいところ恐縮です。
急な生徒指導案件で、会議をします。
16時20分より会議室で。
*「やれやれ」感が減少します。
【指導案を見て返すとき】
努力のあとが見えます。
いい授業になりそうです!
ちょっとしたアドバイスを入れておきました。
お疲れ様です。
*一筆箋を指導案にクリップでとめておきます。
【参考書を貸すとき】
いい本です。
あなたの課題にぴったりです。
読んでみてください。
*押しつけにならないように配慮します。
【借りた参考書を返すとき】
すてきな本を紹介いただき感謝です。
はっとしました。
いずれまた感想などをお話しさせてください。
とり急ぎ御礼まで
*「とり急ぎ」シリーズは便利です!
【おみやげのお菓子を配るとき】
ちょっと出かけてきました。
お口に合うかわかりませんが少しばかりです。
コーヒータイムにどうぞ。
*話題がひろがります!
【依頼された資料送付】
ご依頼の資料をお送りいたします。
○○先生のご期待に添えるかどうか。
暑くなります。ご自愛ください。
*ちょっとスペースがある時は、相手への気遣いを入れるといいです。
【授業を公開した授業者へ】(ねぎらいの缶コーヒーに添えて)
準備万端のいい授業でした。
校長先生もほめていましたよ。
お疲れ様です。
まずはコーヒーでほっとひと息を。
*自分以外の人を登場させ、「間接ほめ」のスキルを入れます。
【お茶会の知らせ】(学年主任より)
学年の課題についておしゃべりしましょう。
お好きなドリンクと子どもたちをよく育てようという気持ち持参で。
退勤15分前 職員室サロンにて。
*ちょっとしたユーモアを入れてみます。
【指導案を指導主事に送付するとき】(公的な依頼文書とは別に)
今回学習カードとシンキングツールを工夫してみました。
この点を特にご指導くださいますようお願い申し上げます。
ご訪問をお待ちしております。
*ある程度既知の指導主事に対してです。初対面ではNG。
【上司がつかまらない! 体調不良のとき…】
朝から体調が悪く早退させてください。
病院に行って参ります。
教室のことについては教務主任にお願いいたしました。
あとで電話連絡をいたします。
*あくまで緊急性のある場合です。付箋紙はNG。
いかがでしょうか。
◆
一筆箋は、付箋と手紙の間に位置づくフレキシブルなものです。どんなシーンで使えるか事例のほかにもいろいろありそうです。どのシーンで使えるか考えてみるのもおもしろいです。まずは、一筆箋の準備ですね。とりあえず、何かのついでに100円ショップを覗いてみてはどうでしょう?
ところで、小学校の書写の教科書には、手紙やはがき、メモの書き方は出てきますが、『一筆箋』や『付箋紙』の書き方は出てきません。学校によっては、作品交流として児童が書いた作品に、はがすことのできる付箋紙メッセージを貼らせて感想交流をするという取り組みをしているところもあります。今後、このような形でのメッセージ交流は各学校でさまざまなシュチュエーションでどんどん取り入れていってほしいと思います。そして、心の温度を文字にするためにはどういう書き方をすればいいかという書写指導もあってもいいのではないかと思うこの頃です。
(参考図書)井上明美『一筆箋、はがき、短い手紙の書き方』(主婦と生活社・2008)/亀井ゆかり『大人の美しい一筆箋活用術』(東京書店・2014)/臼井由妃『たった3行!心を添える一筆せん。』(現代書林・2018)
こんな問題を抱えているよ、こんな悩みがあるよ、と言う方のメッセージをお待ちしています!
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山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、さまざまな分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、さまざまな資格にも挑戦しているところです。