「単元や授業」の学習を通して育む、資質・能力とはどのようなもの?【田村学流 単元づくり・授業づくり#3】

連載
田村学流「単元づくり・授業づくり」

國學院大學人間開発学部教授

田村学
タイトル 田村学流「単元づくり・授業づくり」No.3

この企画では、元文部科学省視学官であり、現行学習指導要領の策定にも尽力された、國學院大學・田村学教授に、「単元づくり・授業づくり」をテーマとした連載をしていただきます。

今回の学習指導要領改訂では、実際の社会の中で活用できるような力を、子供たちに育んでいくということが大目標

前回まで、学校教育の意味や学校の存在意義についてお話をしていただきました。3回目となる今回からは、「単元や授業」のデザインを考えるうえで、どうしても理解しておかなければならない、「単元や授業」の学習を通して育む資質・能力とは何かについてお話をしていただきます。

今回の学習指導要領の改訂にあたっては、中央教育審議会への諮問を行われた下村博文文部科学大臣(当時)が、「明治維新以来の大改革」と言われました。それは、これまでの授業のように、知識(とりわけ事実に関する知識)を先生から教えられて習得し、暗記しておけばよいというような、受け身の授業から、子供たちが自ら学ぶような学習に変えていこうということです。

そのような授業を通してめざすことは何かと言えば、第一回でもお話をしたように、実際の社会で使えるような知識や思考力等の資質・能力を育んでいこうということでした。

残念ながら、過去の教育における知識は、一生懸命覚えて暗記し、入学試験のときには役立ったかもしれないけれども、終われば使わないとか、学校のテストの前に一夜漬けで暗記したけれども、終わったら忘れてしまったというようなものだと言われました。実際に、誰しもそんな経験があるのではないかと思います。

そうではなく、学校で学んで獲得したことが、実際の社会で活用できたほうがよいでしょう。あるいは日々の暮らしの中で、身の回りの多様な問題解決に役立つからこそ学ぶ意味があるというのは、誰しも異論のないところではないでしょうか。

現在の、コロナ禍のような解決できない問題に直面したときにも、学校で学んだことや多様な知識を活用・発揮できるかどうかが問われているわけです。しかも、現在のようにICT環境が整備され、AIが発達することで、過去の事実に関する知識がスマートフォンなどの身近な情報端末で、常に飛び込んでくるようになってきました。そのためなおさら、過去における事実に関する知識を、安定的に暗記しておくことの意味や価値が下がってきていると思います。

さらに言えば、知識が常に更新され、短期間に陳腐化していくような時代であることを考えると、必死になって一個一個の知識を暗記しておくことの価値は、圧倒的に低くなってきていると言えるでしょう。むしろ、実際の問題を解決する場面で、いかに知識が活用・発揮できるか、使いこなせるか、が問われているということは自明の状態と言えます。

そんな中で、今回の改訂では、育成をめざす資質・能力として、実際の社会の中で活用できるような力を、子供たちに育んでいこうという大目標が立ったわけです。

このことは、過去における日本の教育のあり方や、日本の子どもたちの実態ともリンクしていたと思います。これまで日本の先生は、習得型の授業が上手だったのでしょう。だからこそ、知識の獲得はうまくできたけれども、残念ながら思考力問題のようなものは苦手だということが言われていました。その象徴が、初期のPISA調査における読解力問題の結果だったと思います。そう考えると、現状もほぼそれに近い状態なのだと言えるのではないでしょうか。

しかし、社会が大きく変化してきていますし、当然、学校で学んだことが実社会で使えたほうがよいのは間違いありません。そこで、実社会で活用できる資質・能力を育てようということになったのです。

この資質・能力というものを、今回の学習指導要領では、「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力、人間性等」という三つの柱で整理し、すべての教科の目標もすべての教科の内容も、この三つの柱で整理をしています。

学習指導要領解説【総則編】より抜粋

さらに言えば、全ての教科の評価の観点も、この三つの柱で整理をしているわけです。その意味において、今回の学習指導要領は、大きなめざすべき方向に向けて、かなり構造的で体系的なものになったと言えるでしょう。

ですから、大きなめざすべき資質・能力の育成に向けて、重要な授業改善をしていかなければならないということです。

「知識及び技能」は一個一個バラバラなものではなく、関連付いて構造化されたものを獲得しておく

こう説明してくると、「では、一個一個の事実に関する知識はもう習得する必要はなくなったの?」と疑問をもたれるかもしれません。しかし、知識の習得が必要でなくなったわけではないし、これまでの習得型の授業を否定するつもりもありません。ただし、個々の知識がバラバラの状態ではなく、それがつながってネットワーク化され、概念と呼ばれるような知識になると、もっと汎用性が高まったり、多様な場面で活用・発揮できたりするようになるのだと思います。

そう捉えていくと、「知識及び技能」は一個一個バラバラなものではなく、関連付いて構造化されたものを獲得しておいたほうがよいでしょう。「思考力・判断力・表現力等」は、多様な場面でも自由自在に使えるように、複数が関連付いて様々な場面とつながったものであるほうがよいでしょう。さらに、「学びに向かう力・人間性等」は、適切で適正な態度ということになりますから、よりよい目的や価値と結び付いているほうが望ましいということになると思います。

例えば、悪い例ではありますが、オウム真理教のテロ行為が行われたとき、実際に罪を犯した信者に高学歴の者が多いことが話題になりました。彼らが得ていた「知識・技能」は、適切で適正な発揮のされ方をしていなかったということになります。

このように、三つの資質・能力は、知識がバラバラのものではなく、構造化されている状態だと考えていくと、イメージが湧いてくるのではないかと思いますし、授業改善の方向性も見えてくるのではないかと思います。

加えて、知識が構造化されるためには、一個一個の知識自体も重要なのだということが分かるだろうと思います。それは、ブロックのおもちゃで街を作るようにイメージすればよいかと思います。ブロックで街を作るには当然、一個一個のブロックは欠かせない存在なわけですが、それをただ持っているだけでは意味がありません。それらをいかにうまく積み上げたり、組み合わせたりしながら街を構成していくことが大切なのです。そんなイメージで資質・能力をイメージすることが必要で、最終的には実際の社会で活用できるような力を身に付けていくということです。

これまでは、紋切り型と言われる個別の知識をたくさんもっていれば、それが活用できると思われていたわけです。実際に、社会の変革が緩やかな時代であり、加えて現代のようなICTのない時代には、そのような個別の知識をたくさんもっている人が重宝がられました。ただし個別の知識は、それを獲得したときと同様の、限定的な場面でしか使うことができなかったのです。だからこそ、多様な場面で活用できるような、多様に関連付いている知識(三つの資質・能力)を身に付けることが求められているのです。

次号では、資質・能力を育むためにはどのようにすればよいか、説明をしていきたいと思います。

資質・能力を育むための「単元や授業」は何を大事にすればよい?【田村学流 単元づくり・授業づくり#4】はこちらです。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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