保護者への電話連絡が苦手という先生へのアドバイス|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
子供のやる気と自主性を引き出す独自の実践アイディアがテレビや雑誌で注目を集めている「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生 。今回は、「保護者への電話連絡が苦手。子供を学校で指導したことを伝えたいのに、保護者から一方的に反論されると頭が真っ白になり、結局謝罪してしまう」(S.K)という先生の悩みにアドバイスいただきました。
目次
電話をかける前の準備と伝え方の工夫が必要
質問内容をもう少し具体的に紹介しよう。
「保護者との電話がとっても苦手です。 学校で児童を指導したことについて電話でお伝えするとき、保護者にあれこれ一方的に言われてしまうといつも頭が真っ白になり、伝えたいことが伝えられず、結局私が謝罪してしまう結果になります。 落ち着いてから自分の指導の仕方をふり返ってみると、謝罪しなければならないようなことはしていなかったなと思います。 保護者との電話対応についてうまく行く方法があれば教えていただきたいです」(S.K)
このケースの改善すべき点としては2点あると思う。
・頭が真っ白になってしまい、伝えたいことが伝えられなかったこと。
・結果として、保護者の理解を得て家庭でも指導してもらいたいなど、電話連絡の本来の目的が果たされていないこと。
この2点はいずれにせよ、電話する前の準備が重要であり、伝え方の工夫も必要だ。
まず、対面と違って電話で話す場合は相手の顔が見えないので、相手の状況や心境が把握できず、より難しさを感じることがあるだろう。
またこちらの真意が伝わらずに、誤解されたり、一方的に保護者に反論されたりすると、動揺してしまう気持ちもわかる。
しかし、伝えなければならないことがあるから電話をするわけだから、 頭が真っ白になってしまっても伝えるべきことを忘れないよう「今日一番言いたいことはコレである」「保護者にこれだけは必ず伝える」と決めたことをきちんとメモしてから電話をかけよう。
事実をベースにできるだけ客観的に伝える
次に、伝え方の工夫に関しては、絶対に相手の人格を否定したり、その子だけを責めるような言い方をしたりしないこと。
そもそも、保護者側の立場に立ってみると、突然学校から電話が来て、自分の子供が「指導を受けた」と聞いたら、それだけでも驚くはずだ。恐縮してしまう人もいれば、警戒してしまう人もいるだろう。
そうした保護者の不安な気持ちを理解せず、例えば「お子さんが乱暴でみんなが困っている」「どうしてAさんは言うことを聞いてくれないのでしょう」などと責任を子供に押し付けるようなニュアンスが伝わると、「いやいや、悪いのはうちの子だけではないでしょう」「うちの子供にも言い分はあるはず」と反論したくなる心境にもなるだろう。
大事なことは、子供を責めるために電話をかけたのではなく、「学校で起きたこと」と「そのことに対して子供を指導したこと」という「事実」を伝え、「家庭での協力をお願いするために電話をかけた」ということを、しっかり理解してもらうことだ。
▶実は今日こんなことが学校でありました。
▶周囲の子供たちの話をヒアリングした結果、事実はこうでした。
▶学校としては指導が必要であると判断し、担任からはこのように指導をしました。
▶今日の出来事を報告し、家庭での協力をお願いしたく保護者への連絡をしました。
▶ご家庭でもお子さんとお話ししていただけますか?
という流れで話をしてみよう。
保護者の言い分は傾聴しつつも、話の論点をブラさず明確にする
反論があった場合には、保護者の言い分を丁寧に傾聴しよう。
ただ反論がエスカレートして、話がそれてしまうことも多々ある。
どんどん話を遡って過去のトラブルや子供が抱えているトラウマまで持ち出す人もいる。
その場合も、「そうは言ってもあなたのお子さんが悪いのです」という言い方は絶対にしないこと。「加害者はどちらか」ということではなく、あくまで「よくない行い」に対して指導をした、という点を明確にして話をしよう。
▶ そうだったんですね。
▶ お気持ちもわかります。
▶ ○○さんについてはこちらで引き続き指導していきます。
▶ そちらについてはこちらできちんと確認し、後日ご連絡させていただきます。
と保護者の気持ちや言い分を傾聴し受け入れた上で、「暴力は許されないので、指導しました」などと、電話で伝えたかったことは何か、電話をした主旨に戻るようにするとよいだろう。
友達に手を出してしまった場合には、
「今日Aさんは休み時間にBさんから気に障るようなことを言われて、つい手が出てしまったようなんですよね。Bさんには相手の気持ちを考えて話すように引き続き私から指導させていただきます。ただ今日AさんがBさんに手を出してしまったのは事実で、やはり手を出すことはよくないことなので、指導をさせていただきました」
と指導のポイントを明確にして説明する。
そして「その行いは、本人にとって仕方なかったとしても、たとえどんな理由があったとしてもルール違反なので、学校としては指導をしなくてはならないものなのだ」ということを、話の軸がブレないように注意しながら丁寧に話して理解を求めよう。
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沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『板書で分かる世界一のクラスの作り方 ぬまっちの1年生奮闘記 』(中央公論新社)他。 沼田先生のオンラインサロンはこちら>> https://lounge.dmm.com/detail/2955/
取材・構成・文/出浦文絵 イラスト/藤井昌子