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〈学校環境整備〉特別支援学校と普通校の校舎合築で子ども・教師の心が育つ

2019/8/9

新潟県最西端、日本海に面し、フォッサマグナやひすいの産地として知られる糸魚川市。市の中心駅である糸魚川駅前に建つ 新潟県糸魚川市立糸魚川小学校と 糸魚川市立ひすいの里総合学校は、小学校と特別支援学校の合築で、設計から約6年をかけ、2014年5月に完成しました。糸魚川小学校の山本修校長とひすいの里総合学校の長谷川和彦教頭に、建設にあたっての工夫や実態、活用の事例などについて話を聞きました。

写真左から、ひすいの里総合学校・長谷川和彦教頭と糸魚川小学校・山本修校長

築50年超の旧校舎建て替えで、二校を合築

糸魚川小学校は、1872年の学制発布とともに開校し、市内14校ある小学校の中で最も児童数が多い学校です。ことばの教室や発達障害通級指導教室も併設し、地域の拠点校としての役割も担っています。

一方、ひすいの里総合学校は、糸魚川小学校の空き教室6室を利用して、2005年に新潟県立高田特別支援学校ひすいの里分校として開校。新校舎建設に合わせ、住民の希望や市長の判断により、2013年に小中学部が新潟県から糸魚川市に移管され、現在の校名になりました。

当時、両校が使っていた校舎は、築50年を超え、かなり老朽化していました。

「2007年の新潟県中越沖地震などをきっかけに、耐震化されていない旧校舎は建て替えが必要な状態になっていました。トイレも全て和式で、清掃はしていても悪臭が残ったり、教室は暖房のみで冷房はなく、限界にきていました」(山本校長)

2009年8月、糸魚川小学校改築地元検討委員会や改築庁内委員会などが設置され、10月に公募型プロポーザルにより設計チームが確定し、改築に向けた動きがスタートしました。

PTA、地域住民らも校舎づくりの会議に参加

設計に入る前に、監修の長澤悟東洋大学教授(現名誉教授/IEE教育環境研究所所長)を中心に、糸魚川市職員、PTA、学校職員、近隣住民、設計チームら48名で「どんな学校を作るか」というワークショップを開きました。

「子どもたちや教職員だけでなく、地域の方々の声も聞きたかったため、このような機会をつくりました。さまざまな方が参加したことで、それぞれに自分たちの学校だという意識が育ったのではないでしょうか」(山本校長)

「みんなに愛される学校」など5つのコンセプト

4回のワークショップなどを通じて作られた5つのコンセプトは、下記の通りです。

1.多様な児童が共に育つ学校
2.大きな中庭を持つ学校
3.明日も行きたくなる学校
4.地域と一緒に育まれる学校
5.オンリーワン、みんなに愛される学校

バリアフリーになっていることはもちろん、校内各所には、これらのコンセプトが息づいています。主なものを紹介しましょう。

前庭、玄関

前庭とレンガが張られた校舎。
校舎に用いられているオランダ製レンガの裏側には、子どもたちがメッセージを書き入れた。
前庭とレンガが張られた校舎。
校舎に用いられているオランダ製レンガの裏側には、子どもたちがメッセージを書き入れた。

長寿命の学校を目指し、「外断熱中空レンガ積工法」を採用。赤レンガを使ったのは、旧糸魚川駅にあった赤レンガ車庫(北陸新幹線建設のため解体)が、この地域のシンボル的存在であり、「レンガの学校」にしたいという声が多かったためです。実際、レンガは耐久性が高く、メンテナンスも不要で、時間の経過とともに味わいある風合いに変わるといった利点があります。本校では、オランダ製の特注品を使用しました。3連アーチの昇降口は、往年の車庫をイメージしています。ひすいの里総合学校専用の玄関もありますが、両校の子どもたちが一緒に利用し、自然な形で交流しやすい環境になっています。

ちなみにレンガの裏面には、当時の子どもたちにより、名前や思いなどが書かれています。壁の一部になっているので、裏面を見ることができるのは、解体するとき(目標は100年以上先)で、彼らの子や孫の世代となるでしょうが、これを語り継いでいくことで、地域に愛されるシンボルとなっていくことも期待されています。

糸魚川小学校、ひすいの里総合学校両校の児童が使う昇降口。
糸魚川小学校、ひすいの里総合学校両校の児童が使う昇降口。

教室周り

オープンスペースと教室の間には、ロッカーがつくられ、独立性も確保している。
オープンスペースと教室の間には、ロッカーがつくられ、独立性も確保している。

普通教室は、オープンスタイルの配置ですが、廊下と各教室の間にロッカースペースを設けることで、学級ごとの独立性を確保し、授業の声などが回り込まないよう工夫されています。オープンスペースの部分は、学年集会もできる広さがあります。低学年の教室には、教室ごとに4畳半ほどの小上がりのようなスペースもあり、休み時間などは、ちょっとした憩いの場になっています。

総合学校の教室は、壁とドアで仕切られたタイプの教室が中心ですが、大きなガラス戸を使っており閉鎖的な雰囲気はありません。こちらも教室前には、オープンスペースが設けられ、さまざまな交流活動や授業に活用されています。

図書館

両校の児童が共通で利用できる図書館は、開放感があり明るい雰囲気だ。
両校の児童が共通で利用できる図書館は、開放感があり明るい雰囲気だ。

どの学年でも利用しやすい位置に配置。内部も天井を高くし、開放感ある居心地のよい空間になっています。一人で壁に向かって静かに、あるいは、階段をベンチ代わりにして、テーブルでみんなで話し合いをしながら、または畳でくつろぎながら、さまざまなスタイルで読書ができます。

書棚もオレンジの明るいものを使ったり、筒状のユニークな形をしていて、楽しく本に親しんでほしいという思いが込められています。こうした工夫が功を奏し、利用者、貸出数ともに増えているということです。

階段をベンチがわりにして
階段をベンチがわりにして。

トイレ

「行きたくなるトイレ」になった高学年のトイレ。
「行きたくなるトイレ」になった高学年のトイレ。

全て洋式にし、明るいきれいな場所になっています。発達を考え、それぞれの段階に合わせた高さやサイズのものを採用するとともに、清掃などにも配慮し、壁掛け型タイプを多用。高学年用の小便器は、個別に色を変え、それぞれに小窓を設置するなど、おしゃれな空間になっています。手洗い場は、トイレ内外に配置し、混雑時間帯の集中を緩和させるとともに、会話も楽しめるようなアイランドタイプのものもつくられました。

総合学校のトイレには、扉の開閉でけがをしないようにカバーを付けた個室もあります。

総合学校の安全性に配慮したトイレ。
総合学校の安全性に配慮したトイレ。

中庭、その他

きれいに整備された中庭は、子どもに人気の遊び場のひとつだ。
きれいに整備された中庭は、子どもに人気の遊び場のひとつだ。

内装は越後杉など、極力地元の木材を使用し、温もりのある雰囲気になっています。教室のレイアウトは、普通学級、特別支援教室、総合学校の子どもたちが交流しやすいよう、「お互いにつかず離れずの関係」を意識したそうです。休み時間には子どもたちの格好の遊び場となっている芝生の中庭は、多目的ホールや大階段などと組み合わせることで、コンサートなどのイベントにも使えます。

その他、プールには70㎝の浅いエリアを設け、低学年や水が苦手な児童にも対応できるようにしていたり、床暖房対応の体育館など、細部まで考えてつくられています。働き方改革も意識した教職員用の休憩室にはソファが置かれており、好評です。

水深70 ㎝(手前)と90 ㎝(奥)に分かれたプール。
水深70 ㎝(手前)と90 ㎝(奥)に分かれたプール。

両校の交流が増え、子どもたちに思いやりの心が育つ

新校舎が完成し、教職員間の交流もしやすくなりました。毎年4月の面識会のほか、お互いの児童理解を促すため、定期的に会合を行い、障害のある子に対する教職員の理解は深まっています。

また、地域との関係にも変化が生まれました。2016年には、両校合同のコミュニティ・スクールが開校。障害をテーマにした講座も行われ、保護者や地域の人にも、障害やインクルーシブ教育に対する理解が深まってきているのを感じるといいます。実際、昨年は、マンツーマン対応が必要な総合学校の水泳の授業で、地域の人がサポートに入り、潤滑な授業運営ができました。

逆に、学校側が提供する地域貢献として、現在、平日夜と週末に校庭と体育館を市民に開放しています。今後は、防犯面などの問題を解決し、市民にもっと使ってもらえるようなシステムにしていきたいといいます。

ただ、最も変わったのは子どもたちです。児童会では「校舎内では歩こう」「壁を傷付けたり、落書きしたりするのはやめよう」など、6項目からなる「100年使う!! 糸小のきまり」を作りました。

「糸小のきまりもそうですが、新校舎ができて、校舎や物を大切にしようという意識が強くなってきた気がします。分校時代から交流授業や合同の学校行事などを一緒に行い、私たちにとって、インクルーシブ教育は当たり前になっていましたが、それがさらに強くなり、子どもたちの心が育ってきたことを感じます。今後も総合学校とさらなる交流を進めていきたいと思っています。交流授業や学校行事も大事ですが、休み時間に一緒に遊んだり、声をかけあったりと、何気ない交流がもっともっと自然に出てくるような環境づくりを推進していきたいですね」(山本校長)

「私も山本校長と同意見です。総合学校の児童は、普段100mを走る機会がないのですが、運動会では糸小の子どもたちの姿や応援に刺激され、完走する姿が見られました。新校舎が完成し、意図的な交流活動も少しずつ増えていますが、こうした活動は、社会性を育む上で大事なものになっています」(長谷川教頭)

両校の思いは一致しています。今後、この校舎でどのような交流が生まれ、それによって子どもたちがどのように成長していくか、楽しみです。

取材・文/安部晃司

『総合教育技術』2019年8月号より

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