これからの先生は「学びのファシリテーター、コーディネーター」に【田村学流 単元づくり・授業づくり#2】

連載
田村学流「単元づくり・授業づくり」

國學院大學人間開発学部教授

田村学
タイトル 田村学流「単元づくり・授業づくり」No.2

この企画では、元文部科学省視学官であり、現行学習指導要領の策定にも尽力された、國學院大學・田村学教授に、「単元づくり・授業づくり」をテーマとした連載をしていただきます。

子供自身が主体的に学べるような単元や授業づくりの力が求められる

前回、「学校教育とは何か」についてお話をしましたが、今回は、その教育を行う「学校」について考えてみましょう。

学校という場所は、人格の完成や一人ひとりの自己実現や、将来の社会への適応といった面などから考えられたものですが、機能としては、一つ一つの学習の内容がより確実に効率的に教えられるようにつくりあげられてきた場所であることは確かだと思います。

そのために、一定の学齢期の子供たちを横並びで同じ場所に集め、それにふさわしい教材を用意し、一人の先生が上手に教えることを通して、例えば、漢字やかけ算九九といった内容を効率的に身に付けさせてきたわけです。それが、学校という場所のもつ大きな特徴であったし、近代国家が形成されていくにはとても欠かせない重要な要素だったと思います。

それは右肩上がりの時代までは有効だったわけですが、現代は、一個一個の知識を暗記しておけばいいという時代ではなくなったことは確かです。実際に、目の前の問題を解決する力が求められているわけで、そうすると、個々の知識を暗記するのではなく、それをどのように使いこなせるかが問われるわけです。それがまさに資質・能力ということになります。

そのように使いこなしていくときに、より適切な判断ができるかどうかはもちろんのこと、より社会にとって意味がある行動かどうか、より多くの人と協力しながら行えるかどうか、より多様なアイディアがあり、より豊かな結果が得られるかどうかなどのことが求められるようになります。そういう視点から見直してみると、学校という施設のもつ機能は、メリットもあると同時に、デメリットとなる側面もあることが見えてくる気がします。

整っていない問題に子供が関わる場面も必要

例えば、共に学ぶ学級の中には同年齢の子しかいないし、学校全体を見ても先生以外には、ごく近い年齢の子しかいません。そこには多様な年齢の人や多様な考えをもつ人がいるわけではないのです。

また、社会には整っていない問題が散在しているわけですが、学校では教科の知識を得るのに効果的なように、整った状況の問題を用意してくれているわけです。その象徴が教科書であり、それは教科を効果的・効率的に学ぶうえで必要なものではあるわけですが、それだけでは、整っていない現実の問題を解決することはできません。

学校から一歩、外の社会に足を踏み出すと、例えばゴミ問題とか環境問題、あるいは今ならコロナ禍のような、簡単に解決できない問題があります。そこに多様な大人が立ち向かっていて、一つの解決方法を提示しても、それはある面から見れば正しいけれども、ある面から見れば、間違っているという場合もあるわけです。そのようなことを学んでいくためには、これまでの学校という施設は、少し閉鎖的だっただろうと思います。

もちろん、学校が必要ないと言っているわけではありません。学校という存在は大事ですが、そこから一歩外に出て、整っていない問題に関わる場面も必要だと言うのです。

子供たちが社会に出ていく前に、近い年齢の子供たちと共に学ぶ場があることは欠かせないことです。その小さなコミュニティの中で、学習内容を確実に身に付けたり、社会性のトレーニングをしたりすることはとても大切です。しかし、ずっと学校の中ばかりにいて、あるとき、突然社会に投げ出されるというのは、有効な方法ではないでしょう。やはり、ある程度の段階から学校の壁を崩して風通しをよくし、子供たちが自ら社会に出ていくような場面をつくることが極めて重要だと思います。

費用対効果を考え、学校の社会的機能を高める取り組み

ですから、学校というものの社会的機能は、これまでよりも膨らんできていると言えるのでしょう。あるいは、学校が、本来多様にある教育の機能の中のコアとして位置付いていけばよいと言ったほうがよいかもしれません。そのように考えてみると、学校という社会資本がもつ価値がより豊かになっていかないと、学校は今後も生き残っていくことはできないのだと思います。

過去の学校の機能は、一定の学齢期の子供を一定の時間拘束し、同年齢の子供に同一の秩序のもと、決められた知識を教えていけばよかったと言えるでしょう。それが、過去の社会においては重要な機能を果たしていたがゆえに、存在意義があったわけです。

しかし、現代では、そのような機能の多くはスマートフォンのようなもので代替できるようになってきています。そのため、これからの学校がめざす教育やその機能は、これまで以上に重層的で豊かなものが求められるようになってきていると思うのです。学校がもつ社会資本としての価値に、より高いものが求められるようになっていくわけです。

海外では、そのような変革が始まってきており、今から10年ほど前、イギリスに視察に行ったとき、社会的機能を高める取り組みを行っている学校に行きました。そこでは、学校施設の費用対効果を高めるために、コミュニティ・センター的な機能を付加し、子供が使っていない時間に地域の人が学校機能を活用できるようにしていました。例えば、家庭科室のような機能をもつ施設があれば、子供たちが授業で使っていない時間には、地域の人が使えるように考えているわけです。

田村先生が調査取材を行ったイギリスの学校の様子。

このように、費用対効果という視点で見ることは民間事業者なら当然、考えていることですが、これまで学校をそのような視点で捉えたことはなかったのではないでしょうか。しかし、すでにその視点から捉え直しながら、学校を開いているわけです。

そうやって学校を開くと、地域の多様な年齢や立場の方が学校に入ってきて、子供たちと多様な関わりをもつ機会が増え、多様な学びの可能性を広げることもできます。

今後、日本社会では人口減少が続くと予想され、地域の人は減り、活力も減ってきます。これまでも、学校があるから地域があるということもあり、学校がなくなったため、集落がなくなるような例もあります。

逆に言えば、学校というものの機能が上がることは地域社会にとっても重要なことであり、新たな箱物を作るよりも、大きな力になるわけです。想像してみてください。家の中でも、地域社会でもそうですが、子供の声が響き、足音が響くほうが、より元気が出てくると思いませんか。

学びのファシリテーター、コーディネーターとしての力が求められる

そのように、地域社会における学校の役割が変わっていくとすると、これからの先生に求められる力も大きく変わっていくことになるでしょう。

昔、一定の知識を安定的に教えればよかった時代は、限定的な知識や指導力があればよかったのかもしれません。しかし、これからは、まず学ぶ子供自身が主体的に学べるような単元や授業づくりの力が求められてきますし、同時に学校内だけでなく、社会の多様な人たちとの関わりをつくっていく力も求められます。それは、学びのファシリテーターとも言えるし、コーディネーターとも言えるような力が求められるのだと思います。

昔の教師像とは異なるため、戸惑う先生もいらっしゃるかもしれません。しかし、地域の多様な年齢や立場の方と関わることは、とてもおもしろいことだし、やりがいもあると思います。

私の研究室に来られたある長期研修の先生は、総合的な学習の時間で、子供たちと共に地域の歴史的建造物について調べていくうちに、建造物保護に関わる地域のグループなどと関わったり、自治体の広報課と関わったりして、学習したことを基にPR動画を作成したりして、とても楽しかったと話してくださいました。そのように、おもしろさややりがいを感じられるものなのだと思います。

ただし、そのような学校像や教師像の変化によって仕事が新たに増えると捉えてしまうと、負担感ばかりになってしまいます。けれども、この変化によって学校や先生の社会的価値が再び高まるのだと考えてみることが大事だと思います。それが、教師としての矜持や誇りを維持するための、重要な要素になるのではないでしょうか。

学校は、「地域社会の中でとても大切な場所だ」とか、「先生という仕事は、地域で重要な役割を担っている」と思えることは、誇ってよいことだし、仕事にポジティブに向かうためにはとても重要なことなのだと思います。

「教師は聖職」とまで言うつもりはありません。しかし、社会的に価値のある仕事だと改めて前向きに捉えられるならば、先生方の意欲ややりがいも高まるのではないでしょうか。

【田村学流「単元づくり・授業づくり」】次回は4月29日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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