現行学習指導要領の「三つの資質・能力」とは?③【田村学流 単元づくり・授業づくり#10】
この企画では、元文部科学省視学官であり、現行学習指導要領の策定にも尽力された、國學院大學・田村学教授に、「単元づくり・授業づくり」をテーマとした連載をしていただきます。
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目次
「学びに向かう力、人間性等」とは、どのような資質・能力?
前回までに、「知識及び技能」は事実に関する知識が関係付けられ、構造化された資質・能力であること、「思考力、判断力、表現力等」は方法に関する知識が事実に関する知識(構造化された知識も含む)とつながってハイブリッド化した資質・能力であることなどを説明してきました。そこで今回は「学びに向かう力、人間性等」について、具体例も加えながら分かりやすく説明していきたいと思います。
構造化され概念化された知識が、非認知系の知識とつながることと定義
「学びに向かう力、人間性等」も、前回説明をした「思考力、判断力、表現力等」と同様に、「知識及び技能」が構造化されたものと捉えることができます。よりよい生活や社会の創造に向けて、自他を尊重すること、自ら取り組んだり異なる他者と力を合わせたりすること、社会に寄与し貢献することなどの適正かつ望ましい方向に向け、「知識及び技能」が活用できるようになることこそが、「学びに向かう力、人間性等」と言えるのです。
私は以前の著書(『深い学び』)では、「学びに向かう力、人間性等」については、知識が「目的や価値、手応え」とつながって、構造化されたものだと説明をしていました。しかし、子供たちの学びの様子をさらに詳細に見て分析していくことで、現在では構造化され概念化された知識が態度に結び付く非認知系の知識とつながり、神経回路のようになる(ニューラル化する)ことだと定義しています。
ちなみに非認知系の知識とは、認知系の知識とは異なり、数値化したり測定したりしにくい知識を幅広く指す言葉です。非認知系の知識というのは、OECDの「社会情動的スキル」をイメージすると分かりやすいと思います。「社会情動的スキル」は、「目標を達成する力」「他者と協働する力」「情動を制御する力」とされています。
総合的な学習の時間において、ヒアリを調査
具体的な事例を見て考えていくことにしましょう。ヒアリの問題が出たとき、ある学校では総合的な学習の時間に、子供たちが自ら専門家の指導を受けたうえで、学区内にヒアリがいないかどうかを調査しました。全員で手分けして調査を行い、各グループの調査をまとめて、学校内には見付からなかったという調査結果を発表します。
そこで子供たちは「再調査が必要だ」と言い出しました。先生が理由を問うと、最初の子は「大発見になるから」と、子供たちの間に少なからず功名心があったことを口にします。しかし、意見を出し合って対話をしていくうちに、「調査が完璧ではない」「学区域全部を調査したわけではない」ことや、「いないと言えることが大事」といった意見が出てきます。
やがて「いないってことが、『地域が安全で安心』ってことだと思うんだ。だから再調査をすべきだよ」という意見が出てきます。さらに「いないことをはっきりさせることが、『地域を守る』ってことなんじゃないかな。やっぱり再調査が必要だよ」という意見が出てきました。
こうして、子供たちは調査の必要性を議論する過程で、自分たちの学びの意味について友達と意見を交流しながら再吟味し、「みんなのことを大切にする」「地域のことを大事にする」とする非認知系の知識、すなわち社会的な価値と結び付けていくことで、より明確な目的意識をもち、自ら学びを進めていったのです。
このように、非認知系の知識と構造化され概念化された知識とが結び付くことで、「学びに向かう力、人間性等」として態度化するのだと思います。
なお知識が構造化する際、「なるほど」「そうか」といったポジティブな感情と結び付くことで、新たな場面や状況で活用しやすかったり、活用したくなったりする知識の構造として身に付くのだと考えられます。
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さて、ここまで三つの資質・能力について説明をしてきました。そこで、次回以降はこのような資質・能力を評価することの意味や具体的な方法について、説明をしていきたいと思います。
先生に求められる「学習評価」とは?【田村学流 単元づくり・授業づくり#11】はこちらです。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之