知識と学びのタイプを対応づける②【あたらしい学校を創造する #28】

連載
あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。

今回は、「プロジェクト的な学習」と「広義のソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)としての学習」についてのお話しです。

連載【あたらしい学校を創造する ~元公立小学校教員の挑戦~】
蓑手章吾(HILLOCK諸島部スクールディレクター)

3本の矢

前回に続き、ヒロック初等部でやろうとしているカリキュラム内容についての話です。

ヒロックの学習には、次の「3本の矢」があるとお伝えしました。

  • プロジェクト的な学習
  • 広義のソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)としての学習
  • 自由進度学習

自由進度学習については何度も触れてきましたので、今回は、「プロジェクト的な学習」と「広義のソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)としての学習」について、知識の構造と絡めて、詳しく述べてみたいと思います。

プロジェクト的な学習で見方・考え方を学ぶ

プロジェクト的な学習については「コンピテンシーを重視するもの」と、僕らは分類しました。それはいったいどういうことでしょうか。

プロジェクト的な学習は、子供一人ひとりが行うもので、「マイプロジェクト」と名づけました。子供が自分の興味に従って学習材を選び、探究していく中で、たとえば科学的な見方や考え方などを学んでいくものになります。

通常の一斉型の授業では、子供が学習の中からコンピテンシー(学びに向かう力・人間性)を拡張することはなかなか難しい。プロジェクト的な学習をすることで、既に持っている知識や経験とコンピテンシーが結びつきやすくなるのではないかと考えているわけです。

たとえば、鉄棒の逆上がりのこつをつかむことや、なぜ自分はできなかったのかを分析することで、それができるように自分をコントロールするのも、コンピテンシーの拡張です。

ヒロックでの様子

協働的なテーマ学習でコンセプトを学ぶ

「広義のソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)としての学習」については、「コンセプトを重視するもの」と定義しました。「広義のSEL」としたのは、そもそものSELとはいわゆる社会情動性の学習のことですが、僕たちが考えるSELはそれだけにとどまらず、友達とかかわり合いながら学ぶグループ学習や体育活動までのすべてを包括するものとして考えているからです。

広義のSELがどうコンセプト(見方、考え方)につながるのかというと、たとえば、植物の発達というコンテンツを自由進度学習で学んだとします。本を読むなどして知識を得ても、それは表層的に学んだだけとも言えるでしょう。そこで、実際に植物を育てることを体験することによって、自分が学んだことはこういうことなんだという概念化に結びつけていくというのが、広義のSELになります。

広義のSELでは、おもにテーマ学習を行います。下の表は、いま検討しているテーマ一覧です。

たとえば「自分」の列では、奇数年では低学年で「自分・他人の興味」、中学年で「生活習慣・メタ認知」、高学年で「夢・目標、偉人」というテーマで学習します。そこでは、形状や質感→機能や役割→変化→因果→つながりや相関→立場→責任や権利といったコンセプトを獲得することをねらっています。

奇数年と偶数年に分けたのは、学年ごとにテーマが異なるようにするためのものです。教員時代に、たとえば中学年で音楽会と展覧会を交互に行った経験に基づいています。こうすると、中学年の2年間に両方の経験ができるので、その発想を取り入れたんです。

「3本の矢」の学習を形態別でまとめると、

  • プロジェクト的な学習 = 主にコンピテンシーを重視する個別最適な学び
  • 広義のソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)= 主にコンセプトを重視するテーマに基づく協働的な学び
  • 自由進度学習 = 主にコンテンツを重視する個別最適な学び、または協働的な学び

というように対応づけられることになります。ヒロックでは、これらをバランスよくカリキュラムの中に組んでいくことになります。

次回は、さらにこのカリキュラムの狙いについて深掘りします。

〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック

第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い」
第3回「なぜオルタナティブスクールなのか」
第4回「多数決に代わる『どうしても制度』とは」
第5回「自分たちのスクール憲法をつくる!」
第6回「スクール憲法の条文づくり」
第7回「教師と子供をどう呼ぶべきか」
第8回「模擬クラスで一日の流れを試す」
第9回「学年の区切りを取り払う」
第10回「学習のロードマップをつくる」
第11回「教科の壁を取り払う」
第12回「技能の免許制を導入する」
第13回「カリキュラムの全体像を設計する」
第14回「育むべき『学力』について考える」
第15回「自由進度学習をフル活用する」
第16回「保護者の意識と学校の理念を一致させる」
第17回「クラウドファンディングでお金と仲間を集める」
第18回「クラウドファンディングでモノと人を募る」
第19回「体育の授業目的と方法を再定義する」
第20回「道徳教育の目的と手法を再定義する」
第21回「入学希望者の選考を行う」
第22回「入学予定者の顔合わせを行う」
第23回「大人たちをつなぐ場所をつくる」
第24回「公教育とオルタナティブ教育の間をつなぐ」
第25回「入学希望者のニーズについて考察する」
第26回「集団登下校や送り迎えの便をはかる」
第27回「知識と学びのタイプを対応づける①」

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取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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