#50 素直な気持ちで夢や希望を追い求めていこう【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

前文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官/十文字学園女子大学教育人文学部児童教育学科 教授

浅見哲也

1年間の最後の授業を「道徳」にすることにしたロベルト先生。テーマは夢について。夢を叶えるのは努力して現実のものにすること。みんなでつくった映画の中のセリフを流用しながら子どもたちへエールを贈ります。

第50話 最後の授業

日めくりカレンダー

中学生になるとほとんどの子が同じ中学校に進学するが、3組では2名の子が、みんなとは違う中学校へ入学することが決まっていた。1人は花崎真理さんだ。彼女は私立中学を受験して見事に合格し、都内の中学校へ通うこととなった。自分の道をまっしぐらに突き進んでいくところが、本当に彼女らしい。

そして、もう1人。それは亮太だった。父親の転勤で埼玉県を離れ、愛知県の中学校へ行くことになった。みんながそれを知った時には、男の子も女の子も驚いた。でも、一番辛いのは亮太自身だ。亮太は強がってはいたが、どことなく寂しさを感じていた…。

子どもたち全員で作った卒業カウントダウン日めくりカレンダーが1枚1枚剥がされ、卒業まで残り3日となった。毎日卒業式の練習が入り、クラスで子どもたちと授業ができる時間も限られてきた。

そうした状況の中で、私は、子どもたちとの最後の授業で、この1年をどんなふうに締めくくろうかと1週間前くらいからずっと考えていた。そして私は、最後の授業を「道徳」にすることに決めた。

テーマは「夢」。私は授業のために短編のお話を作った。話のあらすじは次の通りである。

主人公の誠也がお姉ちゃんに誘われてダンスの発表会を観に行くと、その魅力に取りつかれ、ダンスを習い始める。ところが、クラスの友達にダンスを習っていることを知られると急に恥ずかしくなり、素直にダンスを続けることができなくなる。

誠也が自分の夢について考えていると、マンガ家になるために、ノートにぎっしりとマンガを描いている友達がいることに気付く。誠也はダンスのオーディションを受けることになり、そこで同じ夢を見るたくさんの人に出会う。そして、これからも素直な気持ちで自分の夢を追い求めていこうと決心する。

というストーリーだ。

なぜ、私はこのような話を使って授業をしようと考えたのかというと、今の子どもたちは、それなりに夢は抱いていたとしても、特に努力をせずに憧れで終わってしまったり、夢をもちながらすでに諦めていたりするような様子も見られる。

また、本当になりたい職業があったとしても、周りの目を気にし過ぎて、素直な気持ちで努力できない子もいる。生まれてからまだたったの12年。未知の可能性を秘めた子どもたちが、夢を諦めるのは早すぎる。

子どもたちにはたくさんの夢を見て、追い求めてもらいたい。そんな気持ちを込めてこの話を作った。

授業の中心は、「なぜ、誠也は自分の夢に対して恥ずかしくなったのか?」という場面だ。

「やっぱり男の子がダンスをやるのって、人に知られたら恥ずかしいよ」

「ダンサーになることを真面目に夢見ているなんて、笑われてしまうかもしれない」

「どんな夢や職業だったら恥ずかしくないのかな?」

「そうだなあ…、例えばサラリーマンとか公務員とか、そういう仕事だったら人前でも言いやすいかもしれない」

「恥ずかしい夢と恥ずかしくない夢の違いってあるの?」

「男の子らしい夢とか、女の子らしい夢があると思う」

「でも、今の時代は昔と比べて、ほとんどの職業は男女の関係なく働いているよ」

「自分の夢なのに、みんなはそんなに周囲の人の目が気になるの?」

「本当は自分の夢があるのに、自分に嘘をついてしまうときもある」

「夢を職業にこだわりすぎているところもあるかもしれないね。例えば、人のために役立ちたいとか、お金持ちになりたいとか、そういう夢だったらどんな職業だってその夢を達成できる可能性があるはずだよ。職業はそのための一つの方法や手段に過ぎないのかもしれないよ」

「ところでみなさんは、今大人になって活躍している有名人が小学生の頃に書いた作文を読んだことがありますか? では、世界で活躍しているプロ野球のイチロー選手の作文を紹介します!」

今はネット上に有名人の子どもの頃の作文が公開されている。それらの作文に共通していること、それは、具体的な夢をもっていて、その夢に向かって迷いなく努力を積み重ねているということだ。

「みんな、これからも自分の夢や希望に対して、いつでも素直な気持ちで追い求めていこうね。先生も、例えどんなに歳をとったとしても、少年のように純粋な素直な気持ちで、夢や希望を追い求めていこうと思っています」

私は、一呼吸おいて、最後の言葉を黒板に書き残した。

「すべてはつながっている!」

そして、1年間発行し続けてきた学級通信「BOYS & GIRLS」の最終号に、私はコメントを残した。

「なになに? 私の夢を叶えてくださいだって。無理無理。今の子は夢は一人前に言うくせに、努力もしなけりゃ、初めから諦めているじゃないか。そんなの叶うわけないよ」
これは、映画の中のゴーストのセリフです。
「夢」は思い描くものですが、「夢を叶える」のは努力して現実のものにすることです。あなたはどちらを選びますか。
「夢」をいくら語っても、何もしなければ口先だけの人になります。それよりは実際に黙々と努力する姿の方がかっこいいと思いませんか。しかし、それは決して簡単なことではありません。
また、映画の中で、なな子のお母さんがこんなことを言っていましたね。
「顔をあげてごらん。誰だってうまくいかないことはたくさんあるのよ。でもね。そこで諦めちゃだめよ。『ピンチはチャンス』って言うでしょ。今はつらいかもしれないけど、この苦しみを乗り越えれば、きっと今よりも、もっともっと強くなれるわ」
また、あきらはこんなことを言っていましたよ。
「ぼくは、このなわとびでがんばってみたい。ロベルト先生、ぼくにキャプテンをやらせてください」
何事にも前向きに、そして積極的に挑戦してほしいと思います。これは自分には関係ないから「知らない」「いらない」「やらない」ではいけません。
そして、ロベルト先生はこう言っていましたよね。
「『すべてがつながっている』ということだよ。つまり、体育着もきちっと着られない、いい加減な気持ちが、長縄跳びの7分間に出てしまうということだよ。だから、体育着だけでなく、靴そろえや挨拶もしっかりやるんだぞ」
この心構えを大切にしてください。そして…6年3組のみんな!

「のぞみ」「かなえ」「たまえ」

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文部科学省教科調査官)、画/小野理奈


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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