2021年の社会情勢と教育トピックを振り返る
2021年もやはり一番の話題は新型コロナウイルス。さまざまな変異株の出現で収束が遠のく中、国内では東京オリンピック・パラリンピックの一年越しでの開催や自民党・岸田政権の発足、海外ではジョー・バイデンがアメリカ合衆国46代目大統領に就任するなど様々な出来事がありました。暗い話題も多かったですが、来年こそは良い年になるよう願いながら、2021年の主な出来事と教育関係のトピックを時系列で振り返ってみましょう。
目次
1月
「新型コロナウイルスの猛威収まらず『ウィズコロナ』の学校運営が続く」
「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~答申を発表」
緊急事態宣言から始まった2021年 いまだ出口見えず
年が明けての2021年に入っても新型コロナウイルスの感染拡大は収まりを見せず、早くも1月には東京など1都3県に緊急事態宣言が発出。すでに2020年の休校措置を経験し「学校の新しい生活様式」に基づく感染対策が行われていたことから学校現場での混乱は少なかったものの、第1波、第2波の感染者数を大きく上回る感染拡大、および変異ウイルスの発生など、先行きへの不安が募る新年の幕開けとなった。
現在、第5波は収束に向かうも、オミクロン株の出現で出口はまだ見えない状況である。
先行き不透明な時代にあるべき学校教育の姿を提言した「令和の日本型学校教育」
文部科学省中央教育審議会は1月26日、答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜」を取りまとめ、発表した。
重要な柱となるのは「個別最適な学び」と「協働的な学び」で、その実現のために新学習指導要領の着実な実施と、GIGAスクール構想の具現化によるICTの活用が不可欠となる。
1月の主な出来事
・1月6日 アメリカ大統領選でのドナルド・トランプの敗北を認めない支持者が、ジョー・バイデンを次期大統領に正式に指名しようとしたアメリカ合衆国議会を襲撃。
・1月6日 香港警察が国家安全保障法に基づいて50人以上の民主主義活動家を逮捕。
・1月20日 前年のアメリカ合衆国大統領選挙で、選挙人の過半数を獲得したジョー・バイデン(当時78歳/民主党)が46代目のアメリカ大統領に就任。
・1月21日 公職選挙法違反(買収など)で逮捕・起訴された河井案里に対し、東京地裁が執行猶予付き有罪判決(懲役1年4カ月・執行猶予5年/求刑・懲役1年6カ月)。
2月
「公立学校教員採用試験、小学校は過去最低2.7倍…文科省」
小学校教員の競争倍率は前年度の2.8倍を下回る
2021年2月2日に文部科学省が発表した調査結果によると、2020年度公立学校教員採用選考試験で小学校教員の競争倍率は過去最低の2.7倍(前年度2.8倍)であったことが明らかになった。
小学校の受験者数は前年度比2,951人減の4万4,710人、採用者数が前年度比336人減の1万6,693人。全体の競争率は3.9倍で、中学校は5.0倍、高校は6.1倍と、いずれも前年度から減少している。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/senkou/1416039_00003.html
※参考/文部科学省ホームページ
2月の主な出来事
・2月1日 ミャンマー軍が軍事クーデターで政権を掌握。
・2月18日 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長人事で、不適切発言を理由に辞任した森喜朗に代わり、前国務大臣の橋本聖子が就任。
3月
「小学校全学年での『35人学級化』法案が成立 2021年度から段階的に適用」
新型コロナウイルス感染症に対応した学校再開ガイドライン
小学校の学級編制標準(1学級の児童数の上限)を、40人(1年生は35人)から35人へ引き下げる、義務教育法(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律)の改正案が、3月31日、参議院本会議にて全会一致で可決され、成立した。
「35人学級化」を巡っては、メリットが大きいと実現をめざす文部科学省と、「学級規模の縮小の効果はないか、あっても小さいことを示している研究が多い」といった理由で反対する財務省との間で、長らく議論が続いてきた。コロナ禍により少人数での授業が求められるようになったことなども追い風になり、今回実現の運びとなった。
3月の主な出来事
・3月11日 東日本大震災および福島第一原子力発電所事故の発生からこの日で10年。
4月
「新学習指導要領が中学校でも全面実施」
「『GIGAスクール構想』1人1台端末の学びがスタート」
3つの柱で整理された新学習指導要領
2017年3月に告示された新学習指導要領が、中学校でも2021年4月に全面実施となった。
2020年度に全面実施となった小学校と同様に、今後の社会を生き抜くために必要な資質・能力が「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つの柱で整理され、それらを確実に育成することをめざしている。
課題が山積するGIGAスクール構想
これからの時代に向けた教育環境を整備し、多様な子どもたちに合った個別最適な教育を実現させるための「GIGAスクール構想」。
だが端末が配備されただけでは校内でICTを活用した授業が行えるわけではない。先行してICT教育に注力していた学校もあるが、そうではない学校に対しての研修や、各家庭のネットワーク環境の支援など、課題は山積している。
4月の主な出来事
・4月1日 河井夫妻選挙違反事件により前年6月に起訴され、無罪を主張していた自由民主党所属の河井克行衆議院議員が同年3月23日に一転して罪を認め、議員辞職を表明し、この日許可された。
・4月11日 (現地時間) ゴルファーの松山英樹がアジア人初となるPGAツアーのメジャー大会で優勝、同月30日にゴルファーとしては1987年の岡本綾子以来2人目となる内閣総理大臣顕彰を受賞。
・4月13日 政府は福島第一原子力発電所での放射性物質に汚染された処理水を2023年頃から海洋放出すること決定。農林水産物への風評被害が懸念される。
・4月16日 菅義偉首相、ジョセフ・バイデン大統領の日米首脳会談が行われる。共同声明で台湾について明記されたのは50年ぶり。
5月
「全国学力・学習状況調査を2年ぶりに実施」
「『わいせつ教員対策新法』が国会で可決成立」
計2万8718校の調査結果を発表
文部科学省は5月27日、全国的に子どもたちの学力状況を把握する「全国学力・学習状況調査」を実施した。同調査は、児童生徒への学力調査と、学校および児童生徒への質問紙調査で構成されており、2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大により中止されたため、実施は2年ぶりとなる。
実施校数は、小学校19,038校、中学校9,680校。計28,718校で、参加率は97.0%となった。
https://www.nier.go.jp/21chousakekkahoukoku/21summary.pdf
※参考/国立教育政策研究所ホームページ
自民、公明両党でつくるワーキングチームにより可決した「わいせつ教員対策新法」
児童生徒等に対するわいせつ行為で処分された教員は2019年度が273人と2018年度より9人減ったが、依然、高止まりが続いている。にもかかわらず、これまでの教員免許法では児童生徒へのわいせつ行為などで懲戒免職などの処分を受けて教員免許が失効しても、3年経過すれば再取得が可能であり、規制の強化が求められていた。
そのような状況を受け、自民、公明両党でつくるワーキングチームが3月より検討を進め、5月28日に「わいせつ教員対策新法(教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律)」が参議院本会議で可決・成立した。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/mext_00001.html
※参考/文部科学省ホームページ
5月の主な出来事
・5月10日 財務省が2020年度末の財政状況を発表し、国の借金が1216兆円余りであることが判明。例年の増加幅は10~20兆円であったのに対し、2020年度は新型コロナウイルスの影響で101兆円余りであった。
6月
「東京都内公立学校の体罰実態公表 根絶に向けた取組も」
学校内での体罰、依然として無くならず
東京都教育委員会は2020年度に発生した都内公立学校における体罰の実態把握について2021年6月24日に公表。2020年度に体罰を行った者は前年度と比べて12人減の7人で、すべて教職員であった。体罰以外には、「不適切な行為」139人、「指導の範囲内」75人。
体罰の原因は「態度が悪い」が2人で、「指示に従わない」が5人。このうち「感情的になり体罰に及んだ」6人、「言葉で繰り返し言っても伝わらなかったことにより体罰に及んだ」1人であった。体罰の程度が著しい事案は1件で、悪質・危険な行為を行った事案はなかったとされる。
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2021/release20210624_01.html
※参考/東京都教育委員会ホームページ
6月の主な出来事
・6月11日〜13日 第47回先進国首脳会議(G7サミット)がイギリス・コーンウォールで開催。
・6月23日 夫婦別姓を認めない民法750条と戸籍法74条の規定が憲法違反かどうか争われた家事審判の特別抗告審において、最高裁判所大法廷は2015年以来2度目となる「合憲」の判断を下し、婚姻届の受理を認めないと決定。15名の裁判官のうち4名は「違憲」と判断。
7月
「小学校高学年の教科担任制、外国語等4教科を優先」
外国語、理科、算数、体育が優先的に専科指導の対象に
中央教育審議会の答申で「小学校高学年からの教科担任制を、2022年度を目途に本格的に導入する必要がある」とされたことを踏まえ、文部科学省は2021年7月、義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方についての報告書を公表。
義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について論点ごとの考え方がまとめてあり、外国語、理科、算数、体育が優先的に専科指導の対象とすべき教科とされている。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/159/mext_00904.html
※参考/文部科学省ホームページ
7月の主な出来事
・7月3日 日本静岡県熱海市伊豆山地区の逢初川で大規模な土砂災害が発生。死者・行方不明者27人、負傷者3人、損壊家屋約130棟。
・7月23日 第32回夏季オリンピック(東京オリンピック)の開会式、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響により近代オリンピック史上初めて前年夏の開催日程から延期、無観客開催を経て開催。
8月
「パラリンピック学校観戦実施 コロナ禍で辞退も相次ぐ」
都内ではすべての会場が無観客開催に
実施会場のある自治体の子どもたちに競技を直接観戦してもらえるよう、「学校連携観戦プログラム」が組まれた。しかし都内すべての会場が無観客開催となり、都内での同プログラムは中止。茨城県では男子サッカー競技を観戦する学校もあり、感染状況や自治体の判断などによってその対応が分かれた。
保護者や学校関係者などからさまざまな意見や不安の声も挙がった。実際に観戦した子どもたちからは「一生の思い出になった」といった声が聞かれたものの、観戦を中止する自治体も相次ぐなど、その受け止めはさまざまだったようだ。
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20210824b.html
※参考/NHK首都圏ナビ
8月の主な出来事
・8月6日 午後8時30分頃、小田急小田原線の成城学園前駅〜祖師ヶ谷大蔵駅間を走行中の上り快速急行電車にて36歳の男が刃物を振り回し、逃げた際に転んだ乗客を含め10人が重軽傷を負った無差別刺傷事件が発生。事件を起こしたと見られる男は当日夜に身柄を確保された。
・8月8日 第32回夏季オリンピック(東京オリンピック)の閉会式。
・8月20日 山梨県富士吉田市の遊園地「富士急ハイランド」のアトラクション「ド・ドドンパ」で昨年12月から今年8月にかけて利用客4人が全治1〜3か月の骨折をする事故が発生していたことを山梨県が発表。
・8月30日 バイデン米大統領は米軍のアフガニスタン撤退が期日を前に完了し、911同時多発テロ事件直後から「テロとの戦い」を理由に約20年間行われた軍事作戦終結を表明。
9月
「今年度の自殺者数は過去最多を記録」
学校や教育委員会の不適切な対応に批判も
町田市の小学6年生女子児童、名古屋市の中学1年生女子生徒、旭川市の中学2年生女子生徒など、いじめが原因とみられる児童の自殺・死亡の報道が相次ぎ、学校や教育委員会の不適切な対応にも批判が集まった。
これらの事態を受け、文部科学省は9月21日、「いじめ防止対策推進法等に基づくいじめに関する対応について(事務連絡)」を発表。いじめの積極的な認知や重大事態対応、いじめの未然防止などを改めて周知した。
また2020年に自殺により死亡した全国の小中高生は、499人で、前年度の399人と比べて大きく増加し、過去最多を記録。
こうした状況を受け、文科省は2月に「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」を設置。6月23日には、「児童生徒の自殺予防に係る取組について(通知)」を出し、「SOSの出し方に関する教育」を含めた自殺予防教育や、相談窓口の周知などを提言していた。
9月の主な出来事
・9月2日 2019年4月、東京・東池袋で発生した東池袋自動車暴走死傷事故で、過失運転致死傷罪に問われた元通産省工業技術院元院長幸三に対し、東京地方裁判所は被告の過失を認め、禁錮5年(求刑:禁錮7年)の実刑判決を言い渡した。
・9月3日 日本の内閣総理大臣である菅義偉が同月に実施される自民党総裁選に立候補せず、辞任の意向を表明。
・9月5日 東京パラリンピック閉幕。
・9月13日 新型コロナウイルス感染症のワクチンの2回目接種を終えた人が全人口の50%を超えた。
・9月29日 菅義偉の自民党総裁としての任期が30日に満了することに伴う総裁選挙の投開票が行われ、岸田文雄が第27代自民党総裁に就任。
10月
「東京都のいじめの認知件数が大きく減少」
不登校児童生徒は増加
東京都が2021年10月13日に公開した「2020年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(東京都の公立小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校、高等学校、特別支援学校を対象)によると、いじめの認知件数は前年度より2万2041件減の4万2538件となり、すべての校種で減少した。一方、小中学校における不登校児童生徒は増加している。
いじめの内容は「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」が最多。ついで小中学校と特別支援学校は「軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする」、高校は「仲間はずれ、集団による無視をされる」となった。高校では「パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる」も多く見られた。
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2021/release20211013_01.html
※参考/東京都教育委員会ホームページ
10月の主な出来事
・10月4日 日本において菅義偉内閣が総辞職。自民党総裁の岸田文雄が第100代内閣総理大臣に就任。
・10月8日 上野動物園で6月23日に生まれた双子のジャイアントパンダの名前について、同園はオス「シャオシャオ」、メス「レイレイ」と命名したと発表。
・10月26日 眞子内親王が、大学時代の同級生で法律事務所勤務の小室圭さんとご結婚、皇籍離脱。
・10月31日 第49回衆議院議員総選挙実施。
・10月31日 東京都調布市京王線を走行中の特急の車内で男が乗客を刃物で刺傷するなどし、17人が負傷。そのうち、刃物で刺された乗客1人が一時意識不明の重体。男はハロウィン特有の仮装を身につけ、犯行に及んだ。
11月
「教員免許更新制の廃止を決定」
早ければ2023年度に廃止
文部科学省は、教員免許に10年の有効期限を設け、更新時に講習を義務づける「教員免許更新制」の廃止を決定した。2022年の通常国会で廃止に必要な法改正をめざし、早ければ2023年度に廃止される。
さらに文科省は、新制度に移行するまでの経過措置として、教員本人のニーズに合った講習を受けやすくする方策を講じると発表。講習の情報を検索しやすい情報提供サイトを立ち上げ、現状の「必修」「選択必修」「選択」の区分を2022年度に撤廃するという。
11月の主な出来事
・11月29日 東京地方検察庁特捜部は、約5300万円の所得税を脱税したとして日本大学の理事長・田中英壽を逮捕。
・11月30日 立憲民主党代表選挙を執行。決選投票の結果、泉健太が逢坂誠二を破り党代表に選出。
12月
「小学校高学年に教科担任制導入へ、教員950人増員」
コロナ感染防止の効果も期待
政府は2022年度から小学校高学年で始まる「教科担任制」について、教員950人の増員を決定。2021年12月22日に文部科学省の末松信介大臣が発表した。4年間で3800人程度の定数改善を見込んでいる。
文部科学省は小学校高学年における教科担任制の推進について2000人、4年間で8800人の定数改善を要求していたが、財務省との折衝の中で、小規模校における中学校教員の活用、中規模・大規模校の小学校内における授業交換等の工夫により、最終的に950人増で折り合ったとのこと。
https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00220.html
※参考/文部科学省ホームページ
12月の主な出来事
・12月1日 敬宮愛子内親王(としのみやあいこないしんのう)、20歳の誕生日を迎え、成年皇族となる。
・12月3日 「教育再生実行会議」を廃止し、新たに「教育未来創造会議」を設置。
・12月6日 アメリカが2022年北京オリンピックの外交的ボイコットを表明し、カナダやイギリス、オーストラリア、ニュージーランドもこれに続いた。
・12月8日 実業家の前澤友作と平野陽三がロシアのソユーズMS-20で宇宙飛行。日本の民間人として初のISS滞在。
・12月17日 大阪市北区曽根崎新地の雑居ビル4階で火災が発生。25人が死亡、3人が負傷。
新型コロナウイルス発生から2年が過ぎ、感染対策のためのマスクと消毒がすっかり日常になってしまいました。通常の授業はもちろん修学旅行や遠足、運動会などにもいまだ影響があり、子どもたちにとっての大事な年間行事を変更または中止せざるを得ない状況は、先生としてもなんとも歯がゆいことでしょう。
2022年には世界に、そして学校に平常が戻ってくることを、編集部も心から祈っています。
参考記事/『総合教育技術』2022年1月号、ほか
構成/畑俊行