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若手教員を育成できる学校組織のあり方とは

特集
研究授業特集ー指導案の書き方、モチベーションの保ち方ー

学校法人 軽井沢風越学園校長

岩瀬直樹

新学習指導要領の全面実施を控えて教員の資質能力向上が急務とされています。一方で、ベテラン教員の大量退職と若手教員の急増によって学校の教育力の低下が危惧されており、社会や教育の形の変化に応じた若手教員育成のあり方が、改めて問われています。教師教育の現状と課題を踏まえ、これからの時代に求められる若手育成の考え方について、岩瀬直樹氏に伺いました。

ベテラン先生と若手2人の図

教師の力量向上に必要な2つの視点

教員が専門性を高めていくうえで必要なことは2つあります。

ひとつは技術的な熟達です。教育技術や教育方法を数多く身につけることがスキルアップにつながります。ただ、学校の環境や子どもの実態は千差万別ですから、すべての場面において適用できる方法というものはありません。そのため、方法を身につけていくだけでは行き詰まりが生じます。

学校の共通目的(ビジョン)

学校の共通目的(ビジョン)図

教員は学級や子どもの実態に応じて実践を工夫して力量を高めることが求められ、そのときに必要となるのがリフレクション(振り返り)。これが2つ目です。

事実をもとに実践を振り返り、本当にこれでよかったのかと前提を問い直し、次はどうしようかと考えて実践する「省察的実践」が重要になります。振り返りをしながら実践を重ねていくことで日常的に新しい選択肢を増やしていく必要があるのです。方法の引き出しの数を増やすことは大事ですが、いかにその実践を振り返って自身の力量向上につなげていけるかが、より重要だといえます。

この2点を踏まえると、若手育成において先輩教員が果たすべき役割のひとつは、技術の伝承。もうひとつは、若手が振り返りと実践のサイクルを日常的に行えるように支援することです。

ベテランは若手の授業を見て、どうしても指導をしたくなるものです。ただ、経験を伝えるというのは難しく、指導したことがそのまま力量となるわけではありません。ですから、授業を振り返って「ここをこうしたほうがよかった」という指導の仕方ではなく、「この場面で何を考えていたのか」と問いかけ、本人が気づきを得るための質問を重ねていくことが肝要です。振り返りのための伴走とでも言いましょうか。これを一日に20分でも実践するだけで効果はあるでしょう。短くても適切な時間をとって、そうした場面を少しでも多くつくっていくことが必要です。

職員室を居心地よく気楽に話せる空間に

教員育成の前提として、教職員間のコミュニケーションを豊かにすることも重要です。経営学者バーナードは組織の3要素として以下の3点を挙げており、これを学校組織に当てはめると次のようになります。

・共通目的(ゴールやビジョン)…学校教育目標、校内研究の目的。
・貢献意欲…具体的な行動を通して貢献しようとするモチベーションをもっていること。
・コミュニケーション…メンバーが対話を重ね、学び合い、支え合う関係性がある。

貢献意欲がわくようにするためにも、コミュニケーションを豊かにして、職員室を居心地がよく気楽に話せる空間にすることは不可欠だと思います。これが実現できると、教職員間に学び合い、支え合う関係性が生まれ、若手が先輩に相談しやすい環境が形成されます。

教員の力量を高めるためのアプローチの中で、私が一番の課題だと感じていることは、研究授業のアプローチです。研究授業後の協議会において、授業者に対して方法を指導したり、欠点を指摘したりといったやり方だと、若手は萎縮するだけで、誰も研究授業をやりたがらなくなります。そんな状況で力量が形成されるはずはありませんから、違った形でのアプローチが求められます。

コミュニケーションが豊かになり、教員間で日常的に授業実践の話をする関係性がつくられている状態になって、初めて研究授業もうまく機能します。先輩教員が、若手の「振り返りの伴走」をするようなコミュニケーションのとり方ができるとよいでしょう。そうしたコミュニケーションの文化を職場に生むことが重要です。

コミュニケーション量を増やしたり、対話の文化をつくったりといったことは、遠回りの方法だと感じるかもしれません。どうしても、授業方法を指導したり、勉強会を開いたりといったことを優先したくなるかと思いますが、先を見据えてまずはコミュニケーションを豊かにすることで、1年後の加速度が確実に変わるはずです。

重要なのは、即効性にこだわらず、未来に投資する方向に考え方をシフトすること。いかにコミュニケーションを重視した組織をつくれるかが、これからの時代における若手育成を進めるための鍵になると思います。

先輩教員と若手でともにチャレンジすることが成果につながる

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