ギフテッドの子供を理解する3つのポイント[チェックリスト付き]
頭はいいけれど、学校に馴染めない。学級の中に、そんな子は、いませんか? その子は、もしかしたらギフテッドなのかもしれません。「ギフテッド」という語感から、「非凡な天才児」をイメージするかもしれませんが、実像は違います。
お話を伺った方/片桐正敏
北海道教育大学旭川校教授。専門は、臨床発達心理学、発達認知神経科学、特別支援教育。基礎的な研究と並行してギフテッドの相談・支援活動も行っている。
目次
不登校、登校渋り、もしかして、ギフテッド!?
「繊細」というには、度合いが過ぎているから、今、話題のHSC(Highly Sensitive Child)なのかな? 発達検査をしても、問題はなさそうだけど……。そんな子は、ギフテッドというキーワードがあると、理解がしやすいのかもしれません。
ギフテッドの子供たちの発達相談を受けている片桐先生は、言います。「下の表は、ギフテッドの子供の特性を10項目挙げたものです。相談現場の肌感覚として、半数以上当てはまると、学校生活での困難さが、強く出てくることが想定されます。同年齢の子供と比べて極端に目立つ、というのが評価のポイントです。ギフテッドの特性ゆえに生きづらく、不登校や登校渋りにつながっている子供たちが数多くいるという現実を知ってほしいと思います。つまり、ギフテッドは、『配慮や支援が必要な子供』なのです」
「強み」と「弱み」は表裏一体
ギフテッドの特性を具体的に見ていきましょう。例えば、❷の「強い集中力」は、裏を返せば過集中(注意を適切に配分できない状態)ゆえ、一見、話を聞いていないように見えたり、作業の切り替えが難しかったりという「弱み」になり得ます。 ❽の「他者への配慮」も行きすぎると、本人は精神的に疲れてしまいます。こんなふうに、彼らの特性を「強みと弱みは表裏一体である」と、多角的な視点で受け止めることが支援のスタートです。
ギフテッドの子供を理解する際には、才能や知的側面だけに注目するのではなく、強みを生かす配慮や支援、弱みによってつらい思いをしている子供の気持ちに寄り添うことが、とても大切です。
ギフテッドを理解する三つのポイント
ここまでを読んで、「あの子、ギフテッドなのかも」と思い当たる子が、学級にいるかもしれません。そんなとき、低学年の先生が知っておきたいポイントを、三つ、ご紹介します。
①過度激動
「ギフテッド」チェックリスト表の❸❹❺は、「過度激動」という言葉を知っていると理解しやすいでしょう。過度激動とは、文字通り、過度な感情や行動を示す状態です。多くの人が自然に受け入れる物事に過剰に反応してしまうなど、過度激動があると集団生活の中で苦しいことがあります。
②非同期発達
「ギフテッド」チェックリスト表❼の「興味関心がはっきりしている」は、非同期発達という概念も併せて知っておいてほしいです。「非同期発達」とは、簡単にいえば発達のアンバランスさです。言語能力、社会的な能力、情緒的な能力などは相互に関係がある(同期している)ので、一緒に発達していくものですが、ギフテッドは得意な領域の発達が目覚ましいので、凸▭(▭は普通の部分)状態になりやすいのです。「話す内容は大人顔負けなのに、対人関係の結び方は驚くほど幼く分かっていない」といったことが、割とよく起こります。
③発達障害の特性
「ギフテッドは、結局、発達障害の一種なのですか?」という質問をよく受けます。
「発達障害の特性があること」と、「発達障害と診断されること」は、別の話です。きちんと、分けて考えてください。「発達障害の特性」は、どの人にもあります。一つ二つ、発達障害の特性があるからといって、発達障害とは診断されません。診断されるには、複数の診断項目を、基準の数より多く満たしている必要があります。大切なのは、「発達障害かどうか」と白黒つけることよりも、「はなから発達障害という見方をしないで、その子に合った配慮や支援のアプローチは何か? を考えること」です。
当事者の声とサポート事例
低学年の子供たちにとって、ギフテッドの特性は、どんな困り感につながるのでしょうか? 当事者の子供たちの声を拾いました。
異質感
学校のみんなと話が合わないし、考え方も違う。自分は、普通じゃない(小一少女)
サポート事例
知能が高く繊細なギフテッドは、周りとの「違い」を一年生でも感じます。ギフテッドの判定基準の一つとして知能指数(IQ)130が一つの目安ですが、教育現場では130の値にこだわるのではなく、認知の凸▭(▭は普通の状態)に注目しましょう。凸▭が激しいと、異質感を訴えて、学校に行けなくなる低学年の子は多いです。この場合は、本人が感じている異質感や孤独感へのケアが必要です。例えば、(その子が好きな)折り紙を一緒に折る、工作をする、大好きなことの会話をする相手がいる、といったちょっとした「心の居場所」が学校内にあれば、なんとか登校できる子もいると思います。
会話が成り立たない
僕は衆議院選挙について話したいけれど、友達はポケモンの話ばかりで、学校がつまんない(小二男子)
サポート事例
会話が成り立たないというのは、思っているよりも深刻です。子供が難しい言葉を使ったら、先生が変換して伝えるなど、「通訳する」という気持ちがあるとよいですね。
生真面目・完璧主義
廊下を走ったり、信号を無視した友達を注意したら仲間外れにされた(小二女子)
サポート事例
ささいなルール違反などが許せず、注意をして、友達との関係が悪化することがよくあります。その子は、何も悪いことはしていないので、「あなたは正しい」と行為を認めつつ、「見かけたら、相談して。先生から、その子に言います」と、伝えておきましょう。
興味関心
僕は校庭の木や草、生えているきのこに興味があって調べたい。でも、先生は休み時間は、みんなと一緒に遊べって言うから、学校は嫌い(小一男子)
サポート事例
強い好奇心を抑え、やりたくないことを強要されているので、心情的に本当につらいのだと思います。あえて集団の中に入れようとはせずに、「そんなきのこが生えているんだ。名前教えてほしいなぁ」といった感じで、その子の活動を認める声かけをお願いします。
ギフテッドが学校嫌いにならないために
ギフテッドの特性は、強力な武器にもなりますが、時には自分を傷付ける諸刃の剣です。低学年のうちは、自分の特性を上手に扱えない子も多いのですが、環境を整えれば、豊かに成長できる子供たちです。「学校という場」に最初に出合う低学年は、学校生活のイメージを決定付ける大切な時代です。先生方にギフテッドへの理解を深めていただき、ぜひとも配慮や支援をお願いします。
さらに知りたい方へ
ギフテッドについて、さらに詳しく知りたい方は、ぜひ『ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法』をお読みください。
『ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法』
片桐正敏/編著
小学館
取材・文/楢戸ひかる イラスト/平松昭子