ギフテッドのコミュニティに行ってみた【ギフ寺始動の秘密③】
前回は、ギフ寺の「住職」こと、ギフテッド・LD発達援助センター主宰の小泉雅彦先生が「ギフテッドと関わる中で、そこに寺子屋(コミュニティ)をつくる意味を感じた」というところまでお話を伺いました。今回は、筆者がギフ寺に訪れた時の話です。
活動拠点は、コミュニティカフェ
ギフ寺の活動拠点は、札幌にある「NPO法人はる」が運営しているコミュニティカフェです。在籍人数は10人前後(2022年5月現在)、異年齢集団の良さを考慮して、学年などでグループ分けはしていません。
ギフ寺を訪問すると、飛び跳ねるように子どもたちが玄関まで迎えにきてくれました。臆することは一切なく、自作の名刺を手にして挨拶をしてくれる高学年の男の子。低学年の女の子は「私は、〇〇と言うの」と、嬉しそうに名前を教えてくれました。
事前に、「知能が高く繊細なギフテッドは、『自分は“ふつう”じゃない』と、異質感を訴えて、学校に行けなくなる子も多い」と聞いていたこともあり、筆者は、「ギフテッドは、静かで大人しい子どもたち」といったイメージを漠然と持っていました。
ですから、「え!? この子たちが、不登校? どういうこと!?」と、面食らってしまいました。生き生きと元気な子どもばかりだからです。早速、子どもたちに質問してみました。
― ギフ寺って、どんなところ?
自由な場所!
大好き!
毎日、ギフ寺があったらいいのに!
唯一の癒しの場!
子どもたちからは、「ギフ寺のことを、自分の言葉で語りたい!」という明るいエネルギーが伝わってきます。ギフ寺が、子どもたちにとって居心地の良い場所であることは間違いがなさそうです。
目次
2倍速の会話テンポで話す子どもたち
当日は、筆者という「突然の来訪者」に対して、おもてなしのメニューを事前に相談してくれていたそうです。私が到着すると、すぐさま、おいしそうなクレープができあがりました。自分たちで物事を考える企画力、それを行動に移す実行力もありそうです。
私が強く印象に残ったのは、子どもたち同士の会話のテンポです。音声データを2倍速にして聞く感じとでもいいましょうか。一人の子が発言したことに対して、別の子どもたちの返事が、的確で、しかも早い! 会話のテンポの速さについていけない私は、目を白黒して、茫然と立ち尽くすしかありませんでした。
― いつも、こんな感じなのでしょうか?
小泉先生:そうですね。ギフテッドは、IQ130がひとつの目安とされていますが、平均をIQ100とするなら、IQの値が30違うわけです。
仮に、「IQの値が30違う」という意味で、「IQ70の場合」を考えてみると、支援が必要なのは理解しやすいと思います。
同じように、IQ130というのは平均からIQの値が30違うのですから、やはり一斉指導とは別の教育ニーズがあると考えた方が自然だと思うのです。
社会性は周囲が押し付けるものではない
ー ギフテッドの「一斉指導とは別の教育ニーズ」とは、どんなことがあるのでしょうか?
小泉先生:自分たちが通う学校の中だけだと、今みたいな感じで会話が成立する友達を見つけることが、一苦労なのかもしれません。ギフ寺の小学生の子供たちからは、こんな声をききます。
学校と違って、話が通じる。
自分と似ているみたいだから、気兼ねなく関われる。
OBの高校生からは、こんな声も聞きます。
自分の小さい頃を見ているようだ。
小泉先生:「ギフテッドをサポートするには」と大上段に構えずに、自分たちが通う学校で、彼らが独りで抱えざるをえない孤立感、孤独感をイメージしてみるだけでも全然違うと思います。
― クレープ作りの際のチームワークにも驚きました。
小泉先生:最初の頃は一人ひとりがバラバラでしたが、いつの間にか協働作業にも取り組めるようになってきました。
社会性というのは、周囲が押し付けるのではなく、子どもたち自身が安心できる仲間がいる場で身につけていくものだというのを実感しています。
― 小学生と中学生が、仲良しですね。
小泉先生:小学生が、中学生には丁寧に話しかける場面が見られます。親や私に対してはため口の多い子どもたちなのに…。子どもたちにとっては、自分よりものを知っていると感じられるBBS(Big Brothers and Sisters Movement)、いわば兄や姉のような存在なのでしょう。
最初は「才能を開花させなければ」と気負いがあったが…
― ギフ寺では、子どもたちがリラックスをしているのを感じます。
小泉先生:ギフ寺のスペースは、「源泉かけ流し温泉」という表現を使っています。私の役割は、足すことも引くこともなく適切な温度を維持する湯守です。子どもたちは、のんびり効能あらたかな温泉に浸かりながらリフレッシュして帰っていきます。
― 湯守‥。随分と肩の力が抜けた感じです。
小泉先生:私自身、ギフ寺のスタート時は、どこかで、「この子たちの才能を開花させなければ」という気負いがありました。「何とか学習してほしい」というオーラを発していたとも思うんです。けれども、ある時、「才能」にこだわることで、子どもの本来の姿が見えなくなっていたかもと、気がつきました。
― 子ども本来の姿…。
小泉先生:ギフテッドは、自分たちが通う学校の中だけだと理解者が少なく、先生や子ども集団の中で疲弊をしてしまう子も多いんです。ここは学校ではないし、何かを押し付ける場でもないかなと思うようになりました。
ギフ寺を運営していくうちに、「わかりあえる友達がいる『居場所』が、子供たちの成長にとって大事なこと」と思えるようになりました。
小泉先生:中学生の一人が、「学校に行っている間は、勉強はやらされるものだと思っていた」と語っていました。彼らは、自分で目的を見つけ「学びたい」と思ったら、自分から学び始める子どもたちです。なぜなら、それがギフテッドの特性だからです。
ギフ寺では、彼らが、いつか新たな居場所を見つけるまでの「トランジッション・コミュニティ」としての役割が続くのかなと思っています。
「ギフテッドコミュニティ『ギフ寺』始動の話」全3回は、これで終わりです。
本シリーズの冒頭で、「ギフ寺では、傘を差し出されるのではなく、『自分で傘を買いに行こう!』と思える勇気をもらった」とギフテッド当事者の声を紹介しました。この言葉は、気負いがちな大人には、かなり耳が痛い言葉でもありました。けれども、小泉先生にも最初は「気負い」があったと伺って、ホッとするとともに親近感を感じました。
小泉雅彦(こいずみまさひこ)
ギフテッド・LD発達援助センター主宰。ギフ寺住職。北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程単位修得退学。専門は特別支援教育、認知心理学。
楢戸ひかる(ならとひかる)
ライター。息子の通級をきっかけに、「少数派の子どもたち」を軸に記事を執筆。令和の主婦像を考えるサイト「主婦er」運営中。