困った!実験で思い通りの結果が出ないときどうしたらいい?【理科の壺〜理科担任のはじめ方】
理科の指導が苦手とされる理由の1つに「実験が失敗したらどうしよう」という不安です。理科の場合、担当する学年が変われば学習内容も変わるため、授業前によく調べておかないといけないところも負担感が大きいところでもあります。結果が思い通りに出なかったらどうします? 先生は、子どもと一緒に考えればいいのです! 優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような“ツボ”が見られるでしょうか?
執筆/東京都公立小学校主任教諭・伊藤知子
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
目次
1 ひと班だけ結果が違う!
グループ実験の結果が、あるグループだけ違っていることがあります。それは、実験の方法を間違っていたり、結果の見方が違っていたりするためのことが多いです。そんなときは、全グループの結果を表などにまとめて提示して確認させ、子どもたちに検討させましょう。「あれ、うちの班だけ違うよ。そういえばあのとき…。」と気付くことがあるかもしれません。
5年の「ものの溶け方」の実験で、水の量を間違えてミョウバンを溶かしていたことがありました。本人たちは、実験中は間違いに気付きません。他の班の結果を見て、ビーカーを見比べて、「もしかしたら…。」と思ったようでした。
可能であれば、再実験をさせましょう。手順を確認してから再実験をさせることで、自分たちの間違いや勘違いに気付いたり、正しく結果を見たりできるかもしれません。
2 結果がばらばら!
ばらつき、誤差があるために、実験結果がばらばらになってしまうことがあります。例えば、振り子の周期を調べる実験や電磁石の鉄を引き付ける力の強さを調べる実験、コンデンサーをつないだ豆電球の点灯時間を調べる実験などです。このような活動は、実験前に「とりあえずやってみよう」という試行の時間を設け、「同じようにやっているのに、結果がばらばらだね。正確な結果を出すためにはどうしたらいいかな。」と子どもたちに問いかけ、実験方法を再度検討する活動を入れましょう。
振り子の実験ならば、1台の振り子を「何人もの子どもたちに」「1往復だけ」測定させます。そうすると、結果がばらばらになるはずです。そこで、10往復の時間を計ることや、複数回実験し平均を求めること、振り子を正面から見ること、最初の1往復は計測しないこと等を検討しましょう。
電磁石の実験ならば、はじめに「クレーンゲーム」と称して、班の中でだれが一番クリップを付けることができるか競わせます。それを発表させると、班によって結果に大きな差が出ます。どのように付けたのかを確認すると、電磁石を横向きにして付けた、縦にまっすぐ付けた、1回だけ付けた、付けてからぐるぐる回した等、いろいろな違いが出てくるはずです。そこで、正確な結果を出すためにはどのようにしたらよいかを検討させます。
どの実験もみんな同じように行う必要はありませんが、正確で、客観性、再現性のある実験を行うことの大切さも学ばせていきましょう。
3 この実験はむずかしい!
植物を扱う実験等は、もともと期待する結果が出ないものがあります。例えば、種子の発芽率は100%ではありません。5年「植物の発芽」の学習では、このような植物の特性を伝え、種子を複数使うようにします。
「植物の結実」の実験は、気候などの条件により受粉率が下がることがあります。また、受粉させたつもりが十分でなかったり、花を傷つけてしまったりしてなかなか思うような結果が出ません。「正確な結果を出すために、本当はたくさん実験をしたいのだけれど、授業ではなかなかそれができないので、全部の班の結果を見て考察しよう」と話しておくとよいでしょう。実験の手順を間違えたとき等のために、予備のものを用意しておくことも有効です。
大人でも同じですが、思いこみによって、結果を正しく見ることができないことがあります。だからこそ、結果は結果。思い通りではない結果が出たからといって否定するのではなく、事実として受け止め、子どもたちと一緒に検討していくようにしたいものです。そうできるよう、余裕をもって授業に臨めるようにしたいですね。
また、予備実験は授業と同じ条件でやってみて、子どもたちの反応を予測しておくようにしましょう。ビーカーの大きさは? 湯の温度は? ヨウ素液の濃さは? いろいろ試してみたり、経験の豊富な先生に実験のコツを聞いてみたりするとよいでしょう。
観察・実験で自分の予想を確かめることは理科学習の大きな楽しみです。子どもたちと実験を楽しんでください。
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
理科の壺は毎週水曜日更新です。
<執筆者プロフィール>
伊藤知子●いとう・ともこ 東京都公立小学校主任教諭 理科T.T.として高学年の理科授業を担当している。小学生の頃、トンボの群れを捕虫網で追いまわした頃から、生き物好き。理科室の横には、昆虫標本(拾ったもの、理科室で飼育したもの)と双眼実体顕微鏡を置き、子どもたちがいつでも観察できるようにしている。旅行先では、思わず土産に理科室に飾れそうなものを選んでしまう。 教材をあれこれ工夫するのが楽しみで、100円ショップやネットショップで、使えそうなものを物色している。最近の「大作」は、空気の温まり方実験器。ダンボール箱に電球を入れて、ラミネートフィルムを貼ったもの。グループ実験で、温度変化も煙の動きもよく分かる。作成したものを、「こんなものあるけど、どう?」とついつい勧めてしまうのが難点。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。
イラスト/難波孝