入学希望者のニーズについて考察する【あたらしい学校を創造する #25】

連載
あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。今回は、入学希望者からのヒロックへの期待、ニーズについてのお話しです。

連載【あたらしい学校を創造する ~元公立小学校教員の挑戦~】
蓑手章吾(HILLOCK諸島部スクールディレクター)

なぜヒロックを選んでくれたのか?

以前お伝えしたように、ヒロック初等部の初年度の入学者募集には、僕らの予想を超える24人の応募がありました。僕らとお話しをさせていただいた、入学を検討された方も含めると、その5倍ぐらいの数になります。改めて、僕らのようなオルタナティブスクールに対するニーズがあるのだということがわかりました。今回は、「ヒロックに寄せられた保護者からの期待、ニーズとは何か」という話をしてみたいと思います。

正直、ヒロック初等部にかかる学費は決して安いものではありません。それだけで入学希望者が絞られてしまうはずにもかかわらず、入学を検討した方がこれだけいるというのは、やはり驚きでした。その中には、今の幼稚園や学校で問題なく過ごしている子もいれば、学校に行くのがしんどくなっている子もいるし、今はまだ幼稚園の年少組だが、このまま公立小学校に入れるのは不安だという方もいました。

未就学のお子さんのいるご家庭に詳しく聞いてみると、インターナショナル・プリスクールや自由保育を行っている幼稚園で育った子は、小学校進学後に不登校になったり、学校に適応できないケースに陥りやすいという傾向があるようなのです。ある親御さんは、そういった幼稚園で知り合った先輩ママから「小学校の先生から『あの園から来たの』という言われ方をされる」と聞いたそうです。そして、地元の小学校では今のようにのびのびと育てられそうにないから、オルタナティブスクールを探しているということでした。また、「今の公教育は無駄が多いように思う」「本当はもっと学び進められるはずなのに、進ませてもらえない」「この先、子供の個性を本当に伸ばしていけるのか疑問だ」などと考えている親御さんも結構いました。

一方、すでに公立小学校にお子さんを通学させている親御さんからは、「子供の姿を見て気づいた」という意見が多くありました。「家庭にいるときと学校にいるときの子供の姿があまりにも違う」「家庭ではのびのびしているからいいと思っていたのに、学校では落ち着きがないと先生に受け取られている」といったギャップに気がつき、別の環境を求めてヒロック入学を検討したというものです。

とはいえ、フリースクールやインターナショナルスクールなど、代替となり得る環境は他にもあります。どうして他のスクールではなくヒロックへの入学を考えたのでしょうか。当然僕らは、その理由を聞いてみました。

すると、ある親御さんは、「フリースクールは、やっぱりどちらかというと、学校に行けないから行くところという印象がある。学びを促進してくれるかどうか心配だが、ヒロックならやってくれる気がする」と、お話ししてくれました。

ヒロックでの子供たち

個性とともに学力も、というニーズ

学校に行けないから、せめて人に会ってコミュニケーションを図れればいい、というニーズに対してなら選択肢はある。けれども、「学びの場所」という観点で絞ると、それを満たしてくれるスクールはほとんどないのだと、多くの親御さんがおっしゃっていました。つまり、個性を伸ばす教育をすると同時に、公立校並みかそれ以上に、学習面も伸ばしてほしいというニーズがあるから、ヒロックを選んだということなのです。そして当然そこには、公教育での教員経験のある僕らのような指導者がいる、という安心感も寄与しているはずです。

ヒロックは中学受験を目指すような学校ではありませんが、子供が「ここに行きたい、こうなりたい」と考えて中学受験を志したときには、僕らは最大限のサポートをするつもりだし、提供できるものはあると思っています。たとえば算数で、子供が図形に興味があったら、図形に関しては上位学年の範囲まで進むことも可能だし、時間的な余裕があればもっと、中学入試に出るような高度な問題に取り組めばいい。

「自由進度学習によって、子供一人ひとりがやりたいことをどんどん伸ばす」というヒロックの方針が、個性を重視しつつ学力もきっちり身につけてほしいという保護者のニーズと合致したのかなと思います。

次回は、開校までのカウントダウンが始まった今、行っていることについて話します。

〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック

第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い」
第3回「なぜオルタナティブスクールなのか」
第4回「多数決に代わる『どうしても制度』とは」
第5回「自分たちのスクール憲法をつくる!」
第6回「スクール憲法の条文づくり」
第7回「教師と子供をどう呼ぶべきか」
第8回「模擬クラスで一日の流れを試す」
第9回「学年の区切りを取り払う」
第10回「学習のロードマップをつくる」
第11回「教科の壁を取り払う」
第12回「技能の免許制を導入する」
第13回「カリキュラムの全体像を設計する」
第14回「育むべき『学力』について考える」
第15回「自由進度学習をフル活用する」
第16回「保護者の意識と学校の理念を一致させる」
第17回「クラウドファンディングでお金と仲間を集める」
第18回「クラウドファンディングでモノと人を募る」
第19回「体育の授業目的と方法を再定義する」
第20回「道徳教育の目的と手法を再定義する」
第21回「入学希望者の選考を行う」
第22回「入学予定者の顔合わせを行う」
第23回「大人たちをつなぐ場所をつくる」
第24回「公教育とオルタナティブ教育の間をつなぐ」

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取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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