中教審答申「令和の日本型学校教育」で教育はどう変わるか?

中央教育審議会が2021年1月にとりまとめた答申で示した「令和の日本型学校教育」。これまでの日本型学校教育のよさをどう受け継ぎ、発展させていくのか。そのポイントを読み解くとともに、具体的な実践の在り方について考えます。

撮影/金川秀人

新しい時代の義務教育の在り方とは

中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜」は、新しい時代の初等中等教育の在り方について2019年4月より議論を重ね、その後発生したコロナ禍による社会状況の変化をも加味した上でとりまとめられました。「Society5.0」といわれる新たな時代およびコロナ禍などの先行き不透明な時代にあるべき学校教育の姿を提言するものです。

では、そこで示されている義務教育の在り方とはどのようなものでしょうか。答申では、まず誰一人取り残さず質の高い教育を受けられることが国の責務であるとした上で、9年間を通した教育課程、指導体制、教師の養成等の在り方について一体的に検討を進める必要があると指摘。具体的な教育課程については、本答申の柱である「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現による学力の確実な定着等の資質・能力の育成や、必要に応じて学習指導要領に示していない内容を加えるなどの補充的・発展的な学習指導の促進、さらには学校や地域の実態を踏まえたカリキュラム・マネジメントの充実などを求めています。

また、義務教育9年間を見通した指導体制の構築や専門性を持った教師によるきめ細かな指導の充実のために、小学校高学年からの教科担任制の導入や、小学校・中学校両方の免許取得の促進、中学校教員が小学校の免許を取得しやすくする制度の弾力化といった具体策も示されました。

9年間を見通した新時代の義務教育の在り方について
(1) 基本的な考え方
●我が国のどの地域で生まれ育っても、知・徳・体のバランスのとれた質の高い義務教育を受けられるようにすることが国の責務
●義務教育9年間を通した教育課程、指導体制、教師の養成等の在り方について一体的に検討を進める必要
●児童生徒が多様化し学校が様々な課題を抱える中に あっても、義務教育において決して誰一人取り残さな いということを徹底

(2) 教育課程の在り方
1,学力の確実な定着等の資質・能力の育成に向けた方策
●ICT環境を最大限活用し、「個別最適な学び」と「協
働的な学び」を充実していくこと 各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教 育課程の編成・充実を図る ほか
2,補充的・発展的な学習指導について 
ア,補充的・発展的な学習指導
●指導方法等を工夫した補充的な学習や学習内容の理解
を深め広げる発展的な学習を取り入れる ほか 
イ,特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する指導
●知的好奇心を高める発展的な学習の充実や、学校外の 学びへ児童生徒をつないでいくことなどについて実証 的な研究開発を行い、更なる検討・分析を実施
3,カリキュラム・マネジメントの充実に向けた取組の推
進
●各学校や地域の実態を踏まえ、教科等間のつながりを 意識して教育課程を編成・実施ほか

(3) 義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方 1小学校高学年からの教科担任制の導入
●義務教育9年間を見通した指導体制の構築、教科指導 の専門性を持った教師によるきめ細かな指導の充実、 教師の負担軽減等ほか 2義務教育9年間を見通した教師の養成等の在り方
小学校と中学校の免許の教職課程に共通開設できる授 業科目の範囲を拡大する特例を設け、両方の免許取得 を促進ほか

(4) 義務教育を全ての児童生徒等に実質的に保障するた
めの方策 1不登校児童生徒への対応 ・SC・SSW の配置時間等の充実による相談体制の整備、 教育支援センターの機能強化、不登校特例校の設置促 進、教育委員会・学校とフリースクール等の民間の団 体とが連携した取組の充実、自宅等でのICT活用等多 様な教育機会の確保など、個々の状況に応じた段階的 な支援 ほか 2義務教育未修了の学齢を経過した者等への対応 ●全ての都道府県・指定都市における夜間中学の設置促 進ほか

(5)生涯を通じて心身ともに健康な生活を送るための資 質・能力を育成するための方策 養護教諭の適正配置、学校医、学校歯科医、学校薬剤 師等の専門家との連携、学校保健情報の電子化ほか

(6) いじめの重大事態、虐待事案等に適切に対応するた
めの方策 ●困難を抱える児童生徒への包括的な支援の在り方の検 討、自殺予防の取組の推進等ほか
中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜答申【概要】」をもとに編集部作成

不登校およびいじめ・虐待などへの対応の充実

そのほか本答申では、義務教育をすべての児童生徒に保障するための方策として、不登校児童生徒への対応の充実、および夜間中学の設置・受け入れ拡大などによる義務教育未修了の学齢を経過した者への対応の充実も求めています。

さらに、健康リテラシーの育成などにより生涯を通じて心身ともに健康な生活を送るための資質・能力を育成する方策の充実や、関係機関との連携強化や教育相談体制の充実といった方策により、いじめの重大事態や虐待事案等に適切に対応することも課題として示しました。

本答申で示された「令和の日本型学校教育」の実現には、GIGAスクール構想の実現によるICTの活用が前提となります。また、これらの方策をいかに教員の負担を増やすことなく実現するかというマネジメント面の工夫も必要です。「個別最適な学び」と「協働的な学び」をいかに実現していくかがポイントになります。

取材・文/葛原武史(カラビナ)

『総合教育技術』2021年6/7月号より

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!

学校経営の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました