少女が手紙で訴える「死にたい」の裏側には<後編>~スクールソーシャルワーカー日誌 僕は学校の遊撃手 リローデッド②~
虐待、貧困、毒親、不登校――様々な問題を抱える子供が、今日も学校に通ってきます。スクールソーシャルワーカーとして、福岡県1市4町の小中学校を担当している野中勝治さん。問題を抱える家庭と学校、協力機関をつなぎ、子供にとって最善の方策を模索するエキスパートが見た、“子供たちの現実”を伝えていきます。
Profile
のなか・かつじ。1981年、福岡県生まれ。社会福祉士、精神保健福祉士。高校中退後、大検を経て大学、福岡県立大学大学院へ進学し、臨床心理学、社会福祉学を学ぶ。同県の児童相談所勤務を経て、2008年度からスクールソーシャルワーカーに。現在、同県の1市4町教育委員会から委託を受けている。一般社団法人Center of the Field 代表理事。
女子中学生にリストカットの痕が
私がスクールソーシャルワーカーになった2008年の年度末に、「リストカットをしている女子生徒がいる」とB中学校から連絡が入りました。
中学2年生の琴美さんは、父親とふたり暮らし。小学5年生の頃から不登校気味で、小学校から申し送りを受けていました。中学校の先生方も気に留め、学校を休むたびに家庭訪問をしていましたが、父親はすでに出勤した後で、チャイムを鳴らしても応答なし。ようやく父親と連絡を取れても、「仕事が忙しくて、ここ何日か顔を見ていないんです」と他人事のような返事ばかりでした。
4年生のときに両親が離婚し、母親が家を出て行ってからは、夜遅くに父親が帰宅するまで、琴美さんはたったひとりで過ごしていました。中学生になると繁華街をうろつくようになり、夜遅くまで遊ぶように。繁華街で知り合った仲間とつるみ、家に帰らない日も増えていきました。
たまに登校しても、机に突っ伏して寝ているだけで、全く授業を聞いていない。そもそも小学生の頃から不登校気味だったので、とうに授業にはついていけません。
担任の先生が話を聞くと、「昨日はクラブにいた」「最近、彼氏ができた」「ドラッグみたいなのをもらった」とほのめかす。あたかも教師を試すような話しっぷりは、“気にかけてほしい” という気持ちの表れだったのかもしれません。
担任の先生は、「今は進路を決める大切な時期だから、学校に来てほしい」と話すと、琴美さんはうなずきました。父親にも連絡したものの、「思春期の娘にどう向き合えばいいかわからない」とあきらめたような返事しかありませんでした。
そして、琴美さんは再び学校に来なくなりました。
未婚のままシングルマザーに
高校入試が終わり、3年生の大半の進路が決まった3月、琴美さんが久しぶりに登校してきました。担任の先生が、琴美さんのいくつものリストカットの痕に気づきました。
「以前話していた彼氏と一緒に住んでいたけど、妊娠したら連絡が取れなくなったので中絶した。なんかもう生きているのがいやになった」
琴美さんの話を聞き、深刻さに気づいた学校から私に連絡が入りました。相談するまでに時間がかかったのは、スクールソーシャルワーカーが配置されたばかりの当時、まだ学校現場に役割が浸透していなかったことも大きな要因だったと思います。
彼氏と別れた後、一度は家に戻ったものの、再び誰かの家を転々としているという琴美さんは、「学校より街のみんなといる方が楽しい」と言います。彼女の居場所は、学校ではなく街にありました。結局、かかわる時間をほとんど持てないまま、琴美さんは卒業。家を出てすぐ、未婚のままシングルマザーになりました。不登校気味になった小学校の頃からずっと継続してかかわっていたら、彼女のその後の進路につなげることができたのではないかと大きな悔いが残りました。
長いスパンで見据えることが大切
親と愛情を深めることができなかった子供の多くは、自尊心が低くなります。小さなマイナスが少しずつ積み重なっていけば、やがて大きなマイナスになります。そういう子供は、親に変わって自分を認めてくれる人を外に求めるようになります。それがどんな相手であれ、自分を認めてくれる人が絶対的な存在になります。その結果、利用されて非行に走ったり、性被害に遭うことも少なくありません。
「目の前の子供をなんとかしなければ」と担任が思うのは当然です。しかし、琴美さんのようなケースの場合、一担任が解決できる問題ではありません。自分が受け持った1年間だけでなく、幼稚園・保育所、小学校、中学校、さらにはその後の進路を見据えて、できるだけ早くから、そしてもっと長いスパンでかかわっていかなければならないのです。それぞれが個々にかかわるだけではなく、1本につなげて対応することが大切であり、スクールソーシャルワーカーこそが、それら関係機関をつなげる役割を担っていると私は考えています。
*子供の名前は仮名です。
取材・文/関原美和子 撮影/藤田修平 イラスト/芝野公二